巨人キャッチャー陣で見るそれぞれのリードの違いと、リードは結果論でなく過程で見るべきという話
現在の読売ジャイアンツは、他球団と比べて突出している部分があまり少ないチームであります。
もちろん坂本勇人選手や菅野智之、昨年ホームラン王を獲得した岡本和真選手など個々では素晴らしい選手がおりますが、例えば打線が球界No.1であるとか、最強投手陣であるとかそういった事は言われませんよね。
過去には史上最強打線とか先発3本柱であるとかわかりやすい強みがあったわけですが、今は総合的に強くはあっても目立つものはない。
ただ一点、物凄く地味なんですが、今の巨人キャッチャー陣って実は球界トップクラスの層を誇ってるんじゃないかと思ってるんですよ。
まずは現在巨人の正捕手になっている大城卓三選手。2017年ドラフト3位で入団した大卒社会人の選手でありまして、いわゆる打てるキャッチャー。去年正捕手の座を掴むとベストナインを獲得するまでに成長しました。
大城卓三
その大城選手の前に正捕手の座に着いてたのが小林誠司選手ですね。守備力には定評があり、2017年シーズンにはゴールデングラブ賞を獲得。また同年にはWBC日本代表にも選ばれ大活躍した事は野球ファンの皆様の記憶に残っていると思います。
小林誠司
この2人がいるだけでも豪華なのに、巨人には更に2019年シーズンからFAで加入した炭谷銀仁朗選手までいるんですよね。
埼玉西武ライオンズ時代の2015年にベストナイン、同年と2012年にゴールデングラブ賞を獲得。同一チームのキャッチャーが3人もタイトルを受賞してるチームって巨人だけなんじゃないかな?
炭谷銀仁朗
更には若手の有望株である岸田行倫選手もいますし、キャッチャー陣に関しては素直に自慢できるポイントであるわけでございます。
面白いのは、メインである3人のキャッチャーそれぞれ売りが違うってところなんですよね。
まず大城選手の売りは先程も書きましたがバッティング。今月は不調に陥っておりますが入団してから去年までの過去3年間いずれもOPS.7台を記録しており、打線に厚みをもたらしております。
https://npb.jp/bis/players/21325136.html
小林選手の売りと言えばやはり肩、壁能力などの守備力でしょう。相手が盗塁を躊躇うほどの強肩と、絶対に逸らさない捕球能力。更にキャッチング能力に関しても優れていて、現在は二軍に甘んじておりますが守備力に関しては今でも球界最強キャッチャーだと、そう思ってるんです。
そして炭谷選手の売りとは何か。ここが今回の本題なのですが…彼は天性のリード能力を持っているキャッチャーだと思っております。
リードというのは、即ち配球ですね。投げるのはピッチャーですが、何を投げさせるかはキャッチャーが決めていると一般的には言われております。もちろんピッチャーが首を振ればそれまでなのですが、配球の決定権は基本的にキャッチャーにあると思って良いわけです。
そしてこれもよく言われる事なのですが…。
・リードは結果論か否か?
ピッチャーが投げた球をバッターがホームランにする。するとだいたい決まって「そこに投げさせたキャッチャーのリードが悪い」という議論が始まります。
つまり配球を指示しているのはキャッチャーなのだから、打たれるのなら必然的にキャッチャーの責任になるだろうと、そういうわけですね。
この意見に対抗するように言われるのが「リードは結果論」です。どんなに良い球を投げても打たれる時は打たれる。またはミットを構えた場所とまったく違うコースにピッチャーが投げてしまう事もある。
そういった事が頻繁に起こるのに打たれた時だけリードのせいにするのは違うんじゃないかと、そういう意味合いで「リードは結果論」という言葉が生まれたのではないかと思うのですが。
しかしリードが結果論なのであれば、そもそもリードなんて必要ないという結論になりかねない。
実際そういう考えで配球を考えているキャッチャーもおりまして、巨人で言えば大城選手はその典型的な例です。
大城選手はとにかくピッチャーに四隅のストレートを投げさせるのが好きなキャッチャーなんですよ。捕手の能力でフレーミングと呼ばれる技術がありまして、いわゆるキャッチングで審判にストライクをコールしてもらうという技術なのですが、彼はフレーミング大好きキャッチャーと言いますか(笑)
でフレーミング大好きキャッチャーにありがちなのが、際どいコースに固執するがあまり結果論を地で行くリードになるという点。
基本的に四隅、もっと言えばインローアウトローでストライクをもぎ取る事しか考えてないので、必然的にどちらかしか構えなくなる。でピッチャーは50%くらいの確率で逆球になってしまうようなので、例えばアウトローが内角の真ん中とか、インローが外角の抜けスラになったりすれば、数字上バラける。
大城選手が実際どんな考えでリードしているかはわかりませんが、中継で見ているとそういう意図を感じずにはいられないわけです。
リードにもいろいろございまして、大城選手が結果論型とすれば小林選手は投手中心型。つまりピッチャーの得意球であったり、投げたい球を中心に組み立ててあげるという、大変ピッチャーにはウケの良さそうなリードをしてあげているという印象があります。
例えば2017WBCのオーストラリア戦で小林選手はマウンドにいた中日ドラゴンズの岡田俊哉投手にまず「得意なボールは?」と尋ねました。
