NLPについて(1)
(これは2021年1月にエッセイの会に投稿したエッセイです)
4年前の冬、「かさこ塾」というフリーランスの人のためのセミナーに参加した。その時に出会った永井道子さんはヒプノセラピーのセラピストである。彼女のセラピーを一度受けたことがあり、公開カウンセリングにも参加した。当時、私は通信教育でカウンセラーの資格を取得したばかりだったので、ヒプノセラピーにも関心があったからだ。その永井さんと、最近また再会した。永井さんはNLP講座を始めたという。
NLPは私も関心がありネットで調べたりしていたが、既成のNLP講座はなぜか非常に高額で(三十万円~七十万円)とても手が出せないでいた。このNLP講座を永井さんは格安で提供しているという。しかも月一回開催しているNLP体験会は近くの公民館を使っているので千円で参加できるという。そこでさっそく彼女のNLP体験会及びNLP講座に申し込んだ。しかも今回は特別に(コロナで受講者が減っていることもあり)個人レッスンをしてくれるという。こんなラッキーなことはない。
十一月半ばの火曜日、彼女のセラピールーム「菜の花」に向かった。この日、たっぷり三時間かけてNLPの導入から最初の簡単な演習(アンカーリング、卓越性サークル)を教えていただいた。実に興味深く面白い三時間だった。
NLP(神経言語プログラミング)というのは、1975年にアメリカで開発された心理療法である。開発したのは、リチャード・バンドラーとジョン・グリンダーという二人。バンドラーは心理学と数学、グリンダーは言語学の専門家である。
彼らは、心理療法に効果をあげている3人のセラピスト、ミルトン・エリクソン(催眠療法)、フリッツ・パールズ(ゲシュタルト療法)、バージニア・サティア(家族療法)の手法を研究し、これらを統合して、コミュニケーション学、自己啓発法、心理療法を中心とした体系を作りあげた。これがNLPである。ベトナム戦争の帰還兵のトラウマ解消に非常に効果的だったことから有名になった。現在、アメリカではビジネスや自己啓発セミナーなどに応用されている非常にポピュラーで応用範囲の広い心理的手法である。
私もカウンセラーの資格をとったとき、ミルトン・エリクソンの催眠療法やフリッツ・パールズのゲシュタルト療法などについて少し勉強していたので、この人たちの名前にはなじみがあり、NLPもいつか勉強したいと思っていた。でも残念ながら、こういう効果的な手法は金儲けの手段になりがちだ。しかも、NLPは実習を伴うのでトレーナーが欠かせない。このトレーナーを養成するためにさらに高額な費用を設定している団体もあるようだ。今やNLPはアメリカ式のビジネス展開に欠かせないスキルになっているという。
つまり、それほど効果的に人間の脳と心をコントロールする技法なのである。心理療法に適用すれば苦しんでいる人たちを救えるのだが、詐欺師にとっても有効なスキルになりうる。両刃の刀、というわけである。
NLPには多くの手法があるのだが、私が受講したのは以下のものである(全5回の講座)。
意識と無意識、知覚ポジション、4Te・4Ti アンカーリング、卓越性サークル、表出体系、ラポール、カリブレーション、リフレーミング、諸前提、眼球動作パターン、サブモダリティ、姿勢編集、内なる医者、ビジュアルスカッシュ、ヒーローズジャーニー。トラウマケア、タイムライン・・・
この他にもたくさんの(何十種類もの)手法があって、どれもユニークで面白そうだ。名前の羅列をみても想像がつかないと思うが、これらの手法を学ぶ際には必ず体を動かす実習が伴う。だからこそ優秀なトレーナーが不可欠で、本を読んだだけでは効果が薄い(NLP講座が高額な理由の一つがこれ)。体を動かすことで、私たちの中に眠っている無意識をゆさぶり起こすというわけだ。
この「体を動かす」という点は、こんまりメソッド(近藤麻理恵の「人生がときめく片づけの魔法」)にも共通する部分で、人間は体を動かすことで無意識の領域を覚醒させることができるようだ。
