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【支援事例】 70代男性「脊髄小脳変性症の妻が自分の声で家電操作できるようになり、夜間の呼び出しが減ったため、身体が楽になりました。」


今回取材したのは、新潟県在住の脊髄小脳変性症を患う妻と暮らす、夫のAさん(70歳男性)。

補足:脊髄小脳変性症とは
歩行時のふらつきや、手の震え、ろれつが回らない等を症状とする神経の病気です。麻痺とは異なり、動かすことは出来るのに、上手に動かすことが出来ないという症状が中心になります。重症度や発症年齢により同じ病気でも大きく症状がことなります。

国立精神・神経医療研究センター

Aさんは、新潟県長岡市のALS患者さんへのICT機器導入支援を報じた新聞の記事を見て、保健所に問い合わせ、スマートスピーカーとスマートリモコンの無料貸出の支援を受けることになりました。

妻が病気でベッドにいる時間が長くなり、家電操作が困難になった際に、スマートスピーカーとスマートリモコンが大いに役立ったとのことです。また、夫のAさん自身も、今回の支援をきっかけに様々なメリットを感じたそうです。

この記事を通じて、詳しくご紹介していきます。


概要

支援者情報

支援当時の身体状況

支援対象者:脊髄小脳変性症 70代女性
・病気の進行に伴い、身体が動かしづらくなってきた
・ベッドで過ごすことが多くなった

支援内容

以下の機器をご自宅に設定/設置し、約1ヶ月間無料で活用いただきました。
・EchoShow8(スマートスピーカー)
・Switch Bot ハブミニ(スマートリモコン)

活用方法
・家電(テレビ/エアコン)を音声で操作
・離れて住む家族とのテレビ電話
・料理の作り方の音声検索
・クラシック音楽やラジオを聴く

機器利用中の生活の変化

本人
・病気の進行とともに制約されていたテレビやエアコンの家電操作ができるようになった。
・スマートフォンでしていた家族とのテレビ電話が、カメラの画角が広くなり、音質も向上したため快適になった。
・音楽やラジオ、検索などの機能を使用することで、楽しみが増えた。

家族
・本人が家族に頼らずにエアコン操作ができるようになったため、夜間の呼び出しが減り、身体が楽になった。


支援終了後

約1ヶ月間の無料貸出期間終了後、対象の機器を自費購入し、継続利用中
理由:スマートスピーカーとスマートリモコンを使用し、声だけの指示で家電を動かすことができるようになったり、音声検索や音楽、ラジオなどの楽しみも増えたため自費購入に至った。また、本人が家電操作を行える様になり、家族の負担も減り、メリットを感じた。

取材内容

脊髄小脳変性症を患う妻と暮らす夫のAさん(70歳男性)にお話を伺いました。
※ 取材時、ご本人様は逝去されていたため、ご家族のみの取材となりました


ー 本日はよろしくお願いします。

Aさん:
お役に立てるかどうかわかりませんが、よろしくお願いいたします。


スマートスピーカー導入のきっかけ


ー  身近なICT機器の貸出、設定/設置、活用レクチャーを無料で行うこの支援を、受けようと思ったきっかけは何ですか?

Aさん:
きっかけは新聞の記事なんですよ。

ー  こちらの記事でしょうか?

Aさん:
そうですね。記事を見た後すぐに保健所に行って、「声で家電を操作できる機器を無料で貸し出しているって新聞に書いてあるけど、ありますか?」ということで聞きに行きました。そこから担当の保健師の方に相談して、 無料で貸していただけることになりました。

ー  「スマートスピーカー」という機器については、この新聞の記事で初めて知ったのでしょうか?

Aさん:
そうですね。最初は正直、どういうものか全然わかりませんでしたが、病気の進行に伴い、身体が動かしづらくなっている妻の姿を見ていたので、声で家電が動かせるのなら便利そうな感じがして、すぐに保健所に聞きに行きました。

以前から使用していた機器

ー  奥様はタブレットやスマートフォンといった機器は以前から使用していましたか?

Aさん:
病気になる前はパソコンで調べ物などをしていました。
ただ、病気になってからはベッドで生活することが長くなって、あまり触らなくなりました。

その後は、ベッドの上でスマートフォンを使って、メールやLINE、検索もしていました。ベッドから起き上がる際に、誰かを呼ぶときの連絡もスマートフォンでしていましたね。

ー  では、元々そういった機器に対しては、あまりハードルはなかったのですね。

Aさん:
それほど機械に強い方じゃないですけど、インターネット使うとか、そういうのは結構していましたね。

病気になる前に使用していたPC端末

スマートスピーカーの活用方法

ー 今回、スマートスピーカーとスマートリモコンを約2ヶ月間、無料で使用いただきましたが、日常生活の中でどのように活用されていましたか?

Aさん:
妻が亡くなったのが10月なんですけど、7月ぐらいから、暑くなりましたよね。
夜寝る前に「今日はエアコンをかけなくてもいい」と言っていても、夜中に暑くなる日が多くなりました。

そうした時に、今までは自分でリモコンで操作していたのが、病気の進行とともにリモコンを取る動作がしにくくなってきたので、夜間に私が呼び出されて、本人の代わりにエアコンをつけることが頻繁にありました。

ただ、スマートスピーカーを使い始めてからは、本人がスマートスピーカーに「エアコンをつけて」と言うだけでエアコンをつけられるようになり、夜間の呼び出しが減り、私自身の負担が減りました。そういう点が良かったですね。

スマートスピーカーとスマートリモコンの連携によるご家族への効果


あとは、遠くに住んでいる孫とのビデオ電話ですね。大体、21時前後にするっていう風に決めていました。お風呂から上がって、寝るまでの間っていうか、そういうので。

ー  スマートスピーカーを導入する前も電話する習慣はありましたか?

