取田新 niintotta

フィンランドで三人暮らし。タンペレ大学にて修士号(教育学)取得。

取田新 niintotta

フィンランドで三人暮らし。タンペレ大学にて修士号(教育学)取得。

最近の記事

今日も本を読む

物心ついたときから、文字があると目で追う子どもだった。 大人になって母に聞いた話だが、ひらがなを指で押すと読み上げてくれるおもちゃで勝手にひらがなを覚えた私は読むことに異様な執着を見せた。幼稚園で配られる月刊誌は、自分のものは活字が少ないと文句を言い二学年上の姉のものを楽しく読んでいたという。料理中の母が油跳ねをよけるためにテーブルや床に敷いた新聞紙の記事を張り付いて読むのも日常茶飯事だったそうだ。 人間の認知は視覚優位、言語優位、聴覚優位などがあると話題になることも多い

    • 相手が喜ぶ10か条

      頭の中でふわふわとただよう言葉にもなりきっていない思いを整理するべく手に取った村本篤信氏の著書「ロジカルメモ 想像以上の結果をだし、未来を変えるメモの取り方」に、「相手が喜ぶ10か条」という言葉が出てきた。商品やサービスのアイデアを出す際に、顧客となりうる人が喜ぶ項目を10個列挙してみると、アイデアに具体性が生まれるというのだ。確かに「フィンランドに移住する予定のある日本人の役に立つ記事を書こう」より、「フィンランド移住予定の日本人が喜ぶ情報その一『初期費用に関する情報』その

      • 包摂されながら排除される私たち

        文献を探していて偶然見つけたとある論文を読んで、震えてしまった。発行は一昨年。Becoming integrateable: hidden realities of integration policies and training in Finland(Masoud, Ameera ; Holm, Gunilla ; Brunila, Kristiina)、「『統合可能な人』になるために:フィンランドにおける統合政策と訓練の隠れた現実」、とでも訳そう。翻訳者ではないのでこの

        • 風呂場譚

          お風呂が好きだ。フィンランドに来てからも毎日のようにお風呂に入っている。もちろん日本家屋に備え付けられている多くの風呂場のように浴室と浴槽が一体化している訳ではないが、それでもしっかりしたバスタブが家にあることを多くの在欧邦人が羨むことだろう。フィンランドはサウナ大国、部屋にサウナはあれどバスタブが備え付けられていることはなかなかない。バスタブを置くスペースがない場合も多い。 バスタブを自ら購入した訳ではない。私の住んでいるアパートは今は亡き夫の祖父が住んでいたアパートなの

          マスカットとバナナと努力

          生後9か月の息子の手には、四分の一に切られたマスカットが握られている。手をじっと見つめたと思ったら口元に持っていき、大きく開けた口に拳を押し付けるようにしながら手をそっと開く。マスカットは危なっかしく唇の上を滑り、口の中に入る。最後に親指以外の四本の小さな指で押し込まれる。 器用なもんだなと感嘆する。他にもスティック状に切ったバナナにはバナナに、細かくちぎったパンにはパンにはパンに合った方法で、実に上手に食べる。 先週まではこうは行かなかった。バナナなんかを握らせると、拳

          マスカットとバナナと努力

          Hello hello!

          小川洋子さんのエッセイの一ページが映し出されたスマートフォンの画面に、突然Hello hello!の文字が現れた。文字と共に現れたアイコンを見やり、誰だったかと確認する前にはもう文字と画像は画面上部に吸い込まれ消えていた。 予想もしないときに予想もしないものを見たときの人間の処理能力の遅さと言ったらない。通知を再度確認し、それがまぎれもなくRからのメッセージだと気づくまでに三十秒ほど要しただろうか、しばらく思考停止した頭の中が疑問符で埋め尽くされようとしたとき、ようやく私は