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スケートボードはまちの未来を変えられるか?-スケートボーダーからの提案

藤 奏一郎
企画開発部⾨ コモンズグループ パブリックアセットユニット
プロジェクトアーキテクト

2023年4月21日、立川のGREEN SPRINGSにて『スケートボードでまちを変える-Welcome Skaturbanism』と題したカンファレンスが開催されました (主催:一般社団法人ソトノバ、協力:日建設計)。ゲストにはLeo Vallsさん(MAGENTA)、上野伸平さん(TIGHTBOOTH PRODUCTION)、吉田良晴さん(九九谷)をお招きし、日建設計からは藤奏一郎、上田孝明が登壇しました。本記事ではカンファレンスの内容を振り返ると共に、都市デザイン視点から見たスケートボーディングに焦点を当てたいと思います。

※写真TOP:カンファレンスの様子。右から吉田良晴氏、上野伸平氏、Leo Valls氏、藤奏一郎、上田孝明、泉山塁氏、西田司氏

Skaturbanismという思想

今回のカンファレンスは、昨年冬に藤奏一郎・上田孝明がヨーロッパ視察に行ったことがきっかけで企画がスタートしました。フランスのボルドーで、タクティカル・アーバニズム的なアプローチからスケートボードフレンドリーな場づくりを進めるプロスケーターのLeo Valls氏を訪ね、彼の取組むSkaturbanism(=Skateboarding+Urbanism、※以下、スケータバニズム)についてお話を伺いました。

スケータバニズムの概要

スケートボードに伴う3つの悪いイメージは「うるさい=loud」、「まちにダメージを与える=damage」、「危ない=dangerous」だと彼は言います。ボルドーでは、2016年にレオさんが地元のニュース番組で「スケーターは街を愛しているのに、街はスケーターを愛していない」と発言したことをきっかけに、市長を含む政治家や地元有力者と議論が始まりました。始めはスケートボードに否定的な意見ばかりでしたが、3つの悪いイメージを払拭するための施策を段階的に仕掛けることで、徐々に行政や市民の理解を得ていったと言います。
 
1つ目は、路上サインの変更です。ボルドーも日本と同じくストリートでの滑走は禁止されている場所が多かったそうですが、スケボー禁止のサインの横に、時間条件付で滑走可能とするサインを併記しました。

Leo Valls氏
ボルドーの路上サイン。時間制限付きで滑走可のサインと、滑走禁止のサインを併記 / photo by Leo Sharp)

2つ目は、スケートボードのアーティスティックな側面に着目した展覧会の開催です。日本ではオリンピック以降、競技としてのスケボーばかりが取り沙汰されています。本来スケートボードはストリートから生まれたものであり、滑走のスタイルが都市の特色を標榜するとレオさんは言います。そうしたカルチャーとしてのスケボーを写真・映像作品を通して一般の市民に知ってもらうきっかけとして展覧会を企画したそうです。

映像や写真で見る文化・アートとしてのスケートボードの展覧会には市長も来場した。

3つ目は、スケートボーディングマスタープランの策定です。6か月をかけてボルドー市内を文化課、スポーツ課の職員とめぐり、スケートボードに適したスポットを探し、数十か所をプロットしました。そのうち数か所には、スケボーでグラインドしても傷つきにくい花崗岩の安価なベンチを設置し、歩道の一般利用者とスケーターの共存を図りました。夜間薄暗く女性が一人で歩きにくい場所にベンチを設置したことでスケーターが多く集まり、人が常にいるのでむしろ治安が良くなり行政に感謝された場所もあったそうです。

その他、広場にスケボー可能な構築物を設置し(PLAY! project)、毎年夏にデザインを一新しながら、マルモなどの他都市と構築物の交換(Bon Voyage!)を行っています。このように、ストリートスケートボーディングを都市的に捉え、できることから小さく、安価な手段で着実にボルドーの街を変えてきたのがスケータバニズムという取り組みです。

スケータブルな彫刻群。左の写真は、エッジを滑るスケーターを椅子に座って間近に見られるもので「cohabitation=共生」と名付けられている。

スケートボード嫌いの日本人

ボルドーではかつてストリートスケートは違法だったそうですが、そもそも日本はどうなのでしょうか?道路交通法第七十六条によると、「何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない。-交通のひんぱんな道路において、球戯をし、ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為をすること。」とあり、交通の頻繁な道路においての滑走が禁止されています。それを受けてか、街なかでは少し歩くだけで過剰な程の「スケートボード禁止/NO SKATEBOARDING」という看板を目にします。
 
