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理論と実践の両輪~ドイツの職業訓練制度に学ぶ

こちらの記事では、インドでの調査で学校で学ぶ算数は現場で役立たず、現場で学ぶ計算は学校で役立たないということが分かったということが書かれていた。


これ、算数だけでなく語学でも言えることだ。
特に話し言葉と書き言葉のギャップが大きい言語(日本語!)だと、教科書の会話例って、いかにも教科書~という感じ。

一昨日したテストの聴解で、
「日曜日にゲームしない?」
「いいね。けんも来る?」
「ううん、けんはアルバイトがあると言っていた」
と友達同士の会話があったけど、この引用の「と」がむちゃくちゃ胡散臭いw
普段の会話なら「あるって言ってた」となるだろう。

かと言って、じゃあ「---と」は全部「---って」にしてよいかというと、
「先生は----っておっしゃっていました。」
がちょっと砕けた印象になってしまうこともある。
書き言葉はもちろん、場合によっては、やはり「と」が相応しいこともある。

話すだけにしても、教員は「ティーチャーズトーク」と言って、まるべく習った語彙や文法を使って、初級なら特にはっきりゆっくり話すので、先生の言っていることは分かるけど、日本に行ったら、全然分からなかった!ということも起こりうる。

もちろん算数や語学だけでなく、全ての教科、分野において実生活とのギャップというのはある。
自動車教習所で制限速度をオーバーしたら、不合格になるけど、実際乗り始めたら「プラス10キロ」くらいでないと、交通の妨げになっていたものだ。
(ただ、今の日本は知らないが、ドイツは今「プラス10キロ」だと速度制限計測器があった場合につかまってしまうので、時と場所によって変わる!)

その対策をうまくしていると思われるのが、ドイツの職業訓練制度、アウスビルドゥングだ。
Bildung(ビルドゥング)は動詞bildenの名詞化されたもの。
絵や写真などの図表化されたものをBildというが、bildenは形にすることを意味する。
私が普段建物を指すのに使う「ビル」と同じ語源だ。

私はドイツ文学科だったので、ゲーテの「ヴィルヘルムマイスター」はBildungsroman(教養小説)と習った。
映画のロードムービーのように、一人の人間が様々な経験を経て、成長していくような話だ。
形作っていくのは何かというと、ここでは人間である。
日本語でも「自己形成」というように、「形を成して」いくのである。
なお、「教育」という言葉もBildungという。
1つ1つ階層を積み上げていくイメージで、私はいつも建物のビルを思い浮かべる。

Ausは、そもそも英語でいうとout, fromなどを意味する前置詞だ。
レッスン1で「日本から来ました」で「aus Japan」と習うだろう。
何かから出てきたり、その由来、理由などを導くことができるし、副詞的に用いるときは消える、終わるという意味になる。
Ausblidungは「外部で」の、「外部から」の「形成」で、トータルで職業訓練制度という意味になる。

ドイツで半数ほどの生徒は小学校4年間のあと、6年制のRealschuleに行く。
Realは英語と同じ、リアルで、ここでは実業と訳すのが相応しい。
日本の高校1年年代で学校は修了となり、その後この職業訓練コースに進む人が多い。
もちろん、ドイツの学校選択の可能性は多岐に渡るので、実業学校からギムナジウム(進学学校)に転校する人もいるし、ギムナジウム終了後にアウスビルドゥングをする人もいる。

日本と違って、ドイツでは大卒でなくてもこの職業訓練を受けていればなれる仕事が多い。
看護師、医療系の療法士、保育士、工業系、情報系の技術者、銀行員、客室乗務員、花屋やパン屋などの町の身近な職業も職業訓練の対象だ。

内容により2~3年の間、2週間学校に通って理論を学び、2週間受け入れ先企業で実践を学ぶというローテーションを繰り返す。
日本の専門学校と違うところは、そのシステムはもちろん学費がかからず、むしろ働いた分、月々800ユーロ程度(今の為替なら12万円くらい)のお給料がもらえることだ。
ルームシェアが前提になるだろうが、実家を出て暮らすことだって可能だ!

終了後にはテストがあり、日本でいう「〇〇士」「〇〇師」などの資格がもらえる。
この制度の延長線に「マイスター」がある。
マイスターはただ「名人」とか「ベテラン」という意味ではなく、然るべき就業年数に加えて、試験もあるのだ。
警察官とか教員などの公務員の昇級と同じイメージで間違いない。

机上で学ぶだけでは実務に役立たない空論になる可能性があり、まだ実務だけのたたき上げでは、視野が狭くなったり、基本的な知識に欠けることもあり、どちらも片手落ちと言えるだろう。
この両輪を適度な間隔で学ぶことで、知識と経験を確固たるものにしていくことができる。

日本のように新入社員をごっそり取るということはなく、手取り足取りの新入社員教育なんてものはない。
だから、経験のない人は雇ってもらえるチャンスはあまりないのだ。
いい人材であれば、企業実習でお世話になったところからスカウトがかかる。
受け入れ側も社会的貢献という側面ももちろんあるだろうが、青田買いするチャンスでもあるのだ。
しかも、見るだけで決めるのではなく、実務をやらせて見られるのだから、その後の失敗も少ない。
もし、実習先にチャンスがなかっとしても、この職業訓練でもいい成績を残せていれば、チャンスは広がるだろう。

日本語教員養成講座を受けているが、26単位中、実習はたった1単位だ。
前後の指導はあるが、実習は最短5日間だけ。
しかしこれでも、登録日本語教員資格が国家資格化されて改善されているのだ!

中学高校なら、学校教育の教育実習も2週間程度だ。
教育学部なら4年間勉強して、たった4週間。
ドイツの教育実習は1年だか1年半あるという。
ここにもドイツの「理論と実践」の意識が現れている。

私も指導において、「実践」を念頭に入れることを肝に銘じておきたい。


詳しく知りたい方はアウスビルドゥングで検索すれば、山ほど記事が出てくると思いますが、ドイツ大使館のサイトを貼っておきます。


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