新里尚平 / NIIZATO Shohei

コニュニケーションプランナー / クリエイティブディレクター / 大学教員 たまに専門誌や広報誌などにエッセイや論文も寄稿しています。 僕の仕事や文章が誰かの力になって、少しでも生きる力の役にたてばとても嬉しいです。

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最近の記事

好きじゃなくてもいい彼女、愛されなければ苦しい彼 【書評 『一番の恋人』】

恋愛至上主義という言葉があります。 どちらかといえば自分もそちら側の人間だったので、「人を好きになれない」という気持ちについては理解し難いというのが本音の部分ではあります。 しかし、それなりに年齢を重ねて人生の折り返し地点を迎えると色恋だけでは語れない愛の形について気づく機会も増えてきました。 それは例えば地元愛だったり、愛社精神のようものだったりしますし、また自分が親になってみたことで自分の親も含めた家族愛というものの姿も朧げながら見えてくるようになりました。 本作は

    • 自分だけ立ち止まるわけにはいかない

      不惑を超えると日常の時間が想像以上に早くなります。 1週間は一瞬であり、1ヶ月は瞬きであり、1年は気がつけば過去になっています。しかし、それと反比例するかのように生活や考え方は緩やかに固定されていきます。ずっと腰は痛いし、毎日痩せなきゃと思うし、大抵のことはこれまでの経験の引き出しの中で対応できるようになります。 今日、一年振りくらいにプライベートで仲良くしていた歳下の友人と会う機会がありました。知り合ったのは5年ほど前なのですが、コロナ期間も含めて月に一度は必ず顔を合わ

      • 求められる仕事があるということ

        沢尻エリカの復帰作となる舞台『欲望いう名の電車』を観劇してきました。 テネシー・ウィリアムズのあまりにも有名なこの作品は、コンプライアンスやハラスメントに厳しい現代において、あまりにも多くの問題提起を示してくれます。 没落と破滅、差別と暴力、全編を通じて重苦しいテーマが付きまとう戯曲ですが、本作において演出の鄭義信は登場人物のセリフを関西弁に置き換えることでコミカルな楽しさを見せてくれます。しかし、ブランチ(沢尻エリカ)とステラ(清水葉月)は標準語で話します。セリフの中で

        • いまできることは、なにもしないこと。

          1/1に発生した能登半島地震、1/2に起きた羽田空港での日航機と海上保安庁の航空機との衝突炎上事故、と立て続けに痛ましいことが起こりました。被災された方々に心からお見舞い申し上げるとともに、みなさまのご無事と安全とともに、一日も早い復興をお祈り申し上げます。 元旦の夜はほぼ全てのテレビ局が報道特番に切り替わり、特にNHKの山内泉アナウンサーは厳しく強い口調で避難を呼びかけました。画面には「逃げて」の文字が強調されており、その緊迫さと非常事態である認識を多くの国民が持てたと思

          失速した2023年を総括する

          大晦日です。 紅白歌合戦とWBCとザワつく!をザッピングしながら一年を振り返ります。 完全に個人的な自省録でしかないのですが、後年の自分自身のために駄文を認める所存です。 原因をうやむやにしたまま過ぎ去った失速の経緯 2022年はいくつかの挑戦が実り、新しい環境に身をおくことになりました。 しかしながらその歪みがジワリジワリと顔を出し始めたことに気がつかないふりをしていた気がします。 1〜2月は少しづつ感じ始めていた違和感が如実に表面化してきたのですが、まだ自分の裁量次

          失速した2023年を総括する

          誰がために鐘は鳴るのかを自問する

          近親者を見送り、親しい方々もまた大事な人を喪うということがしばらく続きました。私を含め、遺された者は故人を通じて漫然と生きる日々と向き合う機会があったのですが、コロナ禍では誰かと語り合い、笑い合う機会が随分と減ってしまいました。 世の中が不穏な方向に流れていくことと反比例するように、さまざまなタイミングやチャンスをいただいて、私の会社は業績を伸ばすことができました。しかし、仕事の多くがリモート会議やテレワークが中心となり、そこで起きるコミュニケーションの形は良くも悪くも「私

          誰がために鐘は鳴るのかを自問する

          決着をつける、ということ

          朝ドラの話しかしないのか、と自分でも思わざるを得ないのですが、切なさや苦しさはまさにこの15分の中に凝縮されているのです。 『スカーレット』第30話にて草間さんは戦時中に生き別れた妻とついに再会します。なんとなく評価が定まりきらなかた本作において、今回がドラマの品質を語る上でのエポックメイキングとなるのではないかと感じます。 戦時中の苦しさも戦後の混乱も私にとっては歴史の一つです。想像することはできますが、本当にどれほどの苦しさやつらさがあったかということは理解することは

          決着をつける、ということ

          天陽くん、夏空に逝く

          『なつぞら』(9月3日放送:第134話)にて、天陽くんがこの世を去りました。冒頭から2分、あまりにも切なく、あまりにも美しい最期に涙が止まりません。「天陽ロス」を全身で受け止めています。 死期を悟っていた天陽くんは病院を抜け出し、徹夜で遺作となる躍動感ある馬の絵を完成させます。あえて詳しくは語りませんが、天陽くんのモデルである神田日勝の遺作が「馬(絶筆・未完)」であることから、全身を描いた天陽くんの遺作は神田日勝へのオマージュであるとともに制作者の敬意であるとも受け取れます

