中井、大田、橋本らのレギュラー定着を夢見ていたあの頃と現在の話
昔話をいたしましょう。
2007年、優勝争いを繰り広げていた8月のナゴヤドームで12回表にタイムリーを放った若手がおりました。その選手はこれがプロ初ヒットであり、その時なんと高卒1年目(笑)長らく若手が育たないと言われていた巨人にあって、その選手の存在は希望そのものでございました。
翌年には開幕スタメンに抜擢され、そのまま全試合に先発出場。ショートのレギュラーとなり、今日まで活躍し続けている選手と言えば皆様おわかりですよね?
坂本勇人
昨年プロ野球史上2番目の若さで2000本安打を達成し、つい先日も400二塁打を達成したまさに生ける伝説であるわけですが。
坂本選手がレギュラーに定着した時、やはり巨人ファンは大いに喜んだわけですね。巨人でも若手が育つんだと。でその時になってふと二軍に目をやってみると、なんとなんと、坂本の他にも有望な若手がたくさんおったんですよ(笑)
例えば坂本選手の1つ下であり、1年目には坂本選手よりも良い成績を二軍で残した選手がいました。そして翌年一軍に上がると平成生まれの第1号ホームランを放ち、一気に巨人ファンの次なる希望となりました。
それがこの選手。
中井大介(巨人時代)
更にその翌年、巨人は2人の有望高卒選手を獲得。1人は福岡ソフトバンクホークスとの競合の末獲得した大型の内野手で、原辰徳監督とも強い縁がありました。期待を込めてあの松井秀喜さんが着けていた伝説の背番号55を与えられると、1年目に二軍で17本塁打を放ち、将来の4番打者を嘱望されておりました。
もう1人はドラフト4位で入団した選手でありまして、小柄ながらパンチ力のある打撃と強肩、好守備で巨人ファンのハートを鷲掴み!三拍子揃った選手としてこれまた将来のレギュラー定着を期待されました。
大田泰示(巨人時代)
橋本到(巨人時代)
この3人の他にも坂本選手の同期入団で左の長距離砲として期待されていた田中大二郎選手とか、中井選手の同期でドラフト1位入団の俊足内野手藤村大介選手とか、当時の巨人にはキラキラした若手がいっぱいいたんですよ(笑)
当時は坂本選手の成功で若手に夢を見れた時期でありまして、僕だけでなく他の巨人ファンの皆様も当然のようにこの5人が将来レギュラーになってくれると疑ってなかったように思います。
まあだから、当時の予想としてはこういう感じですかね。
1藤村大介(二)
2橋本到(右)
3坂本勇人(遊)
4大田泰示(中)
5中井大介(三)
6田中大二郎(一)
今見たら年齢層固まりすぎだろ(笑)って感じなんですが、それでも当時は夢を見ていた。
現に中井選手は2013年にセカンドではありましたがレギュラーを掴みかけ、橋本選手は2014年と2016年はほぼレギュラーで出場。大田選手も2015年には4番打者としてチャンスを与えられ、藤村選手は2011年にレギュラーになり盗塁王を獲得。残念ながら田中選手はあんまり出れなかったのですが、それでも期待していた5人のうち4人は最低でも一度はレギュラーになれるところまで行きかけたんですよ。
しかし。
今のプロ野球を観ている人ならわかりますよね。今現在、読売ジャイアンツには全員おりません(笑)
例えば藤村選手ですが、先程も書いたとおり2011年に盗塁王を獲得するも打撃が開花せず出場機会が激減。2017年に解雇され、そのまま引退し球団職員に。2019~2020年の2年間三軍でコーチを務められました。
藤村大介(コーチ時代)
大田選手は巨人ではなかなか芽が出ず2016年オフに北海道日本ハムファイターズにトレード。日ハムでレギュラーを勝ち取り4年間活躍するも今季は不調で二軍暮らしが続いています。
大田泰示(日ハム時代)
不調とはいえ現在1億円プレイヤーですからね。
橋本選手は幾度となくレギュラー奪取のチャンスがあるも生かしきれず、2018年オフに東北楽天ゴールデンイーグルスへと金銭トレード。しかし1年で解雇され、引退を決断しました。
橋本到(楽天時代)
そしてサムネにもした中井選手ですが…2013年にレギュラーを掴みかけるも守備で怪我をしてしまいフェードアウト。翌年以降自慢の打撃が戻らず、それでも2018年まではCSまで一軍にいたのですがオフに原監督が戻ると解雇。横浜DeNAベイスターズに移籍し3年間現役を続けていましたが先日二度目の戦力外を通告され引退されました。
中井大介(DeNA時代)
このように、10年前レギュラー定着を夢見ていた若手も現在現役で残っているのは大田選手ただ1人。
あの日見ていた夢は、儚く散っていったわけです。
・怪我をするという事
そもそも中井選手らはなぜ巨人でレギュラーを取れなかったのか?
