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10月のこと(西田敏行さんを偲んで)


©︎米よし子


18歳まで、福島県の会津地方で育った。方言はかなり強めのエリアで、他の地方の人には祖母世代の言葉は聞き取れないかもしれない。

たまにドラマなどで東北出身ではない人が東北弁を話していることがあるが、少し違和感を覚える。
いわゆる全国的な東北弁のイメージは、「だべ」や「だっぺ」などの語尾。だが、本当はそれだけではない。

東北でも県によって違いはあるが、濁点が多いのはもちろん、独特のイントネーションだったり、「し」と「す」、「ち」と「つ」の発音に区別がなかったり、一文字だけで通じる短い表現があったりとさまざまな特徴がある。
単純に単語の表現が違う、ということだけではない。

祖母世代が話す方言はつるつるとなめらかで、区切りや発音が独特で外国語のような響きだった。
それが心地よく、不思議と聞き取れるのが嬉しかった。

大学進学にあたり上京してからは、イントネーションの違いを指摘されることがたまにあった。私は東北のことも会津のことも大好きだったし、方言を恥じたことはなかった。

でも、関西弁も広島弁もそのまま話しているのに、東北弁だけ指摘されるのはなぜなんだろう。
東北弁が聞こえない環境は少しさみしかったが、そとうち自然と標準語が自分に馴染んでいった。

そういえば、『世にも奇妙な物語』で強く記憶に残っているエピソードがある。19歳の木村拓哉が主演を務めた『言葉のない部屋』。
東北から出てきて町工場で働く主人公の青年は、訛りを気にして同僚とまともに話せない。友達もできず、部屋でテープレコーダーに自分の声を録音して楽しむ‥‥という話だ。結末は記さないが、あまりにも哀しいラストだった。

話自体はかなり好みだったし、個人的『世にも〜』好きな話ランキング上位にも入っている。
でも、東京に住む東北出身者が持たれがちな寂しいイメージにはちょっと笑ってしまった。

いいよなぁ、関西弁とか九州の方言は。かっこいいとか、かわいいって言われるし。
バラエティで方言特集があると、東北弁はたいていおもしろ方向に使われてるし。いいのにな、東北弁。

そんな折、一人暮らしの部屋でテレビを見ていたら聞き馴染みのある方言が耳に入ってきた。
2013年の大河ドラマ『八重の桜』での西田敏行だった。

会津を舞台としたドラマに、福島出身の俳優・西田敏行が出ている。それだけでも嬉しいのに、小さい頃からずーっと聞いてきた言葉が流れている。

なめらかで、やさしくて、あたたかい。

祖母の言葉を聞いているみたいで、仕事でへとへとだった心がやわやわとほどけた瞬間だった。

子どもの頃は、釣りバカのハマちゃんが好きだった。『タイガー&ドラゴン』や『俺の家の話』など、脚本家・宮藤官九郎とTBS・磯山晶が生み出す西田敏行と長瀬智也の関係も大好きだった。

でも、訃報を聞いたときに真っ先に思い出したのは、あの日の西田敏行だった。
テレビから聞こえてきた、あったかい東北弁。
そうだった、祖母の言葉が聞きたくて、あのあとすぐに電話したんだった。

涙が出る。

西田敏行さんのご冥福をお祈りいたします。

(敬称略)

©︎米よし子

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