【毎週ショートショートnote(チクタク水兵さん)】[ 水兵さんの独り言 ]
↑↑コチラの裏のお題【チクタク水兵さん】に参加してみました。
珍しく、素直に『水兵さんの時計』でお話を作ってみました。
[ 水兵さんの独り言 ]
”チクタク、チクタク、チクタク、ジリリリリリリリリリん”
起きて! 起きてー!!!
って、君を起こし続けて、何年が経つのだろう。
なんの変わり映えのない、普通の水兵さんの格好をした目覚まし時計の僕。
可愛くもなく、お店で売れ残っていた僕を、君は可愛いと言ってくれた。
小学校の遠足の日の朝、初めて僕は君を起こしたね。
アレから何度も僕は君を起こし、その度に頭を叩かれた。
「水兵さん、うるさい」
って、言われながら。
卒業式も、高校受験の時も、もちろん普通の日も、いつも僕が起こしてた。
でも最近は、君を起こすのは、僕じゃない。
僕の横にスマホが置かれるようになって、そのうち僕は、アラームスイッチを入れてもらえなくなった。
時を刻むだけの水兵さんの目覚まし時計。
そのうち電池が切れて、僕は、時計としての役割も終えた。
でも、君はずっと僕をベットのそばに置いてくれた。
出かける時はいつも「水兵さん、行って来ます」と言ってくれた。
嬉しかった。
君を起こせなくなったけど、僕は幸せだった。
それから、たくさんの月日が流れた。
そして今日、君は僕に、電池を入れてくれた。
”チクタク、チクタク、チクタク”
時を刻むのは、久しぶりだ。
君は、時間をセットし、アラームスイッチを入れてくれた。
これで僕は、君を起こすことができる。
何年ぶりだろう、と、感傷に浸ってはいられない。
ずっと君のそばにいた僕は、ちゃんと知っている。
明日の朝、僕が君を起こす。
それは、君がこの部屋で起きる最後の日。
明日は君の結婚式。
とても大切な朝だ。
君は、君を起こす役割を、僕に託してくれた。
嬉しいし、とても幸せ。
でも、責任重大だから失敗はできないと緊張もある。
それと、少し寂しくもあった。
君は、明日、この家から出ていってしまう。
新しい家で、新しい生活が始まる。
君といられる最後の朝だ。
”チクタク、チクタク、チクタク、ジリリリリリリリリリん”
起きて! 起きてー!!!
僕は、時間通りにベルを鳴らした。
君がセットした時刻通り。
久しぶりだから、ちゃんとベルが鳴るか緊張したけど、あの頃と変わらない音を出すことができた。
”ジリリリリリリリリリん”
”ポン!”
君は、優しく僕の頭を叩いた。
「水兵さん、うるさい」
懐かしい感触と懐かしい言葉。
これを味わえるのは、これで最後。
大切な朝。
最後の朝。
僕は、しっかりと役目を果たして、そして役目を終えた。
売れ残っていた僕を見つけてくれたのが、君でよかった。
君と一緒にいられて、本当に幸せだった。
新しい生活でも、幸せになってね。
今まで、ありがとう…………。
───時は経ち。
”チクタク、チクタク、チクタク、ジリリリリリリリリリん”
起きて! 起きてー!!!
まさかね。
新しい家に、僕を連れていってくれるなんて、思いもしなかったよ。
こんな幸せなことはない。
”ポン!”
「スイヘイちゃん、うるちゃい」
と僕の頭を叩いたのは、君のお子ちゃん。
まさか、新しい家族も見守れるなんてね。
僕は幸せものだ。
ありがとう。
おしまい。
↓↓このお話は、この曲にナンカカンカされて作りました↓↓
↓↓この曲の原作は、鈴木おさむさんの小説です。↓↓
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鈴木おさむ「月王子」 / monogatary.com
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