「日本人ほどストリートスケートボーディングを憎む民族はいない」と世界中で滑走してきた上野さんは言います。ボルドーを含む欧米では、ストリートで滑走していても「Cool trick!」等と声援を受けることも多いそうですが、日本ではすれ違っただけで嫌悪感を表され、そうした人々が通報するそうです。また、吉田さんは道で滑走していたら明らかに自分を轢こうとして配達車両がスレスレを通過していった経験があるそうで、「大げさでなく差別や迫害を受けている感覚」だと言います。悪い印象を与えないように、スケートボードを持っているときは普段より紳士的に振る舞うよう心掛けているそうです。
歩行者が多い場所など危険な場所での滑走は避けてしかるべきだとは思いますが、そうでない場所まで全面的に禁止すべきなのか?スケーターが何のためにストリートで滑走しているのか?(=スケーターどうしで協力して映像作品を作っている)についてはスケーターでない人々を含んだ議論と理解が必要だと考えます。

上野伸平さん

スケボーパークだけをつくってもストリートスケーターはいなくならない

ストリートでの滑走をむやみに認めなくても、スケボーパークを整備すれば済む話なんじゃないの?という疑問が浮かぶ方は多いと思います。スケートボードに特に馴染みのなかった筆者も、レオさんの話を聞くまでは同様の疑問を持っていました。とある統計によると、オリンピック後の2021年からの1年間で公共スケートパークの新規整備数は100近く増加しているそうです。日本全国のパーク数が増えているのであれば、ストリートでの滑走も減るのでは、と思いたいところですが、「スケボーパークを作ればつくるほど、ストリートスケーターが増える」とレオさんは言います。これは、パークで練習するスケーター達はストリートで滑走するための練習をしているのであって、スケーターの活動域がパーク内だけで留まることはあり得ないからだそうです。実際にスケート雑誌や映像作品を観てみると、それらは大半がストリートで撮影されたものであり、スケーター達はそうしたメディアを通してストリートでの滑走に憧れを持つと言います。つまり、パーク整備と同時にストリートでも何らかの方策を考えないと、ガードマンがスケーターを追い回し、想定外に傷ついた建築を所有者が補修し続けるといういたちごっこからは逃れられないのです。

どうせストリートでの滑走がなくならないなら、あらかじめそれを見据えた計画を

上野さんによれば、高校生がとあるビルの敷地内で滑走し設置物にスケボー痕をつけたところ、その高校生と母親のもとに200万円の賠償請求が来たことがあったそうです。傷はペイントし直せば補修できる程度のものでしたが、ビル所有者がとった対応は設置物をまるまる交換するというもので、そのために多額の請求となったそうです。これは見かけ上パブリックな公開空地(私有地)での出来事ですが、公地に目を向けてもベンチや手摺に鎖が巻かれスケボー対策がとられることで一般利用者の使い心地を低下させている例を見かけることができます。これらはスケーターが使うことが想定されずに空間が計画されたために起きている場当たり的な処置であり、そうなるのであればスケボーをしても壊れない作りにしてはどうか、というのがスケータバニズムの骨子の一つです。ボルドーでは頑丈な御影石でできたベンチや、ベンチの端部をスチールアングルで補強する等、スケボーでグラインドしても破壊されない設計を計画に組み込んでいます。傷はついてしまいますが、それを気にするよりも子供が遊べる場を提供していくことのほうが遥かに重要である、ということを市民に説明しているそうです。

吉田良晴さん

1.計画者から見たストリートスケートのメリットを考える

ここで言う計画者とは、公道を整備する行政や公開空地を整備する民間企業などのことです。ストリートでの滑走を許容していくことは、それら計画者にとってのメリットを明らかにする必要があります。前述した「うるさい、街にダメージを与える、危ない」という3大イメージをどう利点に変えていけるか。ボルドーのように治安の良くない場所にスケーターを集めることでむしろ常に人がいて安全な場所に変えていくという意味の転化や、スケボー文化に理解を示す企業がスケボービデオのロケ地に自社敷地を提供する企業メセナ(芸術文化支援)的視点、あるいは行政が都市の魅力を伝えるためにストリートスケートを用いたシティプロモーションを行うなど、計画者のメリットとスケートカルチャーの共存は十分にあり得そうです。「スケーターが社会貢献もできることを示していく必要がある」と上野さんは言います。

2.都市部と地方でやり方を変える

吉田さんが普段活動されている石川県小松市のとある駅前では、オリンピック以前は駅前広場でスケーター達が滑走していたものの、オリンピック後に近隣にスケボーパークが整備されてからは駅前での滑走が禁止され、スケートに馴染みのない一般市民からも「駅前に活気がなくなった」という嘆きがあるようです。人口動態や移動手段、駅前や歩道の人口密度の異なる都市部と地方とでは、スケボーに適した場所の選定や整備の仕方に異なる視点が必要となりそうです。

