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俺がノンデリなら、お前らはさぞ立派な人間なんだろうなぁ?【スピーク・ノー・イーブル 異常な家族 感想】

年末に来て、特大大当たりを引いてしまった。
誰か本作について、私と熱く語り合ってくれませんか?誇張抜きで、パディだけで3時間は尺持たせられるぞ。


ブラムハウスファンです。

頭のおかしい家族に監禁されるスリラー物という前情報だけ仕込んでの鑑賞。

感想としては…………今年観た映画の中でもトップレベルの快作だった。

本作は、ノンデリ男パディの不愉快な言動を楽しむ(?)映画だ。下品な言葉遣い、過剰なスキンシップ、価値観の押し付け(+etc)と、世の嫌われ者達を煮詰めたかのような人間性を延々と見せられる。彼の傍若無人っぷりに翻弄されるベンとルイーズの、苦悶の表情が観客にも感染していくのが見所だ。

本来であれば、招かれた家族側に感情移入するのが正しい鑑賞方法なのだろう。しかし私は、途中からパディ目線で物語を追うようになっていた。というのも、彼の無神経な振る舞いに、彼自身の信念を感じたのだ。

中盤、夫婦4人でレストランに行った際の会話を覚えているだろうか?そこでパディは、表面上の付き合いしかしない現代人に憤りを感じている旨の発言をしていた。

その一連の流れを見て、私はこう考えた。きっと彼は、建前や社交辞令、マナーといった、社会からの束縛に嫌気が差し、敢えて素の人間性を曝け出す生き方を選んだのではないだろうか?

しかもパディは、自身の言動にモラルが欠けている事を自覚している。おしゃべりなデンマーク人を下ネタで撃退していたのもそうだが、他者を不快な思いにさせるのを承知で、ベンやルイーズと接していたのだ。

それは何故か?正直な思いを打ち開けられない社会や、その象徴である彼ら夫婦を嘲笑う為だ。

「ほら、俺の言動で嫌な気持ちになったろ?でも何も言い返せない。お前達は礼儀(笑)とマナー(笑)を弁えているからなぁ!」

そんな心情だったに違いない。もはや彼ら夫婦がいつキレるかのチキンレースを楽しんでいた様にも見える。実際、アグネスが生理と偽って帰ろうとする様になってからは、過剰に煽る姿勢が目立っていた様にも見えるし。

クライマックスは、そんな過程を経た上でのルイーズの告白。ベンとの離婚を考えている旨を打ち明けた際、パディは「やっと本音が聞けた」とご満悦。これまで念入りにルイーズへストレスを与え続けた結果、ついに心の内を引き出せたのだ。自分の掌の上で思いのままに操れた快感は、相当のものだったろう。

この時点で私は、パディに対して憧れにも近い感情を抱いていた。素直にカッコいいと。

パディという男は、悪く言えばノンデリの極みだ。しかし、裏を返せば誰よりも正直ともいえる。社会というコミュニティに属す中で、正直で生きることがどれだけ難しいか。誰もが上辺だけのやり取りで薄っぺらい平穏を保ち続ける中、パディは唯一人、我が道を進み続けていた。その強かさに心打たれてしまった。

………まぁ現実だったらあんな奴とは絶対関わりたくないけど。ただ「自分もこんな生き方が出来たらなぁ」と思ってしまったのは本当だ。

あとはラスト、パディの最期についても語らせて欲しい。

彼はアントに撲殺される訳だが、殺される直前「それでこそ俺の息子だ」と、アントを賞賛する。この台詞の意図を紐解いていきたい。

改めてアントの過去を振り返って見よう。彼は実の両親を殺され、舌を切られ、挙句それらを引き起こした張本人であるパディと、家族ごっこを強いられていた。パディを殺したいと思うのは、人として当然だ。だからパディを殺した。

恐らくパディは、そんなアントを見て、ある種の「正直さ」と捉えたのではないだろうか?「殺したいから殺す」というのは、言うまでもなくモラルに反する。しかしアントは、その感情に身を任せた。いわばパディと同じ道に行ってしまったのだ。だからパディは喜んだ。自分がこれから死ぬのにも関わらず。そう考えると、アントは最後までパディの思う壺だったかもしれない。何とも皮肉な結末だろう。

まずい……パディについて語りだしたらキリがないな。

ホントはベジタリアンレスバに負けたルイーズとか、終始無能なベンとか、キアラが救われる方法はなかったのかとか、アントがカナヅチなのって両親が溺死させられてトラウマになったからなのでは?とか、語りたいことは沢山あるけどとりあえずここまで。

何度も言うけど、パディというキャラクターが最高だった。誇張抜きで、ハンニバル・レクターに並ぶレベル。映画史に残る名悪役だったと絶賛したい。1作で消費するには余りにも惜しいので、アント君の家族をメインに据えた前日譚を見せて欲しい。頼んだぜジェイソンブラム!

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