白石うーめんは愛だ
そーめんと何が違うの?
白石うーめんの悲しい運命とも言える質問が今日も白石市の青い空を駆け巡っているかも知れないと思うと、私もかつてはうーめんに同じ事を抱き、無下にしていたことを悔いている。
うーめん、ごめんね。
うーめんは温麺と書いてうーめんと読む。
宮城県白石市の名物と言えば言わずもなが、白石温麺だ。
見た目は短いそーめんに見えるが、その違いは製造過程で油を使う有無である。一般的にそーめんは油を使い作るのに対して温麺は油不使用だ。
白石市にはたくさんの温麺会社がある。
一見、ラベルが違うだけで皆同じ温麺に見えるが、会社ごとに麺に微妙な特徴があり面白い。
そのさっぱりとした歯触りと、喉ごしでいくらでも腹に収まる。
茹でる時にはひとり分で1束と言う目安を軽々と無視し、夫と2人で3束が基本である。
しかし、食いしん坊の私としては1人で2束をたいらげたい気持ちです。
白石温麺の誕生は400年前、白石市に鈴木浅右衛門と言う人が体の弱い父親に消化の良いものを食べさせたいと油を使わない麺を作ったことがルーツと言われている。
白石うーめんが短い理由は体力がない病人でもすすりやすくための工夫であった。
そう教えてくれたのは松田製粉の松田さんである。
私の結婚式を白石市内の神明社で挙げることになり披露宴会場を探した縁で知り合った。
松田さんの正確な年齢は分からないが、ご縁をいただいた時には高齢で、風のうわさでは少し前に他界されたと聞いている。
松田さんは無償で披露宴会場を提供してくださった上に、当日は袴姿でおめでたい詩吟を披露してくださった。
高砂を飾る花や季節外れにも関わらず食べると10年長生きすると言うエゴマの天ぷらまで準備していただいた。
何から何まで若輩者の門出に華を添えてくれた愛にあふれた人である。
温麺誕生のきっかけが人を想う愛だと分かると松田さんのお心遣いはまさしく、伝承された愛の形だ。
松田さんのお店は「うーめん番所」と言う。
かつてJR東日本のCMで吉永小百合さんが白石市内でうーめんを食べるシーンが流れていたが、撮影はうーめん番所だった。
松田さんは小百合御膳なるメニューも考案し、撮影時の小百合さんの様子を昨日のことのように話しては、微笑んでいた。
別の機会にうーめん番所を訪れると、他のお客にも同じく小百合談義をしていたので、よっぽど嬉しい出来事だったに違いない。
そりゃそうだ。日本屈指の大女優が自分の店の座布団に座るなど夢見心地の何ものでもない。
小百合さんが食べていたお葛かけという、温かいしょう油ベースの具だくさんあんかけの汁を、温麺にかけたメニューである。
私がうーめん番所で一番好きなメニューだった。
蔵王山から吹き下ろされる冷たい風に体が凍りつこうとも、お葛かけは体を温め、なおかつ胃に優しい温麺は最強で愛のある味だった。
残念ながら「うーめん番所」は松田さんの逝去に伴い閉店してしまったと聞いている。
まさかと思い帰省の合間にうーめん番所に足を運んだが、あの賑やかしい店内の雰囲気を味わうことは出来なかった。
うーめん番所のお葛かけでお腹を満たせないと分かると、今さらながら温麺への思いは強くなるばかりである。
時折、近所のスーパーマーケットで温麺を見かけるようになった。
製造元が松田製麺所とあった時には何百キロも離れた場所で再会したような気分に嬉しさは一塩である。
松田さん、安心して下さい。
温麺の愛は距離を越えて届いています。