「巨人」「若手」「レギュラー取れない」というワードを並べると、まず真っ先に思い浮かべるのは補強の2文字だと思います。確かに巨人は積極補強をするチームであり、例えば中井選手がいるはずだったサードのポジションには2012年から村田修一現一軍野手総合コーチがFAでやってきましたね。一度はレギュラーを掴みかけたセカンドには2014年から片岡治大現三軍野手総合コーチがFA加入。更に2016年には千葉ロッテマリーンズからルイス・クルーズ選手を引き抜いてきた。
確かに補強という障壁はあったわけです。
じゃあ補強してるから今も若手が出てこないのか?といわれると、それはちょっと違います。現在巨人のサードを守っているのは岡本和真選手で、25歳の生え抜き選手。セカンドには吉川尚輝選手がほぼレギュラーを獲得していて、こちらも27歳の生え抜き。
岡本選手は村田選手が退団した翌年にレギュラーを掴み、吉川選手も片岡さんやクルーズ選手がいなくなってからの選手なので当時の中井選手とは状況が違いますが、それでも補強を考えさせないだけの活躍はしている。
大田選手や橋本選手に関してもそうですね。当時の巨人は外野手はレフト以外補強してなかったものの、センターには長野久義選手が君臨していた。ライトが唯一の競争ポイントでありまして、現在の外野の方がむしろ補強で移籍してきている。2019年には広島東洋カープから丸佳浩選手がやって来ましたし、2020年にはワシントン・ナショナルズからへラルド・パーラ選手が加入。今季はベイスターズから梶谷隆幸選手が移籍してきてまあこれでもかってくらい補強している(笑)
しかしそんな厳しい状況の中でもレギュラーを掴んだ選手がいるんですよ。
松原聖弥
先日彼を題材にしたnoteも書いたんですが、この選手育成ドラフト出身ながら並み居る競争相手を押し退け現在ライトのレギュラー。今日まで24試合連続ヒットを放つなど普通に戦力として定着しているわけです。
このように、補強しようが何しようが出てくる奴は出てくるわけですよ。とはいえ中井選手らに実力がなかったのか?というと、そういう事でもない。
彼らの運命を分けた要素、それはずばり丈夫さに他ならないと思うんです。
例えば中井選手ですが、2年目に平成生まれ第1号を打ったというのは書きましたよね。その後流れに乗っていければ良かったのですが2010年に怪我をして一旦レギュラー争いから後退。それでも3年後に再度レギュラーを掴むチャンスが訪れたのですが、これまた先程書いたとおり守備中の怪我で離脱。二度もチャンスを不意にしてしまった。
橋本選手に関してもそうですね。彼は巨人で通算1000打席以上立っており挙げたメンバーの中では最もチャンスを貰っていた選手なのですが、彼がレギュラーに挑戦した2014年に肉離れで2ヶ月戦列を離れ、以降怪我に苦しんだ。
元々体格が優れない選手でありましたから耐久性もあまりなかったのでしょうが、センスのある選手だっただけに怪我をして自分の能力を下げてチャンスも減っていく姿を見るのは歯がゆかった。
大田選手も2015年のオープン戦で4番打者として起用され続けましたが、ホークス戦で肉離れをしてしまい開幕アウト。復帰後しばらく一軍で4番起用されましたが、結局は打棒振るわずチャンスを逃した。
この3人に共通してたのは怪我なんすよね。こじつけでもなんでもなく、怪我さえしてなければレギュラーを奪えてただろうと今でも感じます。
一方で岡本選手、松原選手は丈夫なんですよ。怪我をせずに試合に出続けられるからチャンスを貰え、そこで結果を出してレギュラーになっていった。もちろんこれから先の事はわかりませんが、少なくとも岡本選手は2018年から3年連続で規定打席に到達し去年は二冠王も獲得しましたし、松原選手も今年規定打席到達確実。吉川選手は怪我がちな選手でありましたが去年に規定打席に到達しています。
大田選手にしても日ハムに移籍してからは怪我をせず活躍したおかげでレギュラーを獲得できましたし、どんなに才能があっても怪我したらチャンスを貰えなくなるんですよ。
それに怪我をすると打撃がおかしくなっちゃったり、身体能力が劣化して元の力を発揮できなくなったりと本当に良いことがない。
