子どもの「読み」の状況を見る
「書くこと」に比べて「読むこと」は見取りが難しいと思います。「読むこと」は可視化されないため、どのくらい読めているのかが分かりにくいのです。でも、読む力を子どもたちに身に付けてもらうためには、まずは読みの状況を把握することがとても大切です。
教科書教材を読む場合、教師が読みの道筋を与えていたり、教師が欲しがりそうな答えを子どもが何となく察していたりして、本を読むときの「読み」の状況とは一致しない場合が多いように思います。
単元末に行う業者のワークテストでは、授業で学習したことが出るし、上段の文章から答えを見つける形式になっているものが多いため、なんとなく答えを探せてしまいます。ワークテストで分かる読みの力は限定的で、読書力をつけるための判断材料としては乏しいと感じます。事実、ワークテストで高得点が取れるのに読書が苦手という子もたくさんいます。
そこで、今日は子どもたちの「読み」を見取ることについて考えていきたいと思います。
音読で子どもの読みを見取る
音読の宿題は、多くの学校で出されています。保護者には負担のかかる宿題ですが、ここでしっかり手をかけてあげることは、子どものためになります。可能ならば、他のことをしながらではなく、子どもと一緒に教科書を見ながら音読を見守るとよいです。
やってみると思った以上に、読み飛ばしがあったり、文字をまとまりで捉えられていなかったりすることが分かります。もし、間違えていたら、優しく教えてあげて、次の日そこが読めているか、確認します。とても手間がかかりますが、きっと次第に読むのがうまくなっていることに気付くはずです。
(とは言え、毎日これをしてあげるのは、難しいと思います。自分も我が子に対してできていません。でも時々はそうしてあげられるといいなと思っています。)
さて、様々な家庭の状況があり、音読を家庭に任せるだけではいけません。かと言って、学校で1人ひとり音読させ、読みの状況を確認しながら支援するのは、時間的にとても無理です。
近年、「主体的・対話的で深い学び」などが話題になっており、授業で音読の時間を確保するのが難しいという声もよく聞かれます。私も、授業での話し合いなどを重視してきた立場ですが、最近、改めて音読の大切さを実感しています。
読めているようで読めていない子が、授業に取り残され、分かったふりをして授業に参加しなくてはならない状況はとても深刻です。子どもの読みの状況を知るために、そして、読みの練習をするために、授業の中で少しでも音読の時間を取るようにしたいものです。読めない子に「読みなさい」と言うのは酷です。どう読めていないのかに着目し、その子の状況に配慮して支援を考えていく必要があります。
読書の状況を見取る
私は、教科書教材の読みだけでなく、読書についても見取りをすることにしています。今、私の勤務校では、春の読書週間の活動が行われています。読書週間は、図書委員会が企画したイベントに参加したい子が参加して終わりという感じになることが多いですが、私は、この機会を読書の状況把握に利用しています。
手順はこうです。
①読書週間の間に、読み切ろうと思う本を1冊選ぶ。
②その本が読み終わったら、先生と本の内容について対話する。
「選ぶ本は、自分がいつも読んでいたり、苦労せず簡単に読めたりするものではなく、ちょっとだけレベルアップできるような本がいいね。」と伝えます。そして、本選びの相談に乗ります。選んだ本は名簿に記入しておき、読了の申告があったら、印をつけていきます。できれば授業や朝読書など、学校にいる間に読書の時間を確保してあげるとよいでしょう。
この取り組みを行うと、本を選ぶ過程や読み終える速さで、読書の様子が伝わってきます。また、「次はこの本を読みます!」と2冊目、3冊目に組もうとする子も出てきます。読み終えるたびに、その子と本の話をするし、「次はどんな本がいい?」と相談に乗りながら、好みや文章量について知ることができます。
受容と信頼
「え…。読書ってもっと自由にやりたい。先生に把握されたくない。」
ここまで読んでくださった方で、そう思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。本当にその通りだと思います。
