上場企業11.100年水道管
水道管最大手のK社が、水道管の外面に防錆のために特殊な金属溶射をして、寿命を100年にすると言い出した。
K社は新技術を開発したので、他の水道管2社(うち、1社が当社)に技術を(勿論有償で)供与する。それを技術標準にして、水道管の標準的寿命を従来の40年から100年にする、というものだ。主旨は理解できる。
K社が技術説明すると言うので、私と当社技術陣数名が先方に聞きに行った。金属の溶射技術はよく知られた普通の技術だが、照射する金属を「亜鉛+錫+α」にするもので、この組み合わせはK社が初めて開発したと自慢気に言う。
私は長く鉄鋼業にいた技術者だ。亜鉛と組み合わせるべきはアルミであることが常識で、「亜鉛+アルミ」をメッキした鋼板が世に出回っている。亜鉛・アルミの組み合わせなら、メッキ金属に強度があるし、万一表面に傷があっても、下地の鉄より早く亜鉛・アルミが酸化して鉄部の表面を覆う。錫は逆で鉄の酸化の方が早いので傷を深くする。しかも、錫の価格は高く、アルミの10倍に及ぶ。水道管で多量に使われれば、更に高騰するかもしれない。
何故アルミにしないのか訊くと、アルミはアルツハイマーの原因になる可能性があるから、水道管には使えないと言う。確かにはるか過去にさかのぼると、アルミがアルツハイマーの一因ではないかと、言われたこともあったが、昨今、アルツハイマーの解明が進み、今はそんなことを言う人は誰もいない。もしそんなことがあれば、ビールのアルミ缶はありえないし、アルミの鍋も食器もない。K社が開発を始めたのは数年前だろうから、アルミを避けた経緯がわからないでもないが、ともかくとんでもない時代錯誤、的外れだ。
当社は直ちに「亜鉛+アルミ+α」の溶射材料を用意し、水道管の外表面に溶射処理して腐食試験を行い、K社が主張する寿命を充分にクリアすることを確認した。K社に当社方式を主張すると、意外だったようで、当社の技術を軽く見ていたのだろう。技術論争になったが決着つかず、それでは両者で腐食テストしようと、お互いの方式で処理した水道管を交換して腐食テストを行った。当社での試験結果は甲乙つけがたく両者合格だったが、K社が溶射した金属は驚く程厚い、典型的な厚化粧だ。K社の試験結果では、K社処理が優れているというが・・・・嘘っぽい。
結局、最後は両方とも目標を満足するとして、規格では亜鉛以外の金属名を明記せず、どちらでもいいことになった。K社はこの件に非常にセンシティブで、当社の技術発表で比較されることを極端に嫌っていた。当社も、あえて刺激することはしなかった。武士の情けなのだ。