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オートファジーで手に入れる究極の健康長寿ー抜粋① 「スイッチ」ジェームス・W・クレメンテ 著

はじめに
スイッチ
あなたが考える、健康で長生きするための「秘訣」とはなんだろうか。「血糖値のバランスを保つ」「適正体重を保つ」「運動をする」などが頭に浮んだのではないだろうか。確かに、いずれも素晴らしいが目標だが、とても大切なポイントを見落としている。これらは、きわめて効果的な老化防止プロセスである「オートファジー」を誘発する手段に過ぎないということだ。
 
オートファジーとは、細胞内で損傷・老化して有害な影響をもたらす細胞小器官(細胞内でさまざまな働きをしている器官や構造)や粒子、細胞内細菌(病気を引き起こす微生物)を取り除き、再利用する方法のことだ。オートファジーには、免疫系を強化し、がんや心臓病、慢性炎症、変形性関節症、うつ病や認知症などの神経変性疾患の発症リスクを大幅に低下させる効果がある。
 
このプロセスは、細胞内の「mTOR」と呼ばれるタンパク質の働きが抑制されることで誘発される(反対にmTORが活性化するとオートファジーが抑制される)。本書では、このmTOR複合体を「スイッチ」と呼ぶ。
 
細胞がその生命を健全な状態に保つには、内部でさまざまな化学反応をひたすら実行し続けなければならない。それをしているから私たちは生きていられる。この化学反応は細胞内の無数の構成要素の間に重要な関係を作り出し、いくつもの経路でつながっている。これらの化学反応は、総称して「細胞代謝」と呼ばれる。mTOR複合体による作用も、ほぼすべての細胞で起こるこうした代謝プロセスの一つだ。健康・長寿効果があるとされるさまざまな介入方法はすべて、実質的にこのスイッチを調節する手段に過ぎない。
 
このスイッチは、照明器具の調光器のようなものだと考えて欲しい。つまり、つまみを片方の端に向けて回すと光が強まり、逆に回すと弱まる。人類は体内でこの「成長」(mTORが活性化)と「修復」(オートファジー。このプロセスは長期化することもある)の生物学的なスイッチを絶え間なく回したり戻したりできるように進化してきた。
 
だが現代人は、このスイッチを常に「成長」の方向にひねり、「修復」の方向にはほとんど(あるいは全く)回さないような生活を送っている。このスイッチが「成長」にあるとき、「細胞のごみ収集車」の働きをする「修復機能は」動きを止め、細胞内の廃棄物(異常タンパク質や病原体、機能不全の細胞小器官)を取り除く能力が低下する。「オートファジー」という単語はギリシャ語で「自分自身を食べること(自食)を意味する。殆んどの細胞が備えている強力な自己浄化機能である。細胞内部の分解システムに触れた論文は数十年前からあったが、その仕組みが解明されたのはつい最近である。2016年には、東京工業大学栄誉教授の大隅良典(分子細胞生物学を専門とする日本人の生物学者)が、体内でのオートファジーのメカニズムを解明した功績によりノーベル生理学・医学賞を受賞した。大隅教授の研究は「21世紀の大発見」と称賛され、医学を新たなパラダイムに導いた。
 
21世紀のパラドックス
25歳以上の読者に残念なお知らせがある。あなたは今、医学的に見て「老化」が進んでいる。ある種の生物学的な変化は、生まれてから25年後にギアが切り替わるように加速する。細胞の働きが変化し、成長ホルモンの分泌は減る。新陳代謝のペースも一段落し、脳は完成に近づき、筋肉と骨の量はピークに達する。顔のしわに気づき、夜更かしすると肌つやが悪くなり、高校時代よりも5キロ体重が重くなり、原因がよく分からないだるさや不眠症などを経験する。変化は一夜にして起きたように見えるが、そうではない。
 
