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オートファジーで手に入れる究極の健康長寿③「スイッチ」抜粋 ジェームズ・W・クレメント著

第2章
ごみ運搬車とリサイクル工場

肥満は世界中で大きな問題になっている。特に欧米式の食生活が普及している先進国ではそうだ。一般には、この数十年の間に肥満の蔓延を引き起こした大きな原因は、都市化だと考えられている。しかし最新の大規模研究は、それとは異なる結果を示している。農村部では都市部よりも急速に人々の体重が増えていて、生活習慣病が広範囲に蔓延する大きな原因となっている。それが肥満の増加と関係していると考えられている。
 
私がこれまで読んできたあらゆる文献は、生活習慣病が加齢と関係していることを示している。若いうちにこうした病気にかかる人は殆んどいない。学べば学ぶほどこれらの病気に関する問題は複雑であることも分かってきたが、同時に二つの事実が浮んできた。

一つは、カロリー制限(CR=calorie restriction)と間欠的断食(IF=intermittent fasting)が、実験動物の寿命を大幅に延ばし、がんや心臓病にかかりにくくなることが、80年近く前から、研究によって明らかにされていることだ。また、神経疾患の治療に広く用いられているケトジェニック・ダイエット(糖質の摂取を極端に控える食事療法)にも、研究件数は少ないものの同様の抗がん・抗心疾患効果が見られることも分かっている。

もう一つの事実は、110歳以上(スーパーセンテナリアン)の人々の遺伝子の中に2種類のまれな変異があり、それがさまざまな疾患を予防すると考えられていることだ。この二つの遺伝子(FOXO3とIGF-1)は、前述した食事療法の影響によって生じる血糖とインシュリンの変化とも関係している。【簡単に言えば、血糖値をあげる食事(炭水化物、特に精白した穀類や加工食品やあらゆる甘味料の摂取が悪影響している】。
 
私はカロリー制限、間欠的断食、ケトジェニック・ダイエットについてさらに深く理解するために、科学文献を徹底的に調べた。興味の対象は、これらの食事療法が身体に作用するメカニズムは同じなのか、それとも違うのかということだった。寿命延長や病気を予防する遺伝子、治療法、薬剤、ビタミン・サプリメント、ライフスタイルなどに関するこれらの論文には、一つの共通点があった。
 
それはこれらが、細胞内でmTORの働きを抑え、オートファジーの作用を活性化させていることだった。私はこの仮説への裏づけを求めて、さらにmTORとオートファジーに関する論文を600本読んだ。そして分かったことは、オートファジーを活性化させる有力な方法(唯一ではない)は、インシュリンやインシュリン様成長因子1(IGF-1)の影響をブロックすることだった。

インシュリンやIGF-1は、mTORを活性化させ、細胞を「成長」モードにする。【IGF-1の分泌を増加させるには動物性食品・乳製品を摂取すること、つまり肉や牛乳・チーズ・バター・アイスクリーム・ケーキ類などを頻繁に大量に摂ると老化が早くなりや病気にもなりやすい】。
 
この章ではオートファジーの働きについて詳しく見ていく。細胞はオートファジーによって、欠陥のある細胞小器官や機能不全のタンパク質、病原体などの危険物や不要物を分解する。これは細胞内の自然かつ巧妙に制御された分解メカニズムであり、身体の中で起きている解毒、修復、自己再生の絶えざるプロセスだ。

分解された物質の一部は新たにタンパク質をつくるためにリサイクルされ、ミトコンドリアなどの新しい細胞小器官の生成にも用いられる。また、オートファジーが胎児の段階から多彩な役割を果していることも明らかになってきている。成長や老化、細胞再生、免疫に影響を及ぼしているため、十分に機能していないと、炎症性疾患やがん、パーキンソン病やアルツハイマー病などの発症リスクが上昇する。
 
「オートファジー」という用語が生まれたのは半世紀以上前のことで、クリスチャン・ド・デューブが細胞がその構成要素を分解・再利用するプロセスを説明するためにつくった。オートファジーは非常に複雑で多様なプロセスだが、日常生活で生まれたごみを分解・再生するための「細胞が元来備えているリサイクル装置」と考えルト分かりやすい。

