アパレル界のリーダーたちとファッション、ビジネス、キャリアを考える
こんにちは。日本経済新聞社デジタル事業BtoCの山田豊です。日経は10月31日、コンテンツプラットフォーム「note」と共同で、対談イベント「アパレル界のイノベーターに学ぶ『旗をたてる』生き方」を開催しました。会場はSENQ霞が関(東京・千代田)です。
登壇者は、尾原蓉子さん(一般社団法人 WEF会長)。1962年に東京大学を卒業し、旭化成工業(現旭化成)に入社された日本のファッションビジネスの草分け的存在です。
もう1人は10代で起業し、大学の卒業後もどこかに就職するのではなく、胸の小さな女性向けのランジェリーブランド等を経営するハヤカワ五味さん(株式会社ウツワ代表取締役社長)。ハヤカワさんにはnote×日経電子版イベントで、「サバイバル勉強術」にもご登壇いただきました。
日本におけるファッション・ビジネスの草分け的存在であるお2人に、アパレル業界内でのキャリアデザインから、女性の働き方、リーダーシップ、ものづくりなどについて話し合っていただきました。日経主催のイベントには珍しく、参加者の7割は女性です。以下、すべては書き切れませんがQ&Aで印象に残った内容をお伝えします。
Q 女性が「おつとめ」でなく、責任ある仕事をする意義は?
・私が「女性経営者」として取り上げられることは納得がいかない。私が企業に勤めるのではなく経営者をやっているのは、自分の力で物事を決めていきたいから。男性、女性、と男女で対抗軸をつくるのは抵抗を感じる(ハヤカワ氏)
・同感。高校生のとき、選択科目で男子は物理、女子は家庭科を取れ、と言われた。その時、すごくショックだった。男性ができないことやろうと思った。いま、男女問わず、自分の力を生かし、主体性をもってやらないと仕事はできない(尾原氏)
Q リーダーシップと女性らしさとは
・「らしさ」という言葉には抵抗があるが、女性はコミュニケーションが上手。これからの組織のフラット化が進んだり、プロジェクトをつくって柔軟に活動していくことが増える時代には、肩書や権限を持たなくても発揮できるリーダーシップが重要になる。女性はそのリーダーシップに適している(尾原氏)
Q 女性キャリアを考える上で、何を軸に就活を進めるべき?
・私も自分の会社で面談をするが、そこで感じるのは、自分のやりたいことと、会社のやりたいことが被らないと、お互いが不幸になるということ。そうならないように、被る部分を探したらいいのでは?(ハヤカワ氏)
・若いとき、先輩から「自分の仕事を上司の視点でみるといい」とアドバイスされた。就活のときも、2レイヤー上の視点からみるといいのでは(尾原氏)
Q プロフェッショナルに働くとは?
・人工知能(AI)の発達により、何かスペシャルな能力がないと給料がもらえない時代がすぐそこまで来ている。アメリカのプロフェッショナルは、自分で深い穴を掘ってゆき、それ以外のことはできないと断る。プロフェッショナルの条件とは、(1)それそのもののスキルで稼げる専門性(2)プロの自負を持っていること(3)常に研さんしている(4)自分の立ち位置がわかっている(5)謙虚である ――ことだ。そういう人を日本で育てたい。日本は平等意識が高いが、「出面(でづら)」で給料をもらうのはナンセンス(尾原氏)
・プロフェッショナルであるとは、自分で仕事を選べるということ。自分で選択肢をとっていくこと、主体的にいろんなことができるようになっていくことではないか。尾原さんの話にあった「2レイヤー上から」自分を評価することができれば、ほかの職場で活躍できるはず。(ハヤカワ氏)
Q体調管理を仕事として社員に求めていいか?
・成果を挙げてもらうために社員を雇っているわけだが、体調管理は人によってまちまちだ。体調管理もスキルとして考えるべき。成果が下がるときに、自分の特性といかにつきあうか考えるべき。本当にダメなときには休める関係をつくっておくことが大事(ハヤカワ氏)
・体調管理をすべきなのはスポーツマンと同じ。朝、鏡で自分の全身姿をみて、「きょうもやれるか?」と問いかけて、無理だったら少し休んでから行ってもいい。それから日本の女性は「やせてる方がかっこいい」という発想を変えるべき(尾原氏)
グラレコを描く山尾美沙季さん
Q 女性が子育てを経て、キャリア見据えて働くにはどういうことが重要?