生物学と医学の優れた研究論文の数も、爆発的な勢いで増えている。こうした急激な変化の中、私たちは今、以前に比べてはるかに病気のリスクや寿命をコントロールしやすくなった新時代に突入しようとしている。私たち生活習慣や医療に関する決定に大きく影響するはずのこの新しく重要な情報は、国民の健康政策を担う政府や、私たちを治療する医師には殆んど知られていないのが現状だ。一昔前に比べて伝染病や感染症で命を落とす不安は大幅に減ったが、現代は、身体に悪い食べ物の摂りすぎや、身体を動かす機会の減少といった問題を抱える人が増えている。その結果、加齢と共に、さまざまな病気にかかるリスクが高まっている。だがそれは、食生活や生活習慣の改善、画期的な薬やサプリメントの使用などによって、かなりの割合で予防可能だ。
 
2019年、権威ある医学雑誌のランセットに、「全世界の死亡者の死因の2割は、単なる不健康な食事である」という驚くべき研究結果が掲載された。良質で栄養価の高い食べ物が手に入らないからではなく、砂糖や塩、肉の食べ過ぎが、心臓病やがん、糖尿病、認知症などの21世紀の主な文明病を引き起こす原因になっているのだ。不健康な食事によって命を落とす人は、喫煙や高血圧が原因で死ぬ人よりも多い。今日の世界では、慢性病の主な原因は食事である。現代人の多くは食べ物に困ってはいない。にも拘らず、不適切な食事によって病気になっている。慢性疾患のリスクを調べた結果、最適な代謝状態にある米国人はわずか12.2%、つまり8人のうち1人しかいないことがわかった。代謝が正常な状態とは、「血糖、トリグリセリド(中性脂肪)、HDL、血圧、胴囲の五つのパラメーターで、薬の助けを借りずに基準値レベルを維持していること」と定義されている。

【新型コロナの重症者・死亡者はこのような数字から予想されるのかも知れない。基本的に脆弱なのだろう】。この結果も、私たちが自分で食事をコントロールできる状況にあることを考えると残念である。
私たちを死に追いやっているのは不適切な食事だけではない。量も問題だ。今日の食品業界は、消費者に過剰な量を摂らせようとしている。その結果、多くの人は食べ過ぎていながら栄養不足になっている。これは現代のパラドックスだ。
 
食事に関する情報が混乱し、減量や健康増進を望む人々の間に大きな不安を引き起こしていることも、この問題に拍車をかけている。それは「低糖質(ローカーボ)か低脂肪(ローファット)か」や「菜食主義か肉食か」といった議論に目を向ければ直ぐにわかる。メディアには矛盾した情報が溢れ、食品メーカーの宣伝の内容も疑わしい。現代では栄養に関する話題は、極めて対立的で政治的なものになってしまった。
 
食べ物は「不安や病気の源」ではなく「喜びや栄養の源」と誰もが思っている。そのため、私たちは食べ物と病気になるリスクとの関係についてはあまり考えない。例えば喫煙が肺がんの原因であることはよく知られているが、清涼飲料水やベーグル、チーズバーガーの摂りすぎと、アルツハイマー病や心臓病、大腸がんになるリスクとの関連性は殆んど意識されていない。
 
私がこの分野にのめり込んだ理由
2013年、食事制限(カロリー制限とタンパク質制限)、断食(間欠的、長期的)、ケトジェニック・ダイエット(超低糖質の食事)の三つの食事法についての科学を深く掘り下げようと決心した。私が知りたかったのは次のことだ。
「これからの食事法が有益な効果をもたらす原因は何か」
「これら三つの食事法が健康と寿命を向上させるメカニズムは似ているのか、それとも異なっているのか」
本書は、これらの疑問に答える。私は論文を500本ほど読み終えた時点で、mTORと呼ばれる細胞内複合体と、mTORの働きを抑制することで活性化されるオートファジーが健康と長生きの鍵を握っているかもしれないと気づいた。
 
そして、カロリー制限や間欠的断食、超低糖質の食事が寿命を延ばすのに
極めて有効なのは、それらの食事法にこの代謝のスイッチの方向を変える作用があるからではないかという仮説を立てた。
 