怪我しないのも才能のうちなんでしょうね。
それでも2010年代前半、彼らが僕らに夢を見せてくれたのは事実です。
大田選手の長打力には無限の浪漫を感じましたし、中井選手のバッティングにはセンスを感じた。橋本選手は走塁守備を含めて一流でしたし、本当になんとかレギュラーになってもらいまいと願っておりました。
まあ10年代後半には伸びないまま一軍戦力になってしまった中井選手に苛立ちアンチ化してしまったのですが、それでも彼に希望を抱いていた時期があったのも事実であります。
で、まあ曲がりながりにも長い間野球を見てきて、気付いた事があるんですよ。
・希望は“記号”である
よく意味がわからないですよね(笑)
何かっていうと、僕は当時中井選手や大田選手や橋本選手にレギュラーになってもらいたかったんすよ。子供の頃から巨人ファンでありましたが人生に影響するほどのめり込んだのは20歳くらいから。その当時出てきたのが坂本選手であり中井選手らであったので、その人らしか見えてなかった。
要するに僕にとって最初の若手だったんですね。
だから特別愛着がありましたし、レギュラーになってもらいたいとも思った。
でも、今になって考えてみるとそれはちょっと違うのかもなと。
現在、中井選手がいるはずだったサードには岡本選手が。セカンドには吉川選手が筆頭候補としていて、大田選手がいるはずだったセンターには丸選手。橋本選手がいる予定のライトには松原選手がいます。
岡本選手も丸選手も松原選手も、2010~2011年当時には意識もしてなかった選手達です。それはそうで岡本選手は当時中学生だったわけですし、松原選手は高校生。丸選手はカープの若手でしかなかったわけですから当然ですわ。
ですがそんな人達が今巨人にいてレギュラーとして試合に出ている。
中井選手というのは強打のサードになってほしかった人であって、その強打のサード役は岡本選手が担っている。
タイプは違いますが不動のセンターになってほしかった大田選手の代わりに丸選手が不動のセンター役で試合に出ている。
橋本選手にになってほしかった強肩攻守のライト役には奇しくも同じ仙台育英高校出身の松原選手がやっているわけで、選手に拘らなくともそれぞれのやってほしい役柄は他の選手がやってくれてるんですよね。
当時の僕は視野が狭くて巨人にいる選手しか見れてなかった。しかし毎年のようにドラフトで選手が入ってくる世界でありますし、FAで誰かが入ってくるかもしれない。
そんな中でレギュラーなんて誰かが掴めばそれでいいんですよ(笑)
9つあるポジションの中で絶対にこの人でなければダメみたいなポジションなんて存在しないわけです。無論巨人で言えばショートは坂本選手でなければダメですが、それは坂本選手が実績を残してきた結果であって最初から与えられたものではない。
競争、または補強していく中で誰かが出てきて埋めてくれれば良い。その選手が物足りなければ他の選手にチャンスを与えてやれば良い。そういう世界なんですよね。
という意味での“記号”ですね(笑)僕らは選手に希望を託すよりも、強打のサードなら強打のサードという役割の中でいろんな人に希望を持っていればいい。そうすればいつか誰かが競争を勝ち抜いて枠に収まり、活躍してくれる。
野球に限らず、世界はそんな風に回っていくんだろうと思います。
あの頃夢見ていた中井大田橋本田中藤村が打線にいる巨人と今の巨人。どちらが良かったのかはもう比べようがありませんが、僕は今の巨人の面子も大好きです。まあ各々不満はありますが(笑)
あの頃描いていた未来とは少し違いましたし、今が満足というわけではないけれど。
でも振り返ってみたら、あの頃の若手しかいない巨人よりは今の方が健全なんだろうなと感じますね。
というわけで今回はここまでで終わらせていただきます。最後まで読んでいただきありがとうございました!
最後になりましたが、中井選手現役生活お疲れ様でした。あなたを嫌いな時期もありましたが、好きな時期も確かにありました。そして第2の人生に幸あらんことを願っております。
それでは。
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