バイクで一人旅に出よう!(1)
名古屋からの旅は始まる
大学四年生の夏休みといえば・・・
就職組は就職活動にいそしみ
私の通う教育学部は 教員になるための勉強を必死で頑張っている時期・・・・のはずだが
私は 旅に出ることにした。
アメリカンバイクの後ろにテントと寝袋、自炊道具一式を詰め込み
名古屋から北海道を目指して下道を走る予定を立てた。
たった一人での旅だ。
バイクでの旅がどんな一人旅になるのか 全く予想できなかった私は
明日から夏休み!旅に出るぞ!という前日 あまりに緊張しすぎて
ストレスで ひどい頭痛と胃痛で 悶絶していた。
弱り切ってヘロヘロになっている私に向かって
母親が「なんでそんなに無理してまで出かけようとするの?
とりあえず、長野らへんまで出て行って、無理そうだなと思ったら
日帰りで帰ってきたらいいんだから。」と言ってくれる。
確かにそうだ。
最初からあの遠い遠い まだ足を踏み入れたことのない北海道を目指さなくても 普段 日帰りでツーリングに出かけるくらいの気持ちで
出かけてみよう!
そんな風に思って 夏休み初日 私は 気軽に長野あたりを目指すことにして出発する。
松本の市街地に差し掛かったころに、
突然空が真っ黒になり 雹が降ってきた。
バチバチ!と激しい音を立てながら バイクの私に向かって打ち付けてくる。なんてこった! まだ 数時間しか走ってないのに
旅のしょっぱなから ちょっと心折れそうになる。
車ではなく 遮るものがない バイクなので
一旦 屋根の下に避難しなくては!
たまたま見つけたマクドナルドに急いで逃げ込む。
そのマクドナルドには 私と同じように 雹から避難して 外を眺めている
数人の男の子たちがいた。
どうやら 私と同じバイク乗りらしい。
白馬のかぶり物をヘルメットにドッキングさせて、それをかぶって
バイクを走らせているようだ。
変な人だな・・・・とチラ見していると
心細そうにしている私に話しかけてくる。
「一人でどこに行くの?」と聞かれ
「北海道に向かってるです。」 と答える。
「へえ!そうなんだ! 今日さぁ この近くで バイカーたちの集まる
ミーティングがあるんだけど、一緒に行く?」
この人たちは 地元の兄ちゃんで
今日はその バイカーズ・ミーティングなるものに向かっているんだという。 それがどんなものなのか 全くわからない私は
「行く!」と即決する。
雹がやみ、暴風雨も収まり 青空が戻ってきた道を
どこか山の中に向かって
改造しまくった アメリカンが連なり 爆音を立てながら
颯爽と走っていく。
その中にチョコンと私のバイクも混ぜてもらい
爆音の集団とともに 山奥に走って行ったのだった。
到着するころにはすでに夕暮れで
テントの設営が始まる。
オーストラリアで野宿生活はしたことあるけれど
テントが違うと 勝手が違って 一人四苦八苦。
そこに 兄ちゃんたちが来て
これまた手際よく ささっと私のテントの設営をしてくれる。
朝 心細い顔で名古屋を出発した その夜
たった一人でテント設営できなくて ピエンと泣いていたであろう、
あるいは諦めて 家に帰っていたかもしれない私は
兄ちゃんたちの 助けがあって
心細さからも解放されて 救われたのだ!
あの時にぶち当たってきた 雹に 感謝しかない。
(この時代 携帯電話を持って旅をしている人は誰もいなかった。
帰ってこない娘を心配して待っているであろう母親に
今日は帰らないでそのまま旅を続けると告げる術は、
この山奥にはなかった)
朝になり 周りが良く見えるようになってくると
いるわいるわ・・・・すごい数のバイクたちが集まっている!
しかも 私みたいな改造してないバイクは ひとつも見つからない。
みんなが嗜好を凝らした それぞれ個性的なバイクに乗っているのだ。
改造したバイクは こんなんで運転できるの?って思うようなものもあって
このエリアに集まるバイクを見てるだけでも 博物館に来たような気分で
見ていて 全然飽きることはなかった。
「命の祭り」に行くことにする。
バイク兄ちゃんたちとの楽しい時間は あっという間に終わりになった。
さて、これからどうしよう?と思って 情報を集めてみると
近くの山奥で「命の祭り」がやっているというので
早速 向かうことにする。
今でいう 夏フェスみたいな感じだろう。
スキー場ひとつを丸ごと フェス会場にして
いくつかのメイン・ステージ、たくさんの人々、
牧草地帯には巨大なテント村 という大規模なフェスだった。
一週間も続く祭りに来てる人々は
なんというかもう
その「村の住人」って雰囲気でくつろいで楽しんでいる。
たった一人で行った祭りだったけれど
オーストラリアで出会い吹き続けていた ディジュリデュを
その場で吹いていると たくさんの友達ができて繋がっていく。
このころ旅をしながらディジュを持ち歩いている人も多かった。
(詳しくはオートラリア旅編をご覧ください!)