若い30代40代の人も出来るだけ早く、健康に意識を向けるべきだ。健康的なライフスタイルを身に付けて日々を過ごせば、70代や80代になっても50代のような感覚のままで生活できる。以前は、長寿に生活習慣が影響する割合は65%から75%で、残りは遺伝的な要因で決まると考えられていた。しかし最近の研究では、生活習慣の割合は90%以上となっている。自制心を持ってスーパーセンテナリアンを目指せば、健康的に長生きできるのである。
 
 
本書のテーマは、私たちの体内で日常的に機能しているべきなのに、おそらくは何年も眠ったままになっているプロセスである「オートファジー」の力を目覚めさせ、それを活用して、スーパーセンテナリアンの遺伝子を持たない多くの人の寿命を延ばすことだ。現在、世界各地でオートファジーに関する臨床試験がいくつか行われている。本書では、このスイッチを再びオンに戻す方法を紹介していく。
 
現代では、農業や食品保存の技術が進歩したことで、食生活における利便性は高まったが、反面、それらは老化を早める原因にもなっている。砂糖(や異性化糖=ブドウ糖と果糖を主成分とする液状糖)、単純糖質、穀物飼育された蓄肉(悪玉の脂質が豊富)、大量の乳製品(スイッチを「オートファジー」とは逆の「成長方向」に保持するタンパク質を含む)などの非常に消化の早い食べ物がいくらでも手に入るようになったからだ。【要するに上記の食品を摂ると老けるのが早くなる】
 
現代人の食事にはが著食物繊維が著しくく不足しており、消化器系や、腸内細菌叢と呼ばれる腸内の微生物の健康に悪影響が生じている。腸の役割はあまりクローズアップされないが、代謝障害や病気になるリスクと非常に密接な関係がある。本書の目的は、この老化の加速を逆転させ、再び、自然な食事や運動を取り戻すことだ。それによって、「スイッチ」(mTORとオートファジー)のバランスを保てるようになり、数世紀前にはまれだったが現在では広く蔓延している加齢に伴う疾患の予防が可能となる。
 
mTORやオートファジーはまだ新しい研究分野で、細胞活動への刺激や最適化に関するものを含め、これから明らかにすべきことが沢山ある。本書は、これまでの研究結果に基づく知見を土台に、栄養の知識や、薬剤、ビタミン、サプリメント、生活習慣などについてのアドバイスの他、あっと驚くような情報も提供する。例えば、ある毒素が身体に良いとされ、ある種のナッツがほかよりも特別な効果をもたらすことや、現在大流行中のパレオダイエットや狩猟採集民ダイエット(旧石器時代ダイエットとも呼ぶ。人類が進化の過程で食べてきた物を模倣することをコンセプトとする食事方法)に高血糖や体重増加、骨量減少、腎臓障害、がん細胞の増殖といったリスクを生じさせるおそれがあることは、まったくと言っていいほど知られていない。
 
私はこの分野の多くの研究者と同様、このスイッチを制御するメカニズムが現代医学における最も重要な発見の一つだと確信している。この知識を日々の生活に応用すれば、身体の衰えや生活習慣病の影響を出来る限り受けずに年齢を重ねられるようになる。つまり、「死亡率曲線を平行に」出来るわけだ。(加齢によって健康状態を損なうことなく、病気にかかりにくく、死の直前まで健康が続くことを意味する。スーパーセンテナリアンと呼ばれる110歳以上の超長寿者の多くが、このような形で死を迎えている)。

【私はこのノートのブロガーは、現在朝食抜きの二食を20年近く習慣としている。西・甲田式健康法やマクロビオテックなどを学んだ頃からしているが慣れれば問題なく誰でもすんなり入って行けます。1週間に1度や2度は24時間断食(前の晩の夕食の後、翌日の朝食と昼食を抜くと24時間になる。その日の晩の夕食は食べていい)。出来る限り動物性の食事はしない。魚も丸ごと食べられる小魚。大きな魚は動物の肉を食べているのと同じだから避ける。冠婚葬祭のときは羽を伸ばす】。
 

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