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「現役ですか?」

  引き続いて文芸春秋12月号の、内館牧子さんの連載「ムーンタルトは寝て待て」の第17回「現役ですか?」を紹介します。
 
 内館牧子さんは1948年生まれ、私と同時代を生きてきた人だ。著名な脚本家だが、2000年から10年間、横綱審議委員会の委員を務め、その間、朝青龍批判を展開したことを覚えている人が多いのではないか。今76歳、週刊誌の連載コラムを担当しているなど、間違いなく現役中だ。
 
 
 以下、「現役ですか?」の一部を紹介する。
 
 1年前に古い友人(91歳)からぶ厚い手書きの手紙が届いた。その友人は80代半ばで夫を亡くし、以降娘家族と同居していた。年賀状のやり取りだけで35年会っていなかった。高齢者施設に入ったという知らせだった。
 
 手紙の内容は・・・89歳まで何でも一人でやって来た、お風呂、トイレは勿論、時には料理をし、ボランティアに励み、稽古事の幹事も引き受けていた。その仲間たちと今後の計画などを話し、賑やかにランチもした。
 90歳になり、急に脚が弱り、もの忘れも出て、何の役にも立たなくなってしまった。これ以上は娘夫婦、孫に迷惑をかけられないからと、自分で入居を決断した。若いボランティア仲間から手ごろな施設を紹介された・・・
 
 住所は東京近郊の他県、かなり奥に入った風光明媚な地だが、生まれて91年、東京の騒々しい町中に住んでいただけに馴染めるだろうかと、心配していた。それから何度か地域の絵葉書や手紙が届いたが、回を重ねるごとに元気がなくなり、最後に「長年、お世話になりました。楽しい日々でした」とあった。以来、返事を出しても全く音沙汰はない。
 
 自ら決断したとはいえ、仲間と離れて施設で暮らし、個室から美しい空や山を見ながら、女学校時代、戦時中のこと、妻として母として奮戦したことを思い出していたのではなかろうか。それしかやることが無いのかもしれない。
 
 高齢者に何よりも必要なのは、現役感ではないか。まだ現役で他人の役に立てるという場。足腰が丈夫なうちから考えておく必要がある。しかし私を含めて仕事はずっと望まれるものではない。次に現役感を準備しておかねばなるまい。
・・・と結んでいる。
 
 
 内館さんは、友人の姿に自身の数年後を重ねて思うところを述べたのだろうが、私の勝手な想像だが、かの友人は体調を崩し、最後は覚悟してしていることを内館さんに伝えたのではなかろうか。なにしろ、その後「全く音沙汰はない」・・・・のだから。
 
 勿論、最後まで現役感を持ち続けたいが、普通、最後は病気か老衰で死ぬ。その時まで現役感を持つのは難しそうだ。病院でただ単に生かされるだけの延命治療はお断りして、自宅でその時を迎えれば少しは現役感があるかもしれない。しかしながら、看る人がどうなのか・・・・

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