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見せるか語るか〜小説のちょっとしたコツ
小説のちょっとしたコツや小技をご紹介するシリーズ。
今回は「見せるか語るか」です。
見せることと語ること
よく小説の指南本には、
「見せよ語るな」
と書かれています。
ごく単純には、
語る = 説明する
見せる = 描写する
と考えればいいでしょう。
ですから、冒頭の「見せよ語るな」の意味は、
「説明せずに描写しましょう」
ということですね。
語ると見せるの簡単な例を出すと、こんな感じでしょう。
語る : 彼女は驚いた。
見せる: 彼女は息を呑み、思わず後ずさりした。
語る : 彼は泣いた。
見せる: 彼の目から涙が溢れ、頬を濡らした。
語る : タロウは意気消沈した。
見せる: タロウはがっくりと肩を落とし、深いため息をついた。
確かに、「語る」より「見せる」方が小説としては正しい気がします。
とは言え、無条件に従うのではなく、両者の違いを知った上でどう使うか考えるのが賢いやり方かなと思います。
では、違いを理解しやすくするために、両者を図にしてみましょう。
説明と描写を図にする
説明と描写を図にすると、こんな感じかなと思います。
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説明は「言いたいこと」を直接書きます。
そのまま書くので、情報の伝達速度は速く、あまり誤解も生じません。
また、青い部分の面積を見て分かるとおり、文章量も少なくて済みます。
一方、描写は周辺を書いていくことで「言いたいこと」を浮かび上がらせるイメージです。
周辺から書くので、情報は多義的になり、豊かになります。
ですが、お分かりの通り、文章量は多くなるわけです。
それぞれのメリット・デメリット
両者の違いはだいたい分かったと思うので、それぞれのメリット・デメリットをまとめておきましょう。
こんな感じになります。
説明
メリット
伝達速度が速い
ほぼ一義的に伝わる
文章量が少なくて済む
デメリット
イメージは伝わらない
感情に訴えない
無味乾燥な情報になりがち
描写
メリット
イメージが伝わる
感情を動かせる
豊かな情報になる
デメリット
伝達速度が遅い
誤解が生じやすい
文章量が多くなる
お分かりの通り、メリットとデメリットはそれぞれ逆になるのですね。
描写の量を調整する
さて、では両者をどのように使えばいいか見ていきましょう。
簡単に言うと、両者の配分を気にするといいのですが、主に描写の量を調整すると考えると分かりやすいと思います。
描写の量で、作品の性質や方向性を決められるのですね。
図にするとこんな感じでしょうか。
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いろいろな作品があるので一概には言えないのですが、おおまかに言って、純文学方向に寄れば寄るほど、描写は厚くなるのが一般的です。
逆にエンタメ方向に寄れば寄るほど、説明が多くなり、展開は速くなります。
本のページ数はだいたい決まっています。
ですので、当然ながら、同じ分量内で描写を厚くすれば、展開に割ける割合は減りますし、逆に描写を薄くして説明を多く入れれば、かなり展開させることができるわけです。
このように、何を重視するかで描写の量は調整する必要があります。
エンタメ作品で濃厚に描写しすぎれば、展開が遅くなり、ページ数が多くなり、新人賞狙いなら規定枚数に収まらなくなるかもしれません。
一方、一般小説や純文学作品で描写を薄くしすぎれば、ぺらぺらの軽い作品だと認識されてしまうでしょう。
ジャンルにはそれぞれ求められる描写の量があるのですね。
以上のように、説明と描写の違いを分かった上で、自分の目指す作品における両者の配分はどれくらいなのか少しずつ探っていくといいでしょう。
今回のまとめ
小説のちょっとしたコツ「見せるか語るか」でした。
見せると語る
見せる = 描写する
語る = 説明する
説明は言いたいことを直接書く
描写は周りから書いて言いたいことを浮かび上がらせる
それぞれにメリット・デメリットがある
性質を分かった上で配分を考える
私は現在、ライトなエンタメジャンルにいますが、もし一般寄りの作品を書くなら、もっと描写を厚くしなければならないでしょう。
書き方を変える必要があります。
日頃からいろいろなジャンルを読んで、「だいたいこのくらい描写すればいいんだな」と目安をつけておくといいですね。
それではまたくまー。