オートファジーは、私たちの身体を常に良好な状態にしてくれる。細胞内の欠陥物を取り除き、がんの増殖を止め、代謝を正常に保ち、肥満や糖尿病などを予防する。オートファジーを活性化させれば、身体の中で起きている炎症(多くの病気や不調の原因になる)が鎮まり、老化が遅れ、病気の発症リスクが減り、身体の機能が最適化される。
 
オートファジーの仕組み
生命とは破壊と構築の絶え間ないサイクルである。分子を分解・再編成し、新しい化合物をつくるというごく単純な化学によって、細胞が形成され、成長、維持、複製を繰り返す。こうした活動によって、酵母などの単細胞生物から人間に至るまで、生命は制御されている。だが、この破壊と構築作業の一部が大幅に妨げられると生命のプロセスは機能不全に陥り、最終的には死に至る。
 
オートファジーは、この破壊のプロセスを最大限に活用する。オートファジーが起こることで、細胞内の不要物は除去またはリサイクルされる。破損、機能不全、ミスフォールド(折りたたみ不全)など、欠陥があると見做された(「タグ付け」された)細胞内の構成要素が、オートファジーの標的になる。
 
基礎的な説明をしておこう。
オートファジーという現象は、細胞内で段階的に進んでいく。まず、三日月あるいはカップ形をした扁平な二重構造の膜が形成され、膜は成長しながら細胞内の不要物を包み込む。完全に包み込んで球状になったものをオートファゴソームと呼ぶ。細胞内の残骸や異物を掃除しないと炎症の原因となり、さまざまな病気の引き金となる。

細胞の炎症は、糖尿病や心臓病、自己免疫疾患、認知症、がんなど、あらゆる種類の慢性疾患の共通項だ。外傷や感染症と戦うため、小規模な炎症反応が一時的に起きるのは問題ないが、長期に渡る慢性的な炎症は身体を蝕んでいく。慢性炎症を助長するものは、病気を引き起こす可能性がある。そのため、細胞が炎症を起こす前に、その原因となる細胞内のごみを取り除かなければならない。
 
オートファゴソームは、たくさんの種類の分解酵素を持ったリソソームと呼ばれる球状の器官とくっついて融合する。リソソームは体内にある小さなリサイクル工場と考えていい。廃棄物は、ここで廃棄かリサイクルかが決められ、リソソームによって分解された成分は細胞質(細胞内の核以外の領域)に放出され、細胞内で再利用される。

これらの成分にはヌクレオチド、アミノ酸、遊離脂肪酸、糖などがあり、新しいタンパク質に合成し直されたり、アデノシン三リン酸(ATP)という形でエネルギーを産生する。ATPは複雑な構造を持つ分子だが、私たちはこれが生命活動に必要なエネルギー源であることだけを覚えておけばいい。
 
このタンパク質と脂質の再利用プロセスは、飢餓状態に置かれたとき、細胞の生存を助ける。ミトコンドリアの機能を実際に調節しているのはオートファジーであることが、科学的に分かっている。これはとても重要なポイントだ。ミトコンドリアは人々が考えている以上に「強力な働き」をしているからだ。

これはATPを生み出す細胞小器官で、あらゆる細胞(赤血球を除く)に存在する。細胞内の酸素を使って食物(グルコースなど)の化学エネルギーを細胞が利用できる形のエネルギーに変換し、グルコースからATPを作るときには炉のように働き、酸素を燃焼して(使用して)二酸化炭素と水を放出する。
 
人間の身体には数十兆個の細胞があり、それぞれの細胞に平均100個のミトコンドリアが存在している。健康なミトコンドリアは私たちの健康と疾病予防の基礎である。ミトコンドリアが損傷し、機能不全になると、老化が加速するほか、自閉スペクトラム症、心臓病、糖尿病、がん、認知症など、さまざまな病気の原因になる。ミトコンドリアの数を増やすには、体内での自然な合成を促すだけでなく、オートファジーによって損傷したミトコンドリアを除去する必要がある。
 
オートファジーでは、細胞を殺さないように、細胞のどの部分をどの程度「食べる」のだろうか。科学者たちは、不要な細胞死を防ぎ、細胞の健康を保つために、自食の度合いと、何を廃棄しどれをリサイクルするかの判断は、巧みに管理されているはずだという仮説を立てている。例えば、栄養が豊富に手に入るときは、オートファジーの強度を調節するダイヤルは下げられ、飢餓時には上げられる。