人間には意識と無意識の世界がある。よく言われる例えが、意識は氷山の一角、無意識は水面下に隠れている氷山だという。しかし、NLPによると、意識をサクランボ大とすると、無意識はゾウの大きさなのだという。それくらい無意識の領域の方が大きい。そして、この無意識こそが私たちを動かしている原動力なのだが、普段は全く気付くことはない。「無意識には無限の可能性があります」と永井さんは言う。
NLPはこの無意識の領域にアクセスし、無意識の持つ無限の可能性を引き出す手法なのである。非常にシンプルかつ有効的で応用範囲が広く、誰にでも使える便利な方法だ。
まずは、最初に習った「アンカーリング」について簡単に説明を試みてみようと思う。
アンカーリング
アンカーリングはNLPの重要な手法の一つである。嫌な場面に遭遇したり、あるいは恐怖を覚えたりしたときに、この手法を用いてリラックスしたり平常心を取り戻したりすることができる。
アンカーというのは船の錨のこと。船は海底に固定されたアンカーに繋がれていて遠くにはいけない。アンカーは広大な無意識の領域にあり、船は意識である。このアンカーを別の場所に移すことにより、船を別の場所に移動させることができる。錨を移動させて、船を別の場所に移動させるように。
これ、実はパブロフの犬の条件反射実験に似ている。ベルを鳴らして犬に餌を与えていると、犬はベルを聞いただけでよだれを垂らすようになる。私たちもイメージの力によって自分自身に条件反射を設定することができる。
方法は極めて簡単。
まずは体をシェイクして今の気分を払い落とす(リセットする)。
次に、これまでに経験した幸せなシーン、美しい光景を思い浮かべながら、左手を握ったり開いたりする。
何度か繰り返して、左手を握ったり開いたりするとその幸せな気分が蘇ってくるように条件付けをする。
左手を振って、条件付けした気分を払い落す(これ重要。毎回手を振ったり体をゆすったりしてリセットする)。
次にネガティブな場面を思い浮かべ、その時の気分を軽く感じる。
それから、左手を握ったり開いたりする。
すると、不思議なことに、ネガティブな気分が薄らいでくる。
何度か繰り返していると、ネガティブな気分がポジティブな気分に置き換わっていくようになる。
これがアンカーリングである。
私は海外旅行に行くときの空港を思い浮かべた。これから飛行機に乗って飛び立つ、あのわくわく感。そしてまた、白い砂浜と青い海という天国のような光景。これらを思い浮かべるといつも幸せな気分になる。こうした光景をまるで目の前に見ているかのようにリアルに思い浮かべ(ここ大事。リアルに思い浮かべること。周囲の詳しい様子、匂いや肌感覚など)、それから左手を握ったり開いたりして条件付けをする。
左手を振って条件付けした気分をリセットする。
次にネガティブな光景を思い浮かべて、その気分を軽く感じる。
それから、先ほど条件付けをした左手を握ったり開いたりする動作をする。
すると、ネガティブな気分にわくわく感や幸福感が重なってきて、次第にネガティブな気分が薄らぎ、やがて消えていったではないか。
まるで黒板消しで黒板に書かれた嫌な文字を消し去ったかのように。
私たちの無意識領域に書き込まれたこの嫌な文字は、アンカーリングという黒板消しで消すことができるのだ。まるで魔法のように。
というわけで、試しにやってみるもいいかもしれないが、実際のところ、トレーナーと一緒にやる方がはるかに効果は高い。
NLPは体を動かす実践が大事だが、トレーナーやその場の雰囲気なども大きく影響するので、手法さえ学べばいいというわけにいかないのが難しいところである。
また、NLPは体を動かすことと同時にイメージも大事にする。なぜなら、私たちの意識(サクランボ大)はイメージを通して無意識(ゾウの大きさ)にアクセスできるからだ。イメージというのは想像以上に大きな力を持っている。NLPに限らずヨガや気功などでもイメージを大いに活用している。
人間の持つ能力(潜在能力)というのは様々な方法で開発することができるのだが、NLPもその一つというわけだ。
次回はNLPの「サブモダリティ」あるいは「ヒーローズジャーニー」「トラウマケア」または別の手法について書きたいと思う。 (続く)
(残念ながら、セラピールーム「菜の花」は現在休業中です)