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今日は電子メールの日

例えばここにあるパソコン。これの仕組みについて私は何も知らない。聞いてもそんなに分からない。時空を旅して過去の世界で活躍するヒーロー・ヒロインの話があるけれど、
私はどこの時代へ行ってもそこそこのポンコツでしかないと思う。

それと同じことで電子ミールについても仕組みはわからない。覚えていることをつなぎ合わせてみるとこうだ。
悪い病気が流行りモノたちは外出できなくなった。そうして世界経済は混乱し、生産活動が一切ストップ。多くのモノたちが病気や飢えで死んだ。この頃の記憶はあまりない。ただ次々とモノが死に、私はなぜか病にかからず、生存者として保護され収容された。

そんな状況の中、天才が現れこの電子ミールを開発し、世界の危機を救った。世界はまた平穏に戻り、私も保護施設から団地に移り住むことになった。

電子ミールは世界政府管轄で送られてくる疑似食事映像だ。といってもそれは3D映像だけで、実際口にするのは蛇口をひねれば出てくる液体ミール。それに映像に映った食品のフレーバーを垂らすだけ。

今日の夕食は母と食べるフライドチキンとコーンスローサラダ。お八つにドーナッツって、健康に悪そうだけれど毎日こんな感じ。
この液体ミールは一人一人の年齢、体形、活動量を調整して量も決まっているし、栄養バランスも整っているそうだ。

このメニューは私の希望ではなく、非常事態を乗り切ったモノたちが精神的に患うことのないようにと配慮、準備されているらしい。私の家族などは、この事態以前に亡くなっているので、交代で現れる家族には違和感しかないけれど、健康のためと言われれば、反論する気などない。

気になるのはこの液体。これはその天才…ちょと難しい名で思い出せないけれど、が遺伝子組み換えで作り出した新種の豆で日の当たらない工場でもワンサカできるとの話だ。これについて知ることを私は避けている。本当のことなど何も知らないほうが幸せかもしれないし、不満に感じるほど不味くもない。

今では固形物を知らない世代もいてそんな彼らには歯磨きの習慣はない。歯など必要ないから生えないように治療するのがトレンド。僅かに自歯のある私などは魔女の類のように映るらしい。

お金になることに敏感で果敢なモノたちはいつの時代にもいるのだろう。今では食料品を作るのは重罪なのにルートはある。そして私もなけなしの金を払って、これを買う。今の時代食欲に負ける人間など屑なのに。

私は今、ご禁制の茶饅頭を手にしている。私の知っている茶饅頭は表面がツヤツヤしているのに、この手にした高額な茶饅頭に艶はない。けれども心地よい重さがある。表面をなめてみる。ああ、黒糖の香りがする。薄皮がはがれて舌にまとわりつく。

こんな刺激は電子ミールでは味わえない。いくら3Dでそれらしくとも液体は液体だ。死んでしまった家族も映像は映像でしかない。少しかじってみる。やっぱり歯は必要。茶饅頭の皮は硬くなっていた。中の餡子をかじり取るとき、歯が折れそうになる。茶饅頭に3本の前歯の形が残る。

ちまちま食べるなんて、面倒だ。一気に口に放り込む。
アッ、
のどに詰まった
茶饅頭。
恥ずかしいなこんな死にざま。
ああ、死ぬのだ。
だったらお茶も奮発して玉露を頼んでおけばよかったのにと…


検査官:窒息死で間違いないですか?

検査官B :はい、間違いありません。
お年寄りの窒息事故は今年に入って15件目です。

検査官:これさ、液体ミールを不法に固形化した
饅頭だよね。

検査官B: はい、無知なお年寄りをだます悪質な犯罪です。購入者は騙されて購入。固形物を摂取しておらず、のどが衰えた自覚もなく、罪悪感から慌てて飲み込み窒息です。

検査官:そうね、食べた人たちが最後まで液体ミールだと
気が付かなければ幸せなのかな?

検査官は歯のない口で笑った。

写真:O太郎


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ポリポリ
大変貧乏しております。よろしかったらいくらか下さい。新しい物語の主人公を購入します。最後まで美味しく頂きます!!