一死満塁で岡田投手が2球連続でボール球を投げてしまっていた状況でもあり、小林選手がとにかく自分の一番得意なボールを投げさせる事で落ち着かせようと考えたわけですね。
だからというわけでもないのでしょうが、小林選手は巨人の投手陣から厚い信頼を得ております。言ってみれば彼はピッチャーに気持ちよく投げさせる天才であり、気持ちよく投げさせるという事はそれだけ自信を付けさせるという事にも繋がるので別に悪い事ではないと思うんです。
ただ大城選手と小林選手それぞれのリードの特徴を鑑みると、どちらも相手打者目線にはあまり立てていないんですよね。
もちろん考えていないというわけはないのでしょうが、大城選手の場合は完全な確率論。小林選手の場合は「ピッチャーが良い球を投げれば必然的に良い結果が付いてくる」というような、投手準拠の組み立てをしているというイメージがどうしてもある。
それが悪いというわけでもなく、ただの特色なのですが、こと炭谷捕手に関しては、完全に相手打者目線でリードしているんですよ。
それがよくわかるのがこの画像なのですが。
スポナビのスクショです。5月15日対阪神タイガース戦9回表二死満塁の場面で、ピッチャーが野上亮磨投手。バッターはジェフリー・マルテ選手。
野上投手は回転の良いストレートを軸にコントロール良く投げるピッチャーでありまして、マルテ選手はストレートを潰すのが得意なバッター。この場面でストレートを投げるのはとても危険な状況。
といってボールゾーンの変化球をぶりぶり振ってくれるバッターかと言えばそうでもなく、マルテ選手は選球眼が抜群。そして浮いた変化球も当然打てるので、非常に厄介なバッターなわけです。
当然この場面でもストレートを投げず結果として打ち取れたわけなのですが、僕が驚いたのは3球目。
野上投手がカーブを投げた瞬間、この勝負ほぼ勝ったと確信しました。
「ほぼ」と書いたのはカーブがボール判定されたからなのですが(笑)もしストライクにしてもらっていれば完全に勝利を確信してましたね。
それはなぜか。
野上投手の変化球といえばチェンジアップ。次にスライダーというイメージ。どちらも空振りを奪うには少し難しいかなというボールでありまして、空振りを奪うのであれば回転数の良いストレートの方が効果はありそう。
…というのをマルテ選手もわかっていたと思うので、1球目のスライダーに手を出している。2球目のチェンジアップは見送り。ここまでは彼も想定内だったと思うんですね。
ただ3球目のカーブだけは絶対に頭になかったはずなんですよ。
ここらへんが炭谷選手を天性のリードの持ち主と称する理由です。一打同点、あるいは逆転という状況で、自分の得意球でもなければよく使っている球でもないカーブを投げるわけないと打者がそう思っているところで堂々と投げさせる大胆さ。更にはカーブを見せる事でマルテ選手のタイミングを狂わせ、その次の甘いスライダーでも引っかけさせる事に成功した頭脳のリード。
これ、僕は結果論ではないと思ってます。打ち取れたから3球目を誉めているわけではなく、3球目を見た時点で結果がほぼ予想できた。
つまり過程こそがリードなんですよね。
炭谷選手を見ているとたまにこういう事があって、今でも覚えているのが2019年6月30日に秋田こまちスタジアムで行われた東京ヤクルトスワローズ戦。リードしている場面で登板した大竹寛投手がピンチを作り、打席には今や球界最強バッターにまで成長した村上宗隆選手。
その彼も炭谷選手は大竹投手にカーブを投げさせて空振り三振に打ち取った。
言っときますけどカーブが良いわけではないですよ(笑)要はどうバッターを化かすかだと思うんです。マルテ選手にしろ村上選手にしろ、チャンスの場面で何を待っているのか、何を待っていないのかを至近距離から察知して、野上投手や大竹投手に普段あまり投げていないボールを投げさせる事で打ち崩していく。
その場の察知能力や投げさせる決断力こそが“リード”であって、そういう意味で炭谷選手はリードの天才だと思っております。
ただリードが良いから炭谷選手を正捕手にすべきなのかというと、う~ん…って感じなのですが(笑)何しろ炭谷選手はリード以外の捕手能力があまり高いように見えない。キャッチングもそんな良くない。スローイング、ブロッキングもいまいち。ついでにバッティングもいまいち(笑)まあ今月は打っておりますが。
バッティングで言えばやはり大城選手の方がトータルでは良い成績を残すと思いますし、守備能力で言えば小林選手の方がずっと信頼がおける。やっぱそれぞれ3人とも特色が違うんですよね。
だからある意味今の立ち位置が3人とも合っているのかもわかりませんね。炭谷選手は相手のいやがるリードで試合に出る一軍監督のような選手。そんな炭谷選手を間近で見てリードを勉強しなきゃいけないのが大城選手。小林選手は二軍でピッチャーの自信を付けさせたり取り戻させる二軍監督的な役割。
意外と考えられている布陣な気がしますね。
というところで今日はここまでにしておきます。個人的には活躍してくれればどのキャッチャーがレギュラーになっても良いと思っているので、これから例えば岸田選手が正捕手を奪っても、大穴で山瀬慎之助選手が抜擢されても、来年阪神の梅野隆太郎選手を補強してもそれはそれで面白いと考えております。
ただ今の3人をメインで回している以上、3人にはそれぞれ役割を全うしつつ頑張ってもらいたいですし、より勝利に貢献してくれる事を願ってやみません。
大城選手、小林選手、炭谷選手。これからも頑張ってください。
それではまた来週何か書くんで読んでやってください。それでは。