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31_TRPGとマーダーミステリのビジネスモデル

ゲームは遊びの体験を提供価値としており、物品としての価値を重視している人は少ないと思います。私は積みゲームやコレクションして嬉しいのではなく、遊んで楽しむためにゲームを買っています。他のゲーマーも同様でしょう。だから、遅かれ早かれ、物品としてのゲームではなく、ゲーム体験そのものを有償で提供する人が登場しても不思議はありません。ツィッターで有償GMの話題を見かけるときがあります。ビジネスとして成立するかどうかは別の問題ですが。

これまでは箱型TRPGも書籍TRPGも、ゲームデザイナーが設計したゲームが製造者/出版社により生産され、商品として販売されてきました。ビジネスモデル図解の表記を参考にして、収益構造を図1に示します。

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ボードゲームやコンピュータゲームも同様のビジネスモデルが主流になっています。アナログゲームの歴史では、任天堂が花札を売っていた時代からの伝統的なビジネスモデルです。コンピュータゲームの歴史を紐解けば、ゲームセンターという収益構造があります。私たちゲーマーは、コインを投入して1回プレイする形式で対価を支払っていました。私はアクションゲームやシューティングゲームが得意でなかったので、1分も経たずにゲームオーバーとなることも多かったです。1978年「スペースインベーダー」ブームの映像記録を見ると、喫茶店にもゲーム筐体が置かれていました。ウィキペディアによると、1986年の2万6,573軒をピークにして、2020年時点で許可を受けている営業所数は3,931軒に減っているそうです。1983年のファミコン発売以降、コインを投入する遊びからゲームを所有して自宅で遊ぶことが主流になっていきました。2000年代には、オンラインソーシャルゲームにより、基本無料と課金モデルが登場。その一方で、ゲームセンターでは1990年代に対戦格闘ゲームが流行し、やがてeスポーツ選手が登場してきました。それならば、アナログゲームにも物品販売以外のビジネスモデルが登場する可能性は十分に考えられます。

比較対象として、ゲーム以外の娯楽を考えてみます。鑑賞型趣味やアミューズメント施設の料金を表1に示します。

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2時間から1日の娯楽に、日本人は数千円程度の対価を支払っていることがわかります。表に掲載しませんでしたが、私は京都祇園で舞妓遊びをしたこともあります。と言っても、パソコン通信のオフ会なので、約20人の割り勘で1人当り1万円だったと思います。いわゆる「一見さんお断り」で贔屓客の趣味嗜好を熟知して個別対応したおもてなしではなく、基本的な内容紹介、お試し体験オフ企画でした。当時の私は物珍しい体験に支払ったと言えます。

イベント的な体験といえば、TRPGコンベンションがあります。参加料金の例を表2に示します。

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コンベンションは大きく3通りに分かれます。ユーザーが主催し公共施設など広めの会場を借りて仲間が集まる一般コンベンション。GMもプレイヤーも一般ユーザーです。会場費を割り勘した程度の参加費。コンベンションによっては、事前準備や負担を考慮してGM参加が無料となるところもあります。1990年代はTRPG雑誌への案内投稿やゲーム店に置くチラシを見た人が集まっていました。21世紀にはwebが広報媒体に使われるようになりました。もう一つは、企業が企画運営し、プロのゲームデザイナーがGMやトークショーを行う広報宣伝的な性質をもつ公式コンベンション。JGCやTRPGフェスティバルまだ宿泊型コンベンションや単日開催のコンベンションなど。不定期開催のグループSNEコンベンションはファン感謝デー的に無料でした、希望卓への参加は抽選性でしたが。F.E.A.R.が主催するゲーマーズ・フィールドコンベンションはゲストGM卓としては低価格1000円で、毎月開催という高頻度が特徴でした。一般と公式との中間形態的に、ユーザー主催ながら、ゲストとしてプロのゲームデザイナーを呼ぶ特別イベント的コンベンションが開催されることもあります。特定システムのオンリーコンベンションなどです。プレイヤー人数に比してゲストは1,2名なので、ゲスト卓に参加できるかは抽選制です。ゲストに謝礼を支払うので、一般コンベンションより割高になります。交通費・食費(さらに宿泊費)を推定すると、参加費合計で収支が合うのか疑問に思うときがありました。もしかしたら、主催者が不足分を自腹で負担したコンベンションがあったかもしれません。

TRPGコンベンションのビジネスモデル図解を図2に示します。ビジネスと言うよりも、遊ぶ場を確保するための相互扶助と言ったほうがいいです。利益を得る構造になっていません。会場費や諸経費を参加者が共同負担するという形式です。

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さて、2019年夏に日本でもマーダーミステリー専門店が出現しました。パッケージ販売だけでなく、公演型という遊び方が提示されました。店がスタッフGMに対して報酬を支払っているはずです。つまり「プロGM」と言えるでしょう。それに気づいて調べたところ、テーブルトークカフェDaydreamは2002年8月に開店しています。2011年には関西にもReaching Moonが開店し、貸し会議室+GM機能のビジネスモデルが登場しました。マーダーミステリー専門店とTRPGカフェのビジネスモデルが似通っているので、ひとまとめに図3に示します。

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表3にTRPGカフェや比較対象のゲーム料金を示します。

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マーダーミステリー専門店で公演に参加するには、1人あたり約3000円から4000円。観劇や映画鑑賞、リアル脱出ゲームに参加する感覚に近い価格設定です。同じシナリオを繰り返すことで、GMの習熟度が上がり、より面白くなるという効果もあります。ここで試算すると、専門店ラビットホールの場合は、ほぼ毎日公演(週5回で計算)、参加者8人として、週16万円の売上。店の家賃や諸経費を考えると、大きく儲けるという数字ではないようです。Daydreamの場合は、通常料金の他に月額3万円というスペシャル会員料金も設定しています。高頻度に利用する常連向けでしょう。スタッフGMの仕事を「お客様と話をして盛り上がって楽しんでもらう、水商売のホスト/ホステスみたいなもんや」という意見を聞いたこともあります。営業にあたっては、風営法や消防法への対応など店舗営業のノウハウも必要になってくるのでしょう。ゲームが好きという動機だけでなく、それらの条件をクリアしてTRPGカフェを営業していることに敬意を覚えます。

現状、TRPGやボードゲームは物品販売のビジネスモデル。料理に例えるならば、食材や調理器具を購入して、ときどきレシピ本も見て、自分の手で調理して家族や友人に提供するという形式です。ならば、様々な料理店や高級鮨店で食事する場合など楽しみ方が分化していってもいいと思います。なお、高級鮨店を例に出したのには理由があります。山内裕教授『闘争としてのサービス』によると、サービスとは店側と客の闘争の一面があると、鮨屋の調査から述べています(山内教授の研究の概略は『京大変人講座』にも掲載)。お客様が店を選ぶように、店側もお客様にノウハウを要望しているとのこと。
イノベーションは辺境から起こると言われます。新規アイディアを提案すれば大多数に反対されると、セブンイレブンがおでんを始めたときのエピソードなどを聞きます。新たな時代を開くのは、若者や異邦人かもしれません。そんなとき、年長者は古い伝統に囚われることなく、新たな環境に適応したいと思います。暖かく見守り、自分の資源を活かして支援する、そういう役割を担いたいです。

参考資料
・なぜビジネスモデルを図解するのか?どう図解するのか?裏側やノウハウの全図解まとめ
https://note.mu/tck/n/n590483b4ae22
山内裕教授のブログ
https://yamauchi.net/