          天陽くん、夏空に逝く

          学びなおす、思考しなおす、ということ

          大学時代は美学・哲学を専門に学び、卒論は日本における病跡学の可能性について考えました。社会人になって仕事を始めると、実務的に役に立つことではありませんが、人間として成長する過程においては随分と助けられたと思っています。 不惑を迎え、過ぎ去ろうとする若さにすがり、迫りくる老いの始まりに抗ってきました。ようやくそれらを受け入れられる心境になったは本当にごく最近のことです。 年齢がどうこうという話ではなく、肉体的な衰えや、社会的な立ち位置(周囲からの見られ方)についてのギャップ

          学びなおす、思考しなおす、ということ

          選ばなかった過去への後悔が喪失であってはいけない

          『なつぞら』(7月6日放送:第84話)にて、なつは天陽くんと再会を果たします。天陽くんへの思いれが強い私としては、やはりなつの悪意のない純粋さに苛立ちを隠せません。 すでに結婚して山田家に嫁いだ靖枝(大原櫻子)の対応は見事でした。 なつに対する警戒も嫉妬も感じさせることなく、夫の幼馴染をもてなします。山田家の家族として存在する靖枝に嫉妬を覚えのはむしろなつの方でした。 天陽くんの母はさすがにその空気を察知し、「なっちゃんは東京で結婚するの?」と聞きます。婉曲的に天陽の前に

          選ばなかった過去への後悔が喪失であってはいけない

          天陽くんが結婚するという報せを聞いた

          『なつぞら』(6月29日放送:第78話)にて、天陽くん結婚フラグが立ちました。なつを待たないと宣言し、自らの心の整理をつけ始めたのが3週間前(6月8日放送)。僕はその切ない心情について以下の感想を述べています。 初恋が成就しないことは定石ですが、天陽くんにとってなつは想い人であり、真実の愛の対象でした。だからこそ夢を追うなつの背中を推し、自らの生き方と相容れないことに一人で決着をつけたのです。 しかし、なつにとっての天陽くんは大好きな相手ではありますが、いわゆる恋愛対象と

          天陽くんが結婚するという報せを聞いた

          悲しみの癒し方は時間しかない

          色恋沙汰を聞かされることが多い。昔から。 別に恋愛マスターでもモテ男でもないのですが、余計なことを言わないこととか、当たり障りのない慰めをしないところが評価されているのかもしれません。 あとは、聞かされる話の多くが浮気とか不倫とか、仲の良い友達には話しづらい内容であることも一因かもしれません。 誤解のないようにしておきたいのですが、僕は浮気や不倫を肯定しているわけではありません。でも「好きになったのなら、しょうがない」という妙なものわかりの良さは持ち合わせています。 さ

          悲しみの癒し方は時間しかない

          味覚の記憶

          懐かしい匂いや味にふれると、不意にいろいろな記憶が蘇る。 それが予期せぬ瞬間だった場合には思わず感情が揺すぶられる。 例によって神楽坂へランチへ出かけ、坂上を少し過ぎたところでワインバーがランチ限定の特製カレーを出しているという看板に出くわす。今日は暑い。食欲もそれほどではないから、カレーを食べて元気を出すのもいいなと直感的にそのお店に引き込まれる。 ワインバーがメインのそのお店は、ビルの上階にあるにも関わらず窓がなく、薄暗い雰囲気だった。若い男性スタッフの案内で先に注文

          平成を映す小説ベスト30に村上春樹作品の『1Q84』『ねじまき鳥クロニクル』が選出

          村上春樹作品をちゃんと読み始めたのは高校生の終わり頃から大学生に入った頃だった。ちょうど『ねじまき鳥クロニクル』が刊行された頃で、当時の僕には難解すぎた。『ノルウェイの森』でひどく心が揺さぶられたのは、自分が主人公と同世代だったかもしれない(今もなお大学生の内に読むべきだと若者に伝える作品の一つである)。 自分はいわゆるハルキストではない。 作品の好き嫌いもあるし、村上春樹の考え方には共感する部分もあれば理解できない部分もある。そういう部分も含めて、この時代に必要な作家であ

          平成を映す小説ベスト30に村上春樹作品の『1Q84』『ねじまき鳥クロニクル』が選出

          広告系総会2019 〜自らの来し方を振り返る〜

          2016年夏から二年半ぶりの開催となりました広告系総会。 前回は運営に携わらせていただきましたが、今回は一般来場者として参戦してまいりました。参加することに緊張を覚えるイベントです。 広告系総会は、今やどの肩書きで紹介したらいいかわからない高広伯彦さんが主催しているイベントです。 広告やPR、マーケティングなど、マーケティングやマーケティング・コミュニケーションに関する業種に従事している方々のなかでも結構なキーマンが一堂に会するものでもあります。 個人的に広告系総会にはと

          広告系総会2019 〜自らの来し方を振り返る〜

          ランチでカレーを食べてバリューについて考える月曜日

          神楽坂にランチに行きました。 今日はなんとなくカレーを食べたい気分だったのですが、どうせなら「ちょっといい感じのこだわりのカレー」を食べたいな、と食べログ検索にて数点をピックアップして意気揚々と神楽坂に赴きます。 さて、お目当のお店がお休みだったり、いざお店を見てみると思っていた感じと違っていたりと、なかなかお店を決めることができません。ふらふらと神楽坂上方面に進んでいくと、牡蠣カレーというものが目に飛び込んできます。牡蠣はそろそろシーズンも終わりだし、そういえば今年は満喫

          ランチでカレーを食べてバリューについて考える月曜日