・女性が産休・育休からスムーズに復帰できるように会社がポストを用意するべきだ。復帰に時間がかかってしまうような場合でも、自分でいろんなことを勉強することはできる(尾原氏)
・私の会社でも最近1人産休し、復帰した。小さな会社では1人でもいないと人材不足になってしまう。できる対策としては、早めに、例えば産休に入ることを10カ月前には会社と共有したりできればいい。相談しやすい関係づくりが大事(ハヤカワ氏)
Q 感覚と理論のバランスをとるには?
・ファッションビジネスは感性、感覚が大事。ところが、アーチストと、ビジネスの世界でのデザインは別の話。ビジネスではお客さんの目線は不可欠だ。例えばコムデギャルソンの川久保玲さんはビジネスマインドを持っているが、こういう人はめったにいない。会社がある程度の規模となったら、別の頼れるパートナーと一緒にやったほうがいい。両方できるようにならないと、どっちつかずになると思う。どういう人を選ぶか、選ぶ目も必要(尾原氏)。
Q 消費者の行動変化について
・これからはサステイナブルな商品はあたりまえになる。Tシャツ1枚つくるのに信じられないほどの大量の水が使われることが意識され、捨てるのは考えられなくなる。ジーンズも空気ドライにより水の使用量を減らしたブランドが支持される時代。そこでもすごい競争が起きる。表面だけエコなのはだめだ(尾原氏)
Q 今後のマーチャンダイジングの方向性
・マーチャンダイジングは心臓部だが、時代とともに変わってゆく。今後は「適量」という概念は以前ほど重要でなくなり、落とされる。ネット時代は異なる価格で売ることが可能。マーケティングも入り込んできて、マーチャンダイジングはすごく変わってきている。セグメントに矢を射るのではなく、まず先に矢を打って、インフルエンサーなどを使ってターゲットを広げていく手法が広がっている(尾原氏)
Q 店舗に集客するのに大切なことは?
・最近、中国・上海に行ったが、日系の店舗だけ浮いてると感じた。「坪あたりの効率」を重視する考え方がいまだにある。それがないのが中国の店舗だ。店舗でモノを買うのではなく、気になるブランドの現物をみたり、ブランドの世界観を感じるために行く。店舗には圧倒的に商品が置いていない。これからは売ることではなくて、見せることが重要になる(ハヤカワ氏)
Q キャリアの目的(パーパス)の重要性について
・人によっていろんなケースがある。私の場合、アメリカに行ったとき、ファッションが「人と違う」と言われ続けて悩んだが、褒め言葉だったんだと気がついた。違っていいんだ、と。学校の成績でも、全体が良いよりも断トツでいい科目が1つある人が成功する。得意分野に磨きをかけるべき。1つできると、自信ができる(尾原氏)
Q 友人で、トップブランドのあり方に疑問をもっている人います
・同感です。ブランドのイメージビルディングがファッションになっている。ファッションショーでは滝とか落ち葉とか、そうしたものにすさまじいカネが使われている。日本人はそれがファッションビジネスのありようと思うのはやめたほうがいい(尾原氏)
Q 小売業でマーチャンダイジング(MD)をしている。学生に人気を伝えたいのですが
・MDの仕事の魅力が伝わってないと感じる。会社のHPでもポジティブなメッセージを発信することが大事では。日々成長する喜びを伝えられればいいし、明快なキャリアパスを示せればいいと思う(尾原氏)
・自分のまわりでは、例えば広告業界をみているとキャリアパスが明快だ。MDだけでなく、プレスなども人材難と聞いている。仕事の魅力が学生に伝わっていないのではないか(ハヤカワ氏)
Q 愛される商品とは?
・ヒット商品は、たまたまヒットすることも多く、予知しにくい。一方、ロングセラー商品は、ブラントとかキャラクターに求められることを裏切らないことが大事。信頼を裏切らないことだ(ハヤカワ氏)
・ロングセラー商品も、見えないところで努力している。先日、赤坂店がリニューアルオープンした「とらや」に行った。老舗の和菓子店の羊羹(ようかん)も、少しずつ味が変わっている(尾原氏)
個人的にもいろいろと気付きがありましたが、尾原さんの女性とリーダーシップの話、ハヤカワさんの上海の店舗の話が印象に残りました。あと女子は家庭科、ですね。対談後の懇親会では尾原さん、ハヤカワさんに皆さん列をつくって熱心に質問していました。最後に完成したグラレコをお見せします。