読者の期待に応える〜担当編集さんにいつも注意されること
作家になって何年か経っても、いまだに担当さんに注意されることをご紹介するシリーズ。
今回は「読者の期待に応える」です。
前回はこんなことを書いていました。↓
読者が望んでいること
担当さんによく注意されることの一つに、「読者の期待にちゃんと応えてください」というものがあります。
これは要するに、
読者が望んでいることを、適切に提供してください
という注文なのですが、これがとても難しいのです。
私が書いているのはライトなエンタメ作品なので、最終的に読者が望んでいることは
楽しみたい
になります。
ですから、小さなシーンや個々の展開も、読者の望みである「楽しみたい」を最大化するように設計する必要があります。
ですが、楽しいシーンばかりが続いても、楽しくなるわけではありません。
むしろ、「ずっと同じことばかりでつまらない」という反応になってしまうでしょう。
実は、楽しくするためには、その逆の苦しみが必要なのです。
楽しみには苦しみが必要
一般的に、ある種の感情的な反応は、正反対の刺激があることでより大きくなります。
たとえば、料理を美味しくいただくには、お腹を空かせておいた方がいいのと同じですね。
賞味期限が切れた硬いパンでも、3日間飲まず食わずだったら、どんな高級料理よりも美味しく感じるでしょう。
楽しさもこれと同じです。
より楽しむためには、それ相応の苦しみが必要なのです。
物語では、主人公に数々の問題が降りかかります。
この「問題」というのが苦しみのことですね。
苦しみを乗り越えることで、主人公は報われ、読者も「ああ、楽しかった」と満足します。
主人公が苦しむ様子を見るのは、読者にとってはストレスです。
ですが、このストレスがあるおかげで、読者は最終的に楽しさを味わえるようになっています。
ですから、読者に与えるストレスと、最終的に味わえる楽しさを、作者は適切に制御しなければならないのです。
ここまでわかると、冒頭の担当さんの注文の意味が正確にわかります。
担当さんが言っているのは、こういうことです。↓
「読者へのストレスを適切にコントロールして、楽しさを最大化してください」
ストレスのコントロール
読者を楽しませるには、相応のストレスを与えなければなりません。
ですが、やみくもに過酷な試練を主人公に課しても、読者のストレスが増えるだけです。
ストレスは適切に制御されなければならないのです。
読者にストレスを与える際、気をつけなければならないのは、
ストレスの質
ストレスの量
の2つでしょう。
この2つをどう制御するか、それぞれ簡単に説明していきます。
1.ストレスの質
質とは「与えるべきストレスはどういうものか」ということですが、見極め方は簡単です。
以下をチェックしましょう。
「そのストレスは読者の楽しさに貢献するか?」
たとえば、私が最近失敗した展開はこういうものです。↓
ヒロインのピンチに気づいた主人公が現場に駆けつける
現場前には、事情を誤解している味方が立ち塞がっていた
味方と長々とバトル
味方が事情をようやく理解し、一緒に現場に突入する
2,3がストレス展開ですが、そのストレスは後の楽しさ、爽快さにはまったく寄与していません。
しかも、味方と戦うという、かなり大きめのストレスになっていました。
これは「悪いストレス」の典型です。
ただ読者に不快感を味あわせ、読む気をなくさせるだけです。
なぜこういう展開にしたかというと、しょうもない理由ですが、私が
味方とのバトルシーンを書きたかったから
です。
つまり、読者の楽しさより、自分の楽しさを優先したのですね。
これをすると、たいていの場合は上手くいかず、担当さんに注意されることになります。
ストレス展開にするときは、特に読者のことを考えなければなりません。
「そのストレスは読者の楽しさに貢献するか?」
これを常にチェックするといいですね。
2.ストレスの量
2つめはストレスの分量です。
「ストレス展開にどのくらいのページ数を費やすか」ということです。
上で書いた展開はそもそも設計ミスですが、3のバトルが短ければ、まだ許せるものになったかもしれません。
ストレス展開の分量については、可能な限り少なめに設計した方がいいと思います。
読者層にも寄りますが、最近の読者はストレス耐性が低い印象です。
何ページかに渡ってストレス展開が続くと、そこで読むのを止めてしまうでしょう。
そうなれば、楽しさを味あわせるどころの話ではありません。
とは言え、ある程度のストレスはどうしても必要です。
ですから、このくらいを念頭に置くといいと思います。↓
「楽しさを味わえるところまで読み進められる最小限のストレス量になっているか?」
多くの人がぎりぎり読み進められるくらいのストレス量より、やや少なめで設計できれば最良でしょうか。
脱落者を出さないためにも、多少、安全側に振った方がいいと思います。
これも、上で書いたのと同様、自分より読者を優先できるかという問題でしょう。
私はバトルシーンを書くのが好きなので、つい書きすぎてしまうのですが、読者はそれほどバトルを読みたいわけではないのですね。
ですから、可能な限り分量を抑え、次のシーンに進むべきなのです。
「楽しさを味わえるところまで読み進められる最小限のストレス量になっているか?」
これは、私にとって、特に心に留めておかなければならないことです。
今回のまとめ
担当さんによく注意されること「読者の期待に応える」でした。
読者が望んでいることは「楽しむこと」
楽しむためには逆の苦しみが必要
苦しみ = 主人公にとっての試練 = 読者にとってのストレス
ストレスを制御し、楽しみを最大化するのが作者の仕事
ストレスの質と量に注意する
読者の楽しみに貢献する種類のストレスか?
読者が楽しみを味わうまで読み進められる量のストレスか?
常に自分より読者を優先する
結局、読者のためにどこまで心を割けるか、ということなのでしょう。
勉強することはまだまだ果てしなくありますね。
それではまたべあー。