ニケと歩けば soixante-dix-huit
黒のラブラドールを見かけると思い出します。
ある日横浜から一家が引っ越ししてきました。
愛嬌のある黒いラブラドールレトリーバーと一緒に。
中学生と小学生の兄弟は二人そろってその犬とよく散歩に出ていました。何かを見つけると好奇心いっぱいの黒ちゃんは走り出します。
ある日ニケと散歩しているところに一匹でうろついている黒ちゃんを見かけました。長い尻尾を振りながら楽しそうです。どうやら脱走してきたようです。しばらく見ていると堪能したのか家に向かって走っていきます。
それからも何回か見かけました。向こうから気ぜわしそうに走って家にもどろうとしています。目が合うと上目遣いで「内緒!」と言いたげな様子で急いでいます。
ある日コンビニの柱に「迷い犬。人懐っこい雌のラブラドール。お手もしてよくしつけられています。お心当たりの人は…。」警察署の張り紙です。
写真のお座りしている犬はまさしくあの黒ちゃんです。赤い首輪の良く似合う!
丁度ご主人と会ったので「ワンちゃんは逃げていませんか?」と尋ねました。ちょっと困った顔をして「大丈夫ですよ」と言われましたが、庭に姿がありません。「コンビニの張り紙によく似たワンちゃんが迷子犬で出ていたので」なんだか要らぬおせっかいをしたみたいで、お互い気まずい雰囲気になりました。
コンビニの張り紙も外されました。あの日、散歩の途中で会った姿が最後です。問い合わせをしたら場所を移動したと告げられました。
飼育放棄。何ともやるせない気持ちです。人間の都合で不幸になる動物が後を絶ちません。
あの屈託のない黒ちゃんを捨てる理由は分かりませんが、心が痛みます。
なんの悩みもないニケは今日も仰向けでくつろいでいます。