Aさん:
はい。以前はスマートフォンでしていました。それがスマートスピーカーに置き換わったことによって、画面が大きくなったので2人で映っても全然余裕で、快適になりました。また、スマートフォンと違って、スマートスピーカーの方が音がクリアに聞こえて、その点も非常に良かったです。

ー  スマートスピーカーには、音楽やラジオ、占い、天気予報など、無料で使える便利な機能があります。それらの機能は活用されていましたか?

Aさん:
音楽はクラシックなどを好んで聴いていました。ラジオを聴く際も「NHK第一つけて」と言えばすぐに聞けるので重宝していました。


スマートスピーカー導入前の不安

ー スマートスピーカー使ってる中で、大変だったり使いにくかった部分はありますか?

Aさん:
不具合が起きた時に、どう対処すればいいか不安がありましたが、使用中に大きな不具合に遭遇することはありませんでした。

数回、スマートスピーカーの音声が乱れることはありましたが、機器本体やWi-Fiの再起動などを試したら直ったので、そこまで心配する必要はありませんでしたね。


家族が感じる機器導入のメリット

ー  スマートスピーカーを本人が使うことによって、ご家族が感じるメリットはありますか?

Aさん:
やっぱり、本人が家電の操作を自分でできるようになったのは大きかったです。
エアコンの操作と、あとはテレビですね。「テレビをつけて」「5チャンネルに変えて」とか言って、誰かに頼まなくても自分の見たいものを自由にできるので。

ー  貸出期間終了後、スマートスピーカーとスマートリモコンを自費で購入されたと伺いました。Aさんご自身は現在、それらを活用されていますか?

Aさん:
私はあまり活用していませんね。
妻はテレビやエアコンの操作や、離れて住む家族とのテレビ電話、料理の作り方を音声で検索、クラシック音楽やラジオなど、様々な機能を活用していましたが、私が今使っている機能としては音楽とラジオくらいですね。

ただ、今回の支援をきっかけに『声で操作をする』という選択肢が増えました。将来、自分が病気で動きづらくなった時に、「妻が使っていた声で家電を操作する方法がある」と、すぐに代替手段を思い出せるようになりました。

自分が病気になった場合には、スマートスピーカーの使い方を妻が使っていたような形に変えようと考えています。今回の支援で自分自身も選択肢が増え、とても良い経験をさせてもらったと感じています。

現在Aさんが使用しているスマートスピーカー(EchoShow5)


スマートスピーカーの利用経験のない方へのメッセージ

ー  最後に、 奥様と同じ病気である脊髄小脳変性症を患う方やそのご家族、支援者に対して伝えたいメッセージなどあればお願いします。

Aさん:
うちの妻みたいな難病の人にはね、すごくいいと思います。

だから、新聞見た時も、すぐに反応したわけですよね。新聞だけで全てを理解したわけではないけれども、 やってみてダメならだめで、やれるとこまでやってもらえればと思っていましたから。

ー  まずはやってみたらいいんじゃないか、と。

Aさん:
やれる人がね、そばにいてもらえばね。もうちょっと広がるんじゃないかなと思いますね。あと、私みたいに、子どもがみんな離れて暮らしている方は、スマートスピーカーを利用して、週1回でも顔を見て電話するのがいいかもしれませんね。

ー  スマートスピーカーを実際に使ってみて、他の人におすすめしたいと思いましたか?

Aさん:
おすすめしたいですね。機械自体もね、そんな高くないですし。「安心料」としてもいいと思います。

近所の人にもスマートスピーカーを使っていたとはあまり言っていませんが、今度、1人で住んでいる高齢者には、紹介してみようかなと思っていますね。便利ですし。

支援者側というか、介助者側からしても、すごく良いと思います。

今回の話が1人でも2人でもね、役立ってくれればね。私もこれからまたそういうのにお世話になるかもしれないし。本当に良い機会でした。ありがとうございました。

ー ご協力いただき、ありがとうございました。取材は以上で終了となります。

まとめ

今回の取材で大きな収穫は、機器の導入が神経難病患者さんだけでなく、その家族の生活の質(QOL)も大きく向上させることがわかった点です。

スマートスピーカーとスマートリモコンの導入により、家中のさまざまな家電を簡単に操作できるようになり、患者さんが自立した生活を送れるようになったことで、家族の負担が減りました。

Aさんのこの体験は、まだICT機器の使用経験のない神経難病患者さんやその家族に、多くの示唆を与えてくれるものです。

その一方で、機器に不慣れな方々の新しい技術に対して持つ抵抗感も無視できません。Aさんも、実際に使用するまでは不安があったと語っています。

その抵抗感や不安を少しでも解消するために、私は新潟県地域おこし協力隊として、新潟県内の神経難病患者さんとそのご家族を対象に、身近なICT機器の貸出、設定/設置、活用レクチャーを無料で実施しています。

新潟県内の神経難病を患う方で、「楽しみを増やしたい!」「声だけでテレビを操作したい!」「声だけで電話をかけたり、電話に出たりできるようになりたい!」といった方がいれば、こちらからご連絡ください。

また、地域の力で難病患者を支えるこの活動を継続するために、機器提供やサービス提供等でご協力いただける企業様・団体様からのお問い合わせもお待ちしております。

もちろん、普段から難病患者さんへの支援を実施している支援者の皆様や、医療・福祉関係者、福祉政策に携わる自治体・政府関係者からのご質問もこちらからお待ちしております。

皆様からのご意見やご協力を頂きながら、課題を一つ一つ解決し、支援活動を進めていきたいと思います。

いただいたサポートは、新潟県地域おこし協力隊の任期後も難病支援を続けるための『活動資金』として活用させていただきます。