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御嶽の定宿
2008年12月、小旅行の日記です。
先週の土曜日、西多摩霊園に墓参りに行き、
その足で青梅の先、御嶽まで足を延ばし、
大正時代の木造の宿、河鹿園(かじかえん)に一泊した。
青梅線で、御嶽の一つ手前の沢井で下車し、
多摩川の清流沿いの遊歩道を歩く。
川幅は10メートルほど、
急流が両岸の岩に当たり、しぶきが川面をまだらに白く覆い、
流れがよどんでいる部分は濃いコバルトブルーになり、
水面の明暗が際立っている。
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対岸の山は、緑の杉に覆われ、
紅葉の終わった桜や公孫樹などが、散在している。
日差しが雲に閉ざされ、靄がかかった薄い景色が
川の濃い青を引き立てている。
30分ほど歩き、今夜の宿、河鹿園に到着。
木造の建物に一歩足を踏み入れると、
大正時代にタイムスリップし、
ほのかに杉の香りのする部屋に案内される。
窓の下、10メートルほどには多摩川の清流が、音を発てて流れ、
川の向こうに落葉した公孫樹の大木があり、
そのすぐ後に、大屋根の玉堂美術館が白壁を見せている。
上の緑の山並みに、白い霧が薄っすらとかかっている。
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大風呂を占有し、ゆっくりと体を暖める。
食事は、山・川・海の多彩な素材が薄味に仕上げられている。
多摩川の音を聞きながら、冷酒を飲み、至福の時だ。
以降、河鹿園には季節ごとに何度も訪れ、
わが心のふるさと、定宿になった。