嫌いな先生に、これをされたら「放っておいてよ。私は好きな本を読むから。」と思うに違いありません。読書というのは、とても個人的な営みであり、他人にとやかく言われたくないものです。そういった、子どもの感情を大事にしたいと考えています。
一方で、「本が読めるようになりたい」と願っている子が多いことも事実です。また、国語授業の最終的な目標の1つが、本が自分で読めることだと私は思っています。だから「読み」を見取り、読めるようにしていく手立てを考え、個に応じて伝えていくことも教師の使命だと感じています。
そのためにできることと言えば、子どもに信頼してもらうこと以外にないと思います。「この先生は、自分が本をあんまり読んでいなくても叱らない。」「この先生のお薦めしてくれる本はおもしろい。」「この先生の言うようにしてみたら、ちょっと本が読めるようになった。」そういう体験をしてもらって、信頼を得るしかないと思います。
信頼を得るために一番大事なことは、子どもの読書状況に甲乙を付けないことです。「4年生なのにこんな本しか読めないの?」というような発言は言語道断です。そうではなく、「今、この本を読んでいるんだな。」と受容します。ポイントは「子どもと本」の組み合わせを温かいまなざしで見ることです。
先ほどの、読書週間の取り組みでは、1冊さっさと読み終えて、次の本を選ばない子もいます。また、期間中に1冊読み終えられない子もいます。それを「ダメな子だな」と評価するのではなくて、「今そういう状況なんだな」と理解します。状況把握と自分の感情や評価が一体になってしまうと、読書嫌いな子は、益々読書が嫌いになってしまうかもしれません。
そこは、教師と子どもの信頼関係の問題です。本の読み方も教えないくせに、読んでいないことをグチグチ言う人は、子どもに嫌われて当然です。子どもに信頼してもらってこそ、読書の助言を受け入れてもらえて、子どもを伸ばすことができるのではないでしょうか。
読みの状況と対応
ここからは、見取った子どもたちの様子と、それに対するアドバイスをセットで書いてみたいと思います。子ども1人1人違うので、必ずここに書いてある通りにはならないと思いますが、整理するために書いています。
※ただし、「子どもがアドバイスを求めているかどうか」をちゃんと判断してからアドバイスしてください。そもそも、読めるようになりたいと思っていないのに、大人が張り切っていろいろアドバイスするのは逆効果です。読めるようになりたい気持ちについて確認することがまずは大切です。
①ひとまとまりの言葉を認識できない。
低学年の国語教科書は、言葉のまとまりごとに区切られていてスペースが開いています。学年が上がるとそれが無くなり、自分で区切りを見付けなければなりません。言葉のまとまりが認識できていないようなら、低学年向けの易しい読み物を勧め、できれば音読しながら一緒に本を楽しむのがよいです。(低学年向けの易しい読み物では、低学年の教科書のようにスペースが入れられています。)
学校では、音読しながら一緒に読む時間がなかなか取れないので、取り出し指導や家庭への支援要請、夏休みの補習などで行うのが良いと思います。
②絵を見ているだけで、文章を読み飛ばしている。
「この本を読んだ」という子の中には、絵の載っているページだけをパラパラ見て読んだことにしている子が結構います。本人に「読んでいない」という認識があまりなく、「文章はざっと見る。絵をじっくり見る。」という読書スタイルが定着しています。
「本を50冊読んだら景品がもらえる」というようなよくあるイベントの弊害ともいえます。本当に読んだかどうか確かめられないため、冊数稼ぎのための読み方が染みついてしまっています。
あまりにもすぐに「読み終わった」という子については、読み飛ばしの可能性があるので、読んでいる様子を見てみるとよいと思います。
こういう状況の子には、「今、あなたはこういう読み方をしてしまっているよ。」と伝えます。ほとんど絵しかみておらず、マンガや絵本から次の段階に進めていない子には、文字を指で押さえながら読むなど、文章を読むことを意識させます。文字の大きい易しい読み物を一緒に選ぶとよいです。