哺乳類では、オートファジーは飢餓だけでなく、特定のホルモンや成長因子による生物学的刺激や、感染によっても誘発される。オートファジーはさまざまな不要物や有害物を幅広く取り除く他、細胞の損傷部分や有害な病原体を選別して分解できる。
 
おそらく生命の歴史において、オートファジーは細胞が飢餓状態に陥ったときに生じる、悪影響に対する防御策として進化を続けてきたのだろう。初期の頃は、原始的な免疫防御システムの役割りも果していたと考えられる。現在では、飢餓と病原体の侵略という二つの脅威から生命を守る役割りを担っている。
 
オートファジーの魅力は、細胞死をコントロールする能力にある。つまり、オートファジーは健康な細胞を保護し、有害な細胞を除去する能力を持つので、病気の治療に役立つ強力な武器になり得る。がんやアルツハイマー病のような神経変性疾患の治療に役立つかもしれないのだ。

以下に期待される病気の治療を記しておく。脳:神経変性疾患、うつ病、アルコール依存症、結節性硬化症、乳房:乳がん、膵臓:2型糖尿病、大腸・小腸:ボイツ・ジェガース症候群、カウデン症候群、皮膚:ボイツ・ジェガース症候群、カウデン症候群、全身性エリテマトーデス、脂肪:肥満症、メタボリック症候群、肺:肺がん、肺リンパ脈管筋腫症、血液:白血病・リンパ腫、心臓:心臓肥大、再狭窄、肝臓:肝細胞がん、2型糖尿病、脂肪肝、肥満症、メタボリック症候群、腎臓:腎細胞がん、糖尿病性腎症など。
 
オートファジーは生存装置の中核であり、生命を脅かす飢餓やストレスなどの深刻な脅威に立ち向かうための重要な役割りを担っている。このため、老化防止や病気予防のためにこのプロセスを促すには、飢餓とストレスという二つの力をうまく用いる必要がある。幸い、健康を損なうことなく、これを実践する方法がある。
 
コラム2 生きる力を高めるオートファジーの効果
オートファジーとは
*細胞内の損傷したタンパク質や細胞小器官、他の細胞成分を再利用する。また、アルツハイマー病などアミロイドに関する病気を引き起こす欠陥タンパク質から細胞を守る。アミロイドは体内の特定の組織に異常に蓄積されるタンパク質で、アルツハイマー病と深い関連性があるとされている。
 
*細胞に分子の材料とエネルギーを供給する。
 
*細胞内のミトコンドリアの機能を調節する。
 
*体内の複数の系統(神経系、循環系など)を保護し、身体機能を高め、健康な組織や臓器の損傷を防ぐ。神経系では、脳と神経細胞の成長を促し、結果的に認知機能や脳の構造を改善し、脳が新たな神経経路を介して自らを再構築する能力(神経可塑性)を高める。心臓では、心臓細胞の増殖を促し、心臓病を予防する。免疫系では、有害な病原体の除去を助ける。
 
*「ゲノムの守護神」として、DNAや染色体を保護し、がんや神経変性疾患などを予防する役割りを果す。
 
オートファジーで解明されたこと
*なぜ、がんと神経変性疾患の患者は、20世紀に劇的に増加したのか。
 
*なぜ、アルツハイマー病は3型糖尿病と呼ばれることがあるのか。
*日本の沖縄県やギリシャのアトス山などの「ブルーゾーン」には、健康長寿実現のどんな共通点があるのか。
 
*スーパーセンテナリアン(110歳以上の人々)とエクワドルのラロン症候群の低身長症の人々には、がんを予防するどんな共通点があるのか。
 
*ホッキョククジラとハダカデバネズミには、がんを予防するどんな共通点があるのか。
 
*なぜ、遺伝子が一つ違うだけで、寿命に甚大な影響が出るのか。
 
*なぜ、ラパマイシンやメトホルミン、レスベラトロール、メラトニンなどのカロリー制限に似た効果が得られる多くの薬剤に、老化防止効果があるのか。
 
*なぜ、ビタミンEなどの特定の抗酸化物質をとると、がんになるリスクが高まるのか。
 
 
オートファジーを無理なく誘導する
オートファジーが長く健康的に生きるための究極の解毒装置であるなら、その力を活用しない手はない。オートファジーは身体に健全なストレスを与えることで促される。そのための主な二つの方法である「食事」と「運動」について説明しよう。
 
