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記憶力の悪さを強みに変えた者①
あるアメリカの医師のお話です。
著名な感染症の専門家で評判が高かったが、40台に差し掛かって自分のことを客観的に振り返るようになり、自分は小学校の頃から同級生より記憶力が悪いと思っていたことをふりかえりました。
もちろん、難関大学を入学卒業し、大学院での成績も優秀だったのです。
医学での成績は、暗記する能力がウェイトを締めます。いかに論理的に考えられても、病気の存在をわすれていたら、正しい答えをだせないからです。
彼は、詰め込みがとくいで、情報を何日かたまに入れておくことはできましたが、時間がたつと、記憶が頭の中から蒸発してしまうと、語りました。
医学での大学、大学院でも他の学生よりあきらかに記憶力が悪かったそうです。
また、そのように自分の「脳は配線されていた」と明言していました。
実際に神経学的検査を行ったところ、圧倒的なIQの高さとうらはらに、海馬の記憶の貯蔵能力は正常より低いことがわかりました。
その結果に対して、彼は、自分の記憶力の悪さについて客観的に評価が定まったことで、気が済んだようでした。
彼のIQの高さは、論理的思考と、分析的な問題解決能力が裏打ちしていました。
さらに、彼は、自分にはどの程度の記憶力があるのか、自分自身でわかる能力が高かったということです。これはメタ記憶と呼ばれます。
僕もこの先生と似たような経験をかなりしました。
大学を2つ卒業しましたが、試験で線引きされているとはいえ、一緒に活動していると、同級生と自分がぜんぜん違う人間であることにはいやというほど気付かされます。
例えば、医学部生のとき、病院に実習といって、医療現場を見学しに行きます。
学生は、指導する先生から、患者さんを目の前にして、「今の患者さんの異常な箇所は?」「どんな病気が考えられる?思いつくだけ挙げてください」「今後この患者さんはどんなことにきをつけなければいけない?」などといった質問を矢継ぎ早にされます。
今では経験があるので、答えられるケースも多いですが、経験がない場合は、昨日まで授業や教科書で習った知識で答えないといけません。
でも、僕はうまくできませんでしたが、同級生の中には、今までの勉強してきたことが全部頭に残っているかのような人がいて、すらすら答えて周りを圧倒する人がいました。
僕は試験が終わったら90%くらいの知識は頭から消えました。
「舌咽神経を英語でいうと?」など細かいことまで、そもそも舌咽神経すらあんまりあたまに入っていないのに、とっさに聞かれても答えられたりします。
学生時代に思いました、このレベルまで到達することは不可能だと。
つまり、記憶や、それを引き出す速さ、鮮明さに明らかに個人差があるのです。
医学生から研修医にかけて、知識、判断、行動のすばやさ、簡単ですが手技の正確さ、コミュニケーションなどいろんな能力を短期間でめまぐるしく実践する機会が豊富です。
全部がで来そうな人もいますが、大抵はどこかかけているものです。
僕が強調したいのは、自分と他人を比べることは、ここでは大事だということです。
他人と自分を比べることが心理学的に悪影響である研究報告はよくありますが、
このケースは意味が少し違います。
このエキスパート医師のように、他人と比べることで、能力には多くの種類があり、人それぞれ違っていて、”自分は”どうであるか認識することができるのです。決して人と比べて能力のなさをくよくよすることではないのです。
つづく