読めないわけではないけれど、早く読み終えたくて、絵をたよりにしながらざっと読んではページをめくるという子もいます。ある程度の長さの本をものすごい速さで読む子の場合は、本の内容で対話できるようにするとよいと思います。早く読んで何も残らない読書は、あまりおもしろくありません。本について語ることができるように、同じくらいの読書量の本が読める子同士で対話できるような機会を設けると、もう一度読み返したり、内容について深く考えたりするきっかけになります。
③マンガは好きだけど、本には手がのびない。
マンガにも良さがあり、否定するつもりはありませんが、本も読めるようになりたいと子どもが思っていたら、サポートしたいものです。
方法として、ゾロリシリーズやおしりたんていシリーズのように、絵がたくさん使われていて尚且つ文章も読むような本を上手く手渡していき、次第に絵が少ないものに移行していくということが考えられます。ただ、絵ばかりを見て、文章を読まないという②のケースと同じ状況になりやすいのが難点です。
そういう場合、古典的な易しい読み物を提案するのがいいと思います。「今、マンガがたくさん読めるのは、すごいことだよ。でも、本も読めるようになりたいなら、文章が中心の本にチャレンジしてみない?」それで、子どもがやってみたいと言ったら、絵があまり現代的ではないものを敢えて選び、文章に頼る読書をさせます。
教科書に出てきたお話は、特におすすめです。今回の読書週間では、読書が苦手な男子たちで、複数の子がアーノルドローベルの本を選んでいました。「お手紙」で親しんでいるし、挿絵も素朴で、読書の世界に足を踏み入れるのにぴったりです。「岩波こどもの本」などの中にも子どもたちに合うものが見つかるかもしれません。
日頃、現代的なイラストに慣れ親しんでいる子も、意外とこういう古典的な本に魅かれたりします。子どもに合わせて選ぶのが難しい場合は、司書さんに相談するのも良いと思います。
ちなみに、マンガやアニメ・ゲームのノベライズも人気ですが、これもちゃんと読めていないケースがあるので注意が必要です。先にマンガを読んでいて、小説を後から読む場合などは、ほとんど絵しか見ていない場合もあります。それはそれで楽しいですが、読む力という点では効果のないアプローチになってる可能性があります。
④シリーズもの以外に手がのびない
シリーズものの本は、とても手に取りやすく、文章を読み慣れるのに適しています。(以前、シリーズものについてまとめたので、もしよろしければご覧ください。)
シリーズになっていない本にも良書はたくさんあるので、そのおもしろさも知ってほしいなと思います。シリーズばかり読む子も、実は他の本も読んでみたいけれど、どう選んでいいか分からないということで困っていることがよくあります。
そういう場合は、読んでいるシリーズと同じくらいの文章量で1冊完結のものを紹介します。その際に、少し詳しくあらすじを紹介するのがよいと思います。シリーズものでは、登場人物や物語の設定を新たに把握しなくてもよいので、とてもスムーズに読書に入っていけます。新しい本を読むときには、自分の頭の中で本の状況設定を構築しなければならず、そこが大変なのです。
安心して本を手に取ってもらうには、少し内容を詳しく教えておき、その最初の段階をクリアしてもらうと、感覚が掴みやすくなります。ドキドキする話が苦手な子には、怖い部分があるかどうかも伝えてあげることで、安心して読書できるかもしれません。
終わりに
読みの状況は、この4つに限らずいろいろですが、今回はここまでにしたいと思います。
跳び箱の跳び方を教えるときに、「この子は手の付く位置が手前すぎる」とか、「この子は踏み切りの力が弱い」とか、1人1人の状況を見取って、アドバイスをします。それと同じで、読書でも「こういう読み方をしている」というのをまず把握することで、次に読む本を薦めたり、アドバイスをしたりすることができると思っています。
読書のアドバイスは、アドバイスする側の本の知識が大きく影響します。そのため、全ての教員が上記のようなアドバイスをするのは難しいかもしれません。司書教諭は、本の知識を広げ、一般の教員が読書指導をする手助けをすることができればいいなと思います。学校司書に、相談を持ち掛けるのもよいと思います。
読書を楽しむ子どもたちになってほしいという願いは、いつの時代もありますが、そのための手立てを見付けることは容易ではありません。
自分も読書を楽しみながら、子どもたちと本をつないでいけたら幸せです。
最後までお読みいただきありがとうございました。