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私は大学3年生のとき、バイトをして貯めたお金でちょっといい自転車を買い、北海道にフェリーで乗り込みました。自転車での旅行にあこがれていたわけです。しかし初日から雨。テレビの予報を見れば、大型の台風が日本に接近していました。しかし、予定を立ててしまっている以上、見送るという選択肢はありませんし、しばらくは雨のようですので、待っていても仕方がありません。行ってしまうしかありませんでした。

1日目から3日目までは、雨、という程度でしたが、どんどん強くなっていきました。4日目は、バケツをひっくり返したような…という表現がふさわしいような、あたり一面の空気さえ水びたしになってしまったような雨でした。雨合羽はきていたものの、安ものでしたので下着まで濡れてびっしょびしょでした。1日150キロを目安に走っていましたので、その間中ずっと気持ちがよくありませんでした。自転車をこぎながら、この日程にしたことを後悔しました。出なければよかった、というくらいの思いです。しかし、走らないことには目的地にはつきません。ここまできたら、戻ることも容易ではありません。前に進むしかありませんでした。

函館から苫小牧を経由して旭川市を抜け、富良野をまわってまた旭川へ戻りました。ちょうど、旭川市をぬけたくらいでしょうか。一週間、ずっと雨をふらしていた空模様が、ちょっと変わってきました。
相変わらずの、鉛色の雲。頭の上は、みんな雨雲ですが、ちょっとした切れ間ができました。私の目は、そこに釘付けになりました。一週間、ほぼ日中は自転車をこいでいましたので、ずっと雲ばかりの空を見てきたわけですが、久しぶりの雲の切れ間が、空にのぞいたのでした。そして、待望の青い色の空が、少しだけ見えてきました。

私は、心から感動しました。こんなに、待ち望んだ青い空。いつもそこにあるはずなのに、一週間見えなかった青い空。こんなにきれいな青い空は、見たことがありませんでした。思わず声を上げた私。自転車をこぐ力が、お腹の底からぐっと戻ってきたような気がしました。

そして分かったのです。ずっと続いた雨こそが、ほんの少しの青空を、いつもよりも輝かせるのだということ。
苦しいことが続くと、心のどこかであの青空が私の中で顔を見せてくれています。

                     三浦健太朗

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