森林空間のリユース
「森林サービス産業」
その言葉から、皆さんはどんなことを連想する?
私ならまず、エコツーリズムを思い出す。
他にもそれは、例えば森林浴であったり、山歩きであったり、きのこ採りであったりするかもしれない。
または森の中にあるコテージでの休日だったり、野鳥観察であったりするかもしれない。
キャンプで行うバーベキュー、森林セラピー、ロングトレイル、とりもなおさずそれらは森林を利用するサービス産業という括りでまとめることができるだろう。
ただ森にいるというだけではなく、そこにしかないサービスを受けることで、豊かな時間を手に入れる。
そんな森林サービス産業の発展を、今、林野庁が推し進めている。
それはストレスフルな現代社会へ向けた、我らが森林パワーの再導入だ。
森林産業とだけ聞けば、まず思い浮かぶのは林業だ。
それに対して森林サービス産業とは、森林空間そのものを活用するアクティビティの提供だ。
林野庁は「Forest style」と名付けて、日々の生活と森林空間のクロスオーバーを人々へと発信している。
【人生100年時代のあらゆるステージにおいて、森林とのふれあいや森の恵みをいただきながら、健康的で、文化的な、楽しく心豊かに暮らすことを目指すライフスタイル】
そんな図を、林野庁は描いている。
現代社会では、物質的・経済的な豊かさが尊重されやすい。同時に精神的・心理的な豊かさに時間を使うことが難しい。
そんな中で、自分の時間をどう有意義に使うかと考えた時に、スローライフやデュアルライフといった地方生活を視野に入れる人は徐々に増えているように思う。
特にコロナ禍となってからは、リモートワークが取り入れられたこともあり、仕事場がオフィスや都市圏から自由になったという人も多いだろう。自分が集中できる空間や、ワーケーションとして休日と仕事を両立させるやり方を選ぶことができ、「場所」の選択肢の需要は高くなっているようだ。
では、森林という「場所」には、どんな価値があるだろう?
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実は、一般に思われている以上に、
森林には期待を越える健康促進の効果がある。
「マイナスイオン気持ちいいねー!」ではとても足りない。
森林総合研究所等の研究機関が、都市と森林でのストレス性比較を実験していて、その効能は疑う余地もない。
まず森林にいると、ストレスホルモン「コルチゾール」の分泌が抑えられる。
そして心肺測定の結果では、人は森林にいる時に交感神経が抑制され、前頭前野の活動も沈静化するということだ。更に副交感神経が優位になるので、身体から非常にリラックスすることができる。
森林浴を続けることで、免疫機能が向上することも認められている。血中に多いナチュラルキラー細胞は、がん細胞にも攻撃する強力な防疫機能だが、森林で数日過ごすだけでこのNK細胞は活性化。同時に抗がんタンパク質も、森で過ごすだけで増加する。
森の香り「フィトンチッド」の作用、都市部との温熱環境の比較等々の実験結果として、
都市よりも森林の方が、人にとって快適な環境であると裏付けられた。
「森に入ると気分が悪くなる」という人はどこかにいるかもしれないが、
「森に入ると心地が良い」と思う人は間違いなく多いだろう。
森林環境の与える効果が、パワハラ防止や、離職率の改善につながるという研究結果も出ている。それなので、企業の社員研修や保健福祉の合宿で、山村に出向く企業も出ているようだ。
森林空間がもたらすメンタルヘルスケア効果は、『森林セラピーソサエティ』という団体HPでも確認できる。
日本人は古くから、
森の中に暮らしてきた民族だ。
自然環境の恩恵を受けて発展し、また自然環境に生活を破壊されながら、自身を自然と一体化してきた。巨岩信仰や霊山信奉といった古来のアニミズムは、日本人が自然環境に身を委ねてきたことの表れだとも考えられる。
森林がもたらす心身への効能も、そうした民族性に根差すところがあるのかもしれない。私たち日本人は、森林に抱かれることで安らぎを感じることができるのだ。
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人間というものには往々にして、自らに実益のあるものにしか興味を持たない傾向がある。
それを超えて社会福祉や、公共利益、環境保全に取り組む人もいれば、そうではない人もいる。どちらが偉い、悪いということではなくて、そういう違いがあるだけだ。
森林の価値も、その恩恵を体感したことがなければ想像がつかないものかもしれない。
しかし、それでも日本人であるならば、森への愛情が心の奥底に沈んでいるかもしれないので、是非森林に来てほしい。
もし多くの人々が森を愛して、活用してくれたならその時こそ、
人が自然離れしていると警鐘を鳴らされる現代で、日本の自然の本質が再発見、刷新されるかもしれない。
林業の衰退や人口減少によって放置されてしまった日本の山に、新たなチャンスが生まれるかもしれない。
森林のリユース、その価値の再発見というのははつまり、
日本という国の経済、
そして日本人の生き方の再発見にもなり得るような気がしている。
2021.4.6
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