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【読書レビュー】背筋「穢れた聖地巡礼について」※ネタバレあり
こんばんは。PisMaです。
今回は先日読了した「穢れた聖地巡礼について」について書きます。この記事はネタバレを多く含みますので、必ず読了後・ネタバレOKの方のみお読みください。
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私は背筋氏の前作「近畿地方のある場所について」も読了済。
前作は点在する怪異の奇行の理由がだんだん分かっていく流れのように見えました。今回は怪異寄りというよりはヒトコワ前提の怪談。
考察要素も強い本だと感じたので、私も僭越ながら独自解釈の考察も交えてみました。的外れの可能性も大いにございますので、薄目かつ参考程度に笑って眺めていただければ幸いです。
・この物語の「怪異」とはなんなのか
罪を産み、償い、また始まる業を背負う罪人たちの輪廻転生。怨嗟、嫉妬など様々な要因がありますが、人が死ぬことを切望しそれを叶えた人間…つまり「人を殺したことがある」業の深い罪人から罪が生まれていきます。
罪人が子を設けると、自分が殺したはずの人が輪廻転生し生まれてくる。そして子どもは「あなたの番」と告げ、罪深い人は穢れた聖地巡礼を通し罪を贖う…というのが大きな流れに見えました。
ひとの悪意や欲には底がありません。
「人を呪わば穴二つ」とは言いますが、人を呪えば巡り巡って帰ってくる。罪人は贖罪の輪の中に悪意を持って引き擦りこむ。そして本編の一番最後の資料として出てくる「六部殺し」という民話。
「六部」とは、66箇所にある寺社仏閣に経典を納めるため巡礼を行うという風習なのですが…この穢れた聖地巡礼の源流となった話なのでしょう。六部の風習が歪み、おぞましい輪廻転生になったのかと思うと寒気がしますね。
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本編に出てくる「変態小屋」「天国病院」「輪廻ラブホ」についても軽くまとめていました。
心霊スポットとなっているこの三箇所は六部にまつわるスポットでもあったんじゃないかと考えています。病院やラブホが建つ前はそういった神社や寺があり、姿形を変えて「穢れた聖地巡礼」の巡礼スポットになっているんじゃないかなと。
確証ないんですけどね。
・「風船男」とは
物語の要所に出現する「風船男」と呼ばれる怪異。目と口のズレた大きな頭の男で、ヨタヨタと歩きながらどこかに向かうそう。これは穢れた聖地巡礼を行う「巡礼者」の姿だと考えられますね。
本編に出てくる資料のなかでは、人を呪い殺す方法を教える「死神」と呼ばれていたり。人を輪廻に引き込むため、わざと悪意を植え付けるようなこともしているのかもしれません。
・登場人物について
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登場人物たちの情報をまとめてみました。
三人とも故意に「人を死に追いやった(かもしれない)過去」を抱えており、業を背負っていると捉えられます。上記のとおり、輪廻転生に巻き込まれるのに必要な条件は満たしていますね。
一番興味深いのはチャンイケこと池田。
池田は幽霊やオバケの類を
「馬鹿馬鹿しい」
「見えないものを勝手に解釈してイライラする」
とこき下ろす発言が多くありました。実際は幽霊の存在に信じて怯えており、自分に言い聞かせる形で否定していたようです。
物語の終盤で「殺してしまったと後悔していた人物」が生存していることが判明したり、シングルマザーが死亡していたりと何かと死が近い境遇をしています。本編の中に「最上級の呪いは死」と言われる部分があるのですが…なんだか母が亡くなっているのが気になりますよね。
また登場人物には副題でキーワードがあります。小林は人の人生を狂わせてもなお売れる記事を書くことに魂を売っている点から「強欲な簒奪者」、宝条は小林と手を組んで心霊に対し報復を試みている点などから「貧しい共犯者」でしょうか。
そして、池田の副題は「浅はかな巡礼者」。
無理やり何者かになるため才能ある人を妬んだことや、自分の欲を満たすために死者を軽んじたことなど。おそらく次に見たときの池田は「風船男」になっているのかなと思います。
逆に小林や宝条は巡礼者にならなかったのか、その辺りはよく分かっていないのですが…もしかしたら「本人の罪悪感が幽霊を見せる」と捉えられる描写も多い本作ですので、本当に死者に恨まれている人とそうでない人がいるのかもしれません。宝条は後者だったのかも…。
・諸々を考え終わってからの感想
いや〜〜、難しかったです。
情報を洗い出さないと本筋が見えてこないので、サクッと恐怖を摂りたい方には少々不向きかもしれません。得体の知れない雰囲気は抜群ですが、少々ヒトコワ寄りの印象。怪異の性質を看破したり、霊障の描写で背筋を凍らせたい人にはちょっと毛色が違うかなという感想を抱きました。
しかしこれだけ広く考察できる余地があったり、最終的に民俗学的な部分に行き着くのはやはり怪談の醍醐味ですので、そこがしっかり抑えられてるのはたまらないですね。
「見えないものに浪漫を感じて面白がるなんて馬鹿馬鹿しい」などなど、怪談やホラーが好きな自分には耳が痛い話も多かったですが…幽霊や怪異には、付かず離れず馬鹿にせずを大切にやっていきたいと感じました。
今回はここまで。まだまだ考察しきれていない部分もありますが、書きたい部分は書けたのでこの辺で。
お相手は黄緑の魔女PisMaでした。
ぐるぐるぐる、またうまれます。
おやすみなさい。