行き当たりばったりの旅に出たけれど
行くところ、行くところで 人との出会い、繋がりが連鎖して
不思議と このまま 風の吹くままに進んでいって大丈夫なんだ!と
少しずつ 確信が持てるようになってくる。
長野善光寺
「命の祭り」が終了し
さて、どこに行こう。
長野といえば「善光寺」に行かなくちゃ!と 足を向ける。
善光寺の脇に 信州大学があって
同じ大学生の身としては どんな大学なんだろうと興味があり
プラッと 覗いてみることにした。
運動場らしき広場でサッカーをしていた男子学生が
私がのんびり サッカーの様子を座り込んで見ているので
「何してるんだろう?この子は・・・」と 近づいてきて
声をかけてくれる。
「名古屋から出てきて北海道に向かっている」と伝える。
近くに停めてあった自分のバイクを指さして説明する。
彼は「俺もバイク 乗ってるんだよ! 一人旅か!最高だね!」と
一気に 気持ち的に 親しみを感じる。
「これからどうするの?」と彼。
「まだ何も決まってないの。」
「今日はどこに泊まるの?」
「それもまだ。何も決まってないの。
もしかして、大学内でどこかテント張れたりする場所ある??」
彼は「そうだ!いいこと考えた!一緒に来て!」と
自分のゼミの部屋に私を連れて行ってくれる。
部室のちょっと広いようなスペースが連なった
建物の中に案内してくれる。
「ここ!泊まっていいよ! 先生に聞いてくるからちょっと待ってて!」
走り去っていった彼。
まさか こんな屋根も壁もある 快適な場所に 泊まらせてもらえるの??
ポツンと待っている私の元に 彼が走って戻ってくる。
「先生、いいって!特別だから 一晩だけだぞ! 誰にも内緒で!」と
嬉しそうに 教えてくれる。
なんていい子なんだ!
ぶわ~~! 思わず泣きたくなりながら ニコニコうなづき返す。
さすがに 寝るまでには まだ時間があって
たった一人でそのゼミ室に籠ってるのも 寂しいと思ってくれたのか
「僕がこの辺案内してあげるから、乗って!」と
彼のバイクの後部座席を指さす。
自分のバイクあるけど?と思ってると
「リンゴ畑の中走るから 僕のバイクじゃないと無理なの!」
と笑って言う。
たしかに私の重いアメリカンじゃ 畑の中なんぞ 走れっこない。
彼のオフロードバイクの後部座席に乗せてもらうことにする
日が暮れた薄暗いリンゴ畑の中を
彼のバイクに乗って 走る。
木には リンゴがいっぱいなっていて
いい香りさえ なんとなく漂ってきて。
こんな風に さっき知り合ったばかりの男の子の背中にしがみついて
たわわになったリンゴの下を走り抜ける経験なんて
絶対に 後にも先にもないだろう。と思える 夜だった。
なんて素敵な「長野の夜」なんだろう。
その夜 私は 彼に借りたゼミの部屋でシュラフにくるまり
快適に寝ることができた。
朝、旅支度をして バイクの元に歩いて行く。
ハンドルに何かぶら下がっている・・・・。
白いビニール袋の中には いっぱいの桃が入っていた。
そのあとの道中 大切に 桃をかじりながら
甘酸っぱい思い出をかみしめながら
バイクを走らせていった。
新潟の海岸線に到達
長野からそのまま日本海岸に抜けて新潟に到着。
その後は日本海岸をそのまま北海道に向かって進む予定でいた。
海岸のすぐわきに テントが張れるキャンプ場があったので
そこで一晩泊まることにする。
ひとまず、海だ! 海だ! たった一人ではしゃぎ海水浴する。
秋田で野宿
新潟からそのまま北上して秋田まで到着する。
秋田に入ったはいいけれど なんのあてもない。
そろそろ日が暮れてくる・・・・
どうしようか?
たまたま寄った 市民公園の東屋が 広くて快適そうだった。
屋根もあるし!なんか よさそう!と
今夜はここに寝ることにする。
爆睡していた夜中に「すみません!」と声がする。
起きてみると 警察官だった。
私もぎょっとしたが むこうも 私よりも もっと ぎょ!っとしていた。
明らかに驚いている。
「ええっと・・・・・」寝起きの私がとりあえず 何か言わなくちゃと
声を出してみる。
驚いている警察官の様子を観察してみると
どうやら こんなところに まさか 女の子一人が寝ていると思わなかったらしい。寝袋から出てきたのは 若い女の子だったから
そりゃ 警察官も びっくりしたんだろうと思う。
「ここ、寝てちゃ いけないですか?」
「いや、あ、気を付けてくださいね。
何か大変なことがおきたら すぐに110番してくださいね」と。
なぜか 及び腰で優しく声をかけて 去って行った。
その夜は彼以外の訪問者はいないまま 無事に朝を迎えることができた。
しばらく洗ってなかった髪を
公園の水道で洗って 気持ちよくなって その足で十和田湖に向かう。
少しずつ 暮らしが 「ホームレス」に近づいてきた気がする。
青森の樹海を抜けて十和田湖にたどり着く。
そのまま青森から北海道の函館まで出ているフェリーに乗るために
夜遅くにフェリー乗り場に到着する。
すでに多くのバイカーたちが フェリーにバイクを乗せるのを待って
行列ができていた。
フェリーに乗ったら やりたいことといえば シャワー!
三時間程度で北海道に到着するので
フェリーで久しぶりに温かい湯を浴びることができた。
(次は北海道上陸!)
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