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いつものままで

食べ物に関するエッセイは面白い。

グルメや蘊蓄ではなく、その人が普段から食べているものに関する話が好きだ。

日常的に食べているもの、好きな食べもの、それに対する思いは、その人の根源のように感じる。

言葉よりも直感的に、その人を理解できる気がしてしまうのだ。

自分の食生活と近ければ親近感を感じるし、遠ければ興味が生まれる。


私の好きな本は、劇的なものよりもささやかな日常を描いたものが多い。

日常の最たるものである食事は、安堵の象徴に思える。

食のエッセイは自分にとって安定剤のような位置づけだ。

特に現在のように何かと疲れてしまう日々の中では、気軽に読めて笑えるものがいい。

自分にとってその一冊は長らく、「お食辞解」(金田一秀穂)だった。

だった、というのは笑えなくなったという意味ではなく、一冊ではなくなったということ。

「君がいない夜のごはん」(穂村弘)が仲間入りしたのだ。

結婚するまで実家暮らし、料理できないやらない自称・味音痴である穂村さんが、なんと何故か食のエッセイを書いてしまった。

なので、食そのものではないところに焦点が当たっているのだが、それがとにかく笑える一冊。

穂村さんのコンプレックスむき出しの、まったく着飾っていないところが大好きだ。


私はよく、面白いと思った本を母に貸す。

特に家で過ごす時間が増えたこの数か月、気を紛らわしてほしいと何冊も貸してきた。

「君がいない夜のごはん」もその中の一冊なのだが、「この人面白いねー、読んでて一人で笑っちゃった」との感想。

よかった。

こういう時だからこそ、丁寧に生きるのが難しいこともある。

肩に力の入っていない、平凡で不器用な“いつもどおり”が愛しい。