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番外編・ひとりごと【スキがあってよかったお話し】

お洒落な女性


何年か前の出来事。
打ち合わせからの帰り、私はG線に乗っていた。
夕方のラッシュが始まっていたが、
タイミングよく私はシートの真ん中あたりに座ることができた。
ぎゅうぎゅうではないものの、車内には隙間がない。
青山から何人かが乗り込んできて
シートに座っていた私の前に女性が立った。
この春先は、例年にましてトレンチコートを着ている人が多く、
目の前の女性は淡いベージュのトレンチ、細身の濃いベージュのパンツだ。
綺麗な色のトレンチだな
女性は手入れが行き届いた長い髪を緩くウエーブ
いかにも青山近辺のOLさんと言った感じ。
女性はチラリと周りを見回し髪をかきあげ、正面を向いた。
自分が見られていることに、満足げな女性の表情を感じた。
じろじろ見てたと思われたのかな
私は、視線を落として正面を向いた。
ちょうど目の前に女性の膝上だ。

と、私は思わず二度見をした。
ファスナーが全開なのである。
驚いた私は、顔を上げて女性の顔を見た。
私がじっと見たものだから
女性はまたもや髪をかきあげ、
つんとした表情で正面に向き直した。
地下鉄の窓ガラスに映る自分を見ているようだ。
耳を触ったり、コートの襟を引っ張ったり。
違うよ、そこじゃないよ。
私は、再度彼女のチャックを見て、声をかけようか迷っていた。
そのパンツは、私の位置からは見開き部分が見えるため、一見ではチャックが空いているかどうかはわからない。
女性が体を捻ってこちら側を向くと、全開のチャックが私の目の前に・・・!
どうしよう、
と無言で隣りを見ると、20代後半くらいの女の子が
私と同じように女性のチャックに釘付けになっていた。
女の子の横には50くらいのサラリーマン風の男性だ。
男性の座席からだと位置的にチャックの部分がずっと見えるのだろう。
男性は目をパチパチさせながら時々私に視線を送ってくる。
私、サラリーマン男性が、真ん中(女性の真正面)に座っている女の子を見ると、女の子は黙って頷いた。
私、女の子、サラリーマン男性の3人に
奇妙な連帯感のようなものが生まれた(気がした)。
と、女の子が顔を上げて
「あのー」とちっさーな声をかけた。
しかし、女性は、一瞬女の子をちらっと見ただけで反応なし。
車内が揺れていたから、足でもあったたと文句を言われると思ったのかな。
きっと軽く睨むと、またミラー代わりの窓に向かって背筋を伸ばしツン、と姿勢を整えた。
女の子は、女性に再度声をかけたが、反応はなかった。
私と女の子は顔を見合わせて
うん、とお互い納得しうなずきあった。
サラーリーマンは目をつぶって寝たふりだ。
私たちを乗せた車両は、そのままいくつかの駅を過ぎていいった。

女性は、しきりに鏡(じっっさいは窓ガラス)に写る自分を気にしながらも
いくつか先の駅で降りると、反対側の電車に乗り込んだ。
そのトレンチコートの後ろ姿はバックもパンプスも抜かりない。

どこで気づくのか
それとも、お家まであのまま行っちゃうかな。

さっそうとした、隙のない女性に
「全開ですよ・・・」
と声をかけられる人はいるのだろうか・・・

女性と同じ電車で異なる車両に乗り換えながら、
私は数ヶ月前の出来事を思い出していた。

スキがあったから??


地域の集まりに参加した時のこと。
事前に「動きやすい服装」の連絡があった。
地元の公民館だし、これでいいかな
私は、清潔感重視のTシャツにくたびれかけた薄手のパーカー。
処分しようとわけてあった、ソフトデニムを着て出かけた。

会長の挨拶、会の趣旨説明が終わり、
(内容は全く覚えていないが)
公民館のホールでグループに分かれることになった。
フルタイムで仕事をしている私は、知った顔は数人ほどで、
ご挨拶程度の人ばかりだ。
私は、名前を呼ばれたグループに加わろうとしてホール内を移動していた。
すると、2、3メートルほど離れた場所から、ニコニコしながら女性が近づいてくる。
ん?
隣のブロックに住む人だ。ごみ収集所で何度か挨拶を交わした人だ。名前は、なんだっけ。
で、いったい何?
それほど親しい人でもなく、まして大勢の中から声を掛けられたことにいかぶしがりながら、とりあえず私もニヤニヤしていた。
小走りしてきて、目の前のXさんは満面の笑顔だ。
「ちょっと、ヤァだ、タキさんっ」
Xさんは笑いながら私のパンツを指さしながら
「チャック全開だよーー」

ああ。
このパンツはファスナーがきっちり閉まらなくて
捨てるチームに入れておいたんだ・・・

ヨレヨレのパーカーに、破棄前のパンツ。

あの日の私は隙だらけ。
きっと私は声かけやすかったのね。

人から大切なことを知らせてもらうには
少しの隙も必要である。のかもしれない。

完璧そうに見せない方が人は大切なことを伝えてくれる?

スタートアップ編#1












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