3.「民」から小さく始める

各地で官民連携の街づくりが進められている現在ですが、いきなり「官」から意識を変えていくのはハードルが高そうです。タクティカル・アーバニズムの基本とも言える事柄ですが、まずは「民」の力で小さく始めることが良さそうです。ボルドーの場合は始めから官と連携しながら進めたようですが、「小さな要素の方が街に残りやすく、失敗しても修正しやすい。パークのように大きく作ってしまうと批判が集まりやすく、修正もしづらい」とレオさんは言います。 
レオさん達がスケボーのできるベンチを設置したところ、住宅街が近く苦情が来たので3日後に別の場所に移設したことがあったそうです。(移設後は苦情が減り、設置され続けている)日本でベンチ1台置くのはなかなか大変なことですが、計画に柔軟性を持たせておけば置いてみる価値はあると思います。
サイン計画についても、ボルドーで設置されたサインを見ると、スケボー禁止のピクトグラムが、バツ印ではなくスケボーを持っている人のピクトグラムに短期間で微修正されていることが分かります。日本の街なかの禁止看板も、フリー素材をそのまま使うのではなく、スケボーを持っている人のサインにして禁止という強烈な印象を弱める工夫から始めても良いかもしれません。

更新されたサイン。右側のピクトがバツ印からスケートボードを持つ人のピクトに変わっている

排除ではなく共生を

スケータバニズムの概要と、日本とボルドーの相違点などについて触れてきました。筆者自身は、子供のころからスケボーをやってきたというわけでもなく、つい昨年、自身の関わるプロジェクトをきっかけにスケートボードの魅力に気づいた新参者です。デザイナーとしてスケボーパークの整備に関わりましたが、自分でも滑ってみないと分からないのではないかと思い、33歳ながら初めてスケートボードを購入しました。その際驚いたことは、購入した渋谷のスケボーショップの方が自身のプロジェクトを知っていたことです。ちなみにレオさんにボルドーで会った時も、遠い日本のプロジェクトを知って下さっていました。両者ともインスタグラムで写真を見たそうですが、スケーターのコミュニティが国境なく広がっていることが分かった瞬間でした。このことは、ツーリズムからも街を考える重要なヒントになると考えています。 
冒頭に紹介したスケートボードの3大イメージ、「うるさい=loud」、「まちにダメージを与える=damage」、「危ない=dangerous」への現状の対策は管理者目線では確かに正義であるものの、スケートボードだけが何故か過剰に排除されている状況もあると思います。筆者としては、スケータバニズムという先進的な取り組みを日本のより多くの方々に知ってもらうことで、過剰に排除されるのではない、街の人々と共生し、都市の魅力を向上していく要素の一つとしてスケートボードを捉えていくための議論のスタートとして今回のカンファレンスを位置づけられればと考えています。

都市に関わるデザイナーとしての展望

今回のカンファレンス開催の経緯として、ヨーロッパ視察に行ったことを冒頭にも書きました。しかし、さらに元を辿れば2022年に日建設計が企画・運営に関わった三重県四日市市での社会実験『はじまりのいち』がきっかけでした。仮設のスケボーパークを整備したのですが、そこでは平日休日とも時間帯問わずに多世代の来場があり、スケートボードというカルチャーの求心性・多様性を目の当たりにしました。企画に協力して頂いた市民の方も「子供たちがみんないい顔をしている」と涙を浮かべて語ってくれました。つまりスケートボードについて考えることは子供が街へどう参加するか考えることであり、ひいては街への愛着や未来について考えることなのではないでしょうか。私がスケートボードに可能性を感じているのはこれが理由です。
我々都市デザインに関わる人間がこれまで述べてきたような日本におけるスケートボーディングの課題について理解しておくことが重要なのは言うまでもありません。まずすべきは、スケートボードのことを良く知らない行政関係者と、都市計画のことを良く知らないスケートボーダー達の間に立って、各々の考えていることを伝達する手助けをすることだと思います。そうすることで、ストリートの中でなぜかスケートボードにだけ付き纏う悪しきイメージを少しずつ治癒していけるのではないかと思います。そうした土壌を整えてから、日建設計でも数多く手掛ける道路や公園といったパブリックスペースにおいて、場の価値や愛着を高めるひとつの手段として、まちと共存するスケートボードのあり方を提案していきたいと考えています。

藤 奏一郎
企画開発部⾨ コモンズグループ パブリックアセットユニット
横浜国立大学大学院 Y-GSA、中川エリカ建築設計事務所を経て 2018 年より日建設計入社。「The Breakthrough Company GO オフィス」「ワークスタイリング大手町」等の内装デザインの他、道路活用社会実験である「みっけるみなぶん」「はじまりのいち」等、パブリックスペース関連プロジェクトに従事している。プライベートでは地元で「水戸まちなかデザイン会議」に参画中。

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