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コレで良い……いや!コレが良い………!【劇映画 孤独のグルメ 感想】

新年早々大当たりを引いてしまった。ファンは絶対見に行ったほうが良いぞ!






原作ファンです。


緻密なタッチで描かれる下町の風景や料理。スマートな言い回しで綴られる心理描写。そして何より、井之頭五郎の畜生っぷりが一週回って味になるという、何とも不思議な魅力に溢れた名作だ。


五郎ちゃんの畜生度でいうと、寿司屋回が真骨頂だろう。わざわざ自分のオーダーを通してくれたオバサンに向ける、何の根拠もない邪推が言いがかりレベルで笑う。


この回に限らず、何かとすれ違う人々に難癖を付けるのがジワジワ来るんだよな。自然食専門店回とか、ヒッピーへの偏見塗れだし。まぁ口には出してないからセーフなんだろうけど、五郎ちゃんを見てると「人間って………こういう節あるよな」と同族嫌悪に近い謎感情が溢れてくる。………悪い意味じゃないけどね?いや良い意味でもないんだけど。


あとは鰻丼回やコンビニ飯回、豚骨ラーメン回にて、胃のキャパを弁えずあれこれ手を出してしまう計画性の無さや、新幹線回にて室内をシュウマイ臭で包んだ挙句、タバコもフカし始めるデリカシーの無さも好き。


あ、ステーキ屋回とお茶漬け回のアームロックもお気に入り。関節を固めに行く流れが鮮やか過ぎて、読み返す度に味が出てくる。




いやー………ここまでマイナスな印象が強いののに、魅力的な人間に感じるのが不思議だわ。やっぱり久住先生の人物描写があってこそ為せる技なのかね?





……原作の話をしすぎたな。




勿論、ドラマ版も好きです。正直飛ばし飛ばしではあるものの、「再放送やってたらつい見ちゃう」ぐらいには愛着がある。年末年始はいつもお世話になってます。


松重豊が演じる五郎ちゃんは、原作と違って「可愛げのあるおじさん」感が強くて、これはこれで魅力的なのよな。顧客にダル絡みされて早く帰りたそうにしている様や、食事中しょーもないダジャレを挟む所に、ついニヤニヤしてしまう。原作も松重豊に感化されたか、後半からお茶目さが増えてきたよね。


あとは心の声のシュールさも魅力の1つだと思う。漫画だと特に気にならなかったのに、映像に落とし込まれた途端、「このおじさん、何1人で長々語ってるんだ?」とジワジワ来る。いやコレが好きだから良いんだけどさ。


あとは中年とは思えないくらいの大食いなのも笑う。他客のオーダーに感化されて追加注文する時の衝撃よ。「五郎ちゃんまだ食うんか!?」と何度ツッコんだ事か。原作だったら確実に残してたな。




………前置きが長すぎだ。今度こそ本題行きます。



そんな漫画・ドラマ共に高品質な名作、『孤独のグルメ』がついに映画化。


発表当時は目に見える地雷として警戒していたが、監督・脚本が松重豊本人と知り態度を一変。


「五郎ちゃん本人が撮ると言うのなら信じる!」


と、期待値を高めに劇場へ向かった。




───鑑賞後───









(いやー…………………)











(良い……思っていた以上に良いぞ!)





まず冒頭のフライトから面白い。ビーフorチキンで悩んでいたら食べるタイミングを逃し、碌な食事にありつけないまま着陸してしまう五郎ちゃんが可笑しくて仕方ない。豆菓子を頬張る五郎ちゃんに哀れみの眼差しを向けるおじさんにもジワジワさせられた。




パリに到着してからも、ニヤニヤは止まらない。




「腹が………減った」





ポ♪




ポ♪




ポーンッ♪





コレを劇場で見るシュールさよ。バックにエッフェル塔という劇場版ならではのリッチな画も相まって、散々見ているお約束が新鮮に思えてくる。



その後オニオンスープ&ビーフシチュー実食でも、相変わらずの五郎節が効きまくり。スープに浮いたチーズが固まって中々噛み切れないお茶目さで自然と表情が緩んでしまうのだが、更に肉とソースを絡めたパンを頬張って「フランスパン革命!」からの「俺はナポレオンだ!」で爆笑してしまった。


………と、いつも通り孤独のグルメを堪能していた所、五郎ちゃんは元カノの父親から「昔母が作ってくれた、いっちゃん汁を作って欲しい」という無理難題を押し付けられてしまう。露骨に嫌そうな表情の五郎ちゃんだったが、「直接五島市(故郷)に行ってみるしか……」という社交辞令を真に受けられ、泣く泣く長崎に飛ぶ羽目に。



………少し本題から逸れるけど、ドラマ版の小雪は他界しちゃってるのね。本編で言及されているけど私がその回見れてないだけか?



