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「ローマ人の物語」の嘘

 以前、何かの対談で、塩野七生さんが「小説家は本当のような嘘を書く」と述べていた。日本を代表する歴史小説家の司馬遼太郎さんを思いだして、全くその通りだと、納得したものだった。「ローマ人の物語」はまさに物語、小説であって、間違っても歴史書ではないのだが、本屋に行くと歴史書のスペースに置いてあり、勘違いする人もいるかもしれない。
 
 ペンネームDain氏の「私が知らないスゴ本はきっとあなたが読んでいる」から抜粋すると・・・・
 ・・・多くの研究者のこの本の歴史系雑誌のうち、最高の権威を持つといわれているのが「史学雑誌」。東大の史学会が出しているそうな。その第115編第5号(2006年5月号)のp.318にこうある(太字はわたし)。
最後に、昨年第十四巻「キリストの勝利」が出て完結に近づいた塩野七生「ローマ人の物語」(新潮社)について一言しておきたい。多くの研究者のこの本に対する態度は、「あれは小説だからエンターテインメントとして読まれるぶんには結構」というものだろうが、書店や図書館ではこの本は歴史の棚に並べられ、学生や市民講座の受講者から聞いたところでも、歴史書として読まれているようである。評者は既刊の全巻を通読してみたが、誤りや根拠のない断定が目に付き、ときには「聞き捨てならない」発言もある。この本のもつ影響力の大きさを考えれば、「あれは小説だから」で済ませてしまうのではなく、一度きちんと検証し批判すべきは批判する必要があるのではないだろうか。それと同時に私たちも、日ごろの研究活動に基づいたローマ史像を、積極的に社会に発信していくべきであろう。
 
 「ローマ人の物語」では、ある場面の詳細を書くにあたってこれこれの歴史資料を参考にしたと書いてあるが、あれもポーズであり、物語の一つと思って読んだ方がいい。会戦時の両軍の配置、各部隊の戦闘の進め方、戦闘による両軍の死者数、捕虜の数など、詳細に語っているが、多分・・・殆ど塩野さんの想像だろう。一事が万事、ようするに想像の物語であり、大筋で歴史の事実に沿っているわけだ。
 
 今、2,30年ぶりに再読している最中だが、勿論、物語を読んでいるつもりで楽しんでいる。もし、今から「ローマ人の物語」を読もうと思われる人がおられたら、最初の「ローマは一日にして成らず」はあまり面白くないから、後にして、「ハンニバル戦記」から読み始めることをお勧めする。

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