食事
高脂肪、高繊維、低糖質で、タンパク質を最小限に抑えた食事をする。精製糖質と砂糖は避けて、健康的な脂質と食物繊維が豊富な野菜を多く摂る。オートファジーの強力な引き金となる間欠的断食の実践も検討しよう。次の方法で行えば、断食してもそれほど辛くないはずだ。まず、午後7時以降に食べない(夜食は禁止)これだけで12時間の断食を楽に始められる。次に朝食を抜く。これで16時間に延ばせる。その場合、1日の最初の食事は午前11時以降になる。
 
間欠的断食は、血糖値を上昇させるグルカゴンというホルモンを活性化する。血糖値のバランスを保つために、グルカゴンはインシュリンとは逆の働きをする。インシュリン値が上るとグルカゴン値が下がり。グルカゴン値が上るとインシュリン値が下がる。シーソーである。食事をするとインシュリン値が上ってグルカゴン値が下がり、食事を摂らないとインシュリン値が下がってグルカゴン値が上る。
 
グルカゴン値が上ると、オートファジーが始まる。そのため、間欠的断食を完全に実践して一時的に身体に栄養を与えないようにすることは、細胞の健全性を高める最高の方法と言える。

研究によると、間欠的断食は、細胞内のエネルギー産生や脂肪燃焼を促し、糖尿病や心臓病のような病気の発症リスクを低減させるが、それらの効果の全ては、断食によってオートファジーが起動することによって得られるものだ。

【日本では断食道場など「食べない」ことで治療する方法は知られているが、一般的には世界中で何らかの食餌制限を設けて健康に役立てる仕組みというものは昔からあった。断食・半日断食については故甲田光雄先生のクリニックが有名であった。西洋医学の出身の医学博士であったが「治せない医学」から断食療法に向かい難病・奇病も治療していた。これがオートファジーであったのかと思う。朝食抜きを日常化してから1日断食をするとすんなり苦痛も軽減される。13時14時頃がきつく食べたくなってしまうがその時は水分を摂ると良い。また、何かに没頭すると空腹感を忘れる。24時間断食は1ヶ月に1回か2回でいい】。
 
運動
運動が新陳代謝の促進や心肺機能の向上など、身体にいいことは誰でも知っている。しかし、運動がオートファジーを促すための身体への健康的な「ストレス」になることについては殆んど知られていない。運動は肝臓や膵臓、筋肉、脂肪組織など、代謝に関連する臓器でオートファジーを誘導する。運動とは筋肉を整え、つくる行為と多くの人は考えているが、筋肉は運動によって壊された身体組織が修復されることで成長し、強靭になる。
 
オートファジーを定期的に休ませる
人生にも言えることだが、この「スイッチ」でもオンとオフのバランスが大切だ。運動は身体に良いものだが、その効果には限りがある。例えば、激しい運動を長時間続けると運動によるプラス効果は薄れていき、マイナスの影響が大きくなる。この「収穫逓減の法則」はマラソン選手を見ればよくわかる。同じことがオートファジーにも言える。身体が組織を作り、体重を保ち、免疫機能を維持するためには、この体内の洗浄装置を一定期間、休ませる必要がある。
 
1年のうち8ヶ月はオートファジーのスイッチをオンにし、残りの4ヶ月は抑えるのが理想的だ。この比率(オン2、オフ1)を守れば、どの月にどちらを実践してもいい(例えば、オートファジーを2ヶ月ONにし、1ヶ月OFFにするサイクルを1年間繰り返す)。

オートファジーは細胞の機能を自分で強化できるツールであり、世の中の多くのことと同じく、バランスが重要だ。過度になっても、不足しすぎても細胞には害になる。

【日本の食養では上記のようにスイッチをオンとオフにとの記事は見たこと無い。ヒトも含めて動物は2食で十分と言う考え方。少食。動物性食品は「血を汚す」と言う考えなのでオンもオフもなし、オフのみ。成人後では成長は必要ない。外部から自前のホルモンを刺激するような食品は摂るべきではないという考え方。この本の記事が日本の食養を「科学的に進化した食養」にして勧めているのかは不明。欧米人は運動やサプリの摂り方などでもサイクルが好きみたい。身体が慣れてしまうのでオンとオフをつくる考え方だ。どっちが正しいか分からない】。

④に続く


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