そして始まるスープ探しの旅。


序盤は順調に目当ての食材を手に入れていったものの、予約していた宿がある島行きのフェリーに乗り遅れてしまう五郎ちゃん。狙っていた食材を扱っている店もそこにしかないという危機的状況の中、彼はレンタルボートを勝手に持ち出し、自力で海を渡る暴挙に。案の定波に飲まれ、謎の島へ漂流。そこでも「まずは飯だ!」と、海岸に散らばっていた貝とその辺に生えていたキノコを鍋にぶち込み、何とか飢えを満たせたかと思いきや、キノコの毒にやられ泡を吹いて気絶してしまう。そして謎の施設に保護されるのだが、五郎ちゃんが流れ着いた島は、なんと韓国だった…………。


このボートを窃盗して韓国に違法滞在するまで流れがあまりにもぶっ飛び過ぎてて、終始笑いを堪えるのに必死だった。キノコを採る件とか、「毒だったらどうするんだよ吾郎ちゃん……それ見たことか!」ってなったからね。五郎ちゃんは腹が減ると周りが見えなくなるからなぁ………。



あとダニエルのキャラが良すぎる。寡黙な軍人キャラと思いきや、心を開いた途端お喋りな世話焼きになるギャップが最高だったね。わざわざ手渡しで、タラの練り物(正式名称忘れた)を持ってきてくれるの好き。あと滝山への当たりが強いのも笑う。


あと余談だが、五島市から巨済島(コジェド)までの距離を是非調べて見て欲しい。五郎ちゃんがどれだけの距離を漂流したかが分かって二重に笑えるから。普通は死んでるだろアレ。


その後島の人々に手厚いもてなしを受け、無事帰国できることになった五郎ちゃん。日本へ出発する前に、一度港を経由するのだが、そこでも彼の暴走は止まらない。サバ焼きの看板に釣られ、あれやこれやとメニューを舐め回し、いつも通り爆食いを始めてしまう。それを眺める現地警官の表情が最高だったね。不法滞在している身で好き勝手頼んでいる図々しさにドン引きしているのに笑うし、五郎ちゃんの食べっぷりを見て警官も食べたくなっている様が、まんま観客とリンクするのが可笑しくて仕方ない。

あくまでコレは憶測だけど、五郎ちゃん韓国の通貨持ってないよね?どうやってあの店で会計済ませたんだ?警官に払わせてるだろ絶対。


………と、ここまでひたすら笑える珍道中を楽しんでいた所、物語は少し真面目な方向へ。




五郎ちゃんは、内田有紀に紹介してもらった元夫のラーメン屋へ赴き、いっちゃん汁を再現してもらう様頼み込むのだが、この辺りの人間ドラマもほっこりして良かったね。既に職人としての志を失い、ラーメンどころかスープすら作らなくなっていたオダギリジョーが、五郎ちゃんが持ってきた食材の可能性に惹かれ、もう一度ラーメン屋としての情熱を取り戻す物語にジーンと来てしまった。映画のラストにて、完成したスープをどんぶりとセットで韓国に届けてくれる五郎ちゃんが余りにも粋過ぎて惚れる。


あと『孤高のグルメ』とかいう謎ドラマね!まさかあの世界にもおじさんが飯を食うだけのドラマがあるとは………。オンエアを見ていた子供が、「心の中でブツブツ言ってるのが面白いんだよねー」と観客の思いを代弁してくれてウンウンと頷いてしまった。エキストラ役で出演している五郎ちゃんを見て「輸入雑貨商は嘘なのかよ……」とまた軽く引いている警官にも笑う。



総括、「こういうのでいいんだよ、こういうので」。とにかくファンが見たいものだけで構成されていて最高だった。五郎ちゃんがトラブルに振り回されて、贅沢なご飯をたくさん食べるというお約束は勿論、最後はハートフルに締めてくれて後味も良しと、とにかく隙のない映画だった。


あとは『孤独のグルメ』を不特定多数の人々と一緒に見るという体験がとにかく楽しかった。私が見た回だとほぼ満席で、8割は70代くらいのじーさんばーさんだったんだけど、笑い所でクスクス聞こえる緩い空気感が非常に心地よかったね。体感、ダニエルの言動が一番ウケてたな。これは映画館に観てこその醍醐味なので、是非皆さんも劇場へ。



松重豊、ドラマに散々文句言ってるけど、ホントは演るの好きでしょ?これからも井之頭五郎として、全国各地のグルメを堪能し続けて欲しい。劇場版2作目も、絶対見に行きます。

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