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2024年度 心電図検定1級受験への道~①~

2023年11月に健診医に移行して間もなく1年
自分の空白の経歴書を見るとどーも隙間風が吹くような感覚を覚えていた私が真っ先に目を付けた資格がある。
心電図検定である。

なぜ心電図検定か??という事についてだが
まず健診医と心電図検定資格は非常に親和性が高い。
一般的には循環器医がその枠にはまると思うが
健診医は循環器医に勝るアドバンテージが一つある。
圧倒的心電図の暴露量である。
とにかく毎日山の様に心電図を目にするので
研修医の頃に一度も見たことが無かった
WPW症候群やブルガダ波形や肥大型心筋症など
本人の自覚症状がないタイプの心電図異常をしばしば経験できる。
中には30歳の徐脈頻脈症候群や完全房室ブロックなど摩訶不思議な
心電図も目にする機会もあった。
まあ健診というセッティング上、急性冠症候群や心膜炎などのいわゆる急性疾患には出会いにくいのだが、(というか出会っていないが)
バリエージョンは安定期の心電図に偏りはあるとは言え、
かなりの量を経験できるアドバンテージは大きい。

そして何より心電図検定は試験のみで合否が決まるという点である。
この点は極めて大きい。
専門医をとる上での最大のネックがそこである。
正直一度結婚して子供もできちまうと、あちこち(時には離島も含めて)
移動に移動を重ねる専門研修はま~難しい。
余程伴侶の理解が得られているか、親などのサポートがあるかなどの
条件がクリア出来ていなければ正直難しいと思える。

が、心電図検定はそれが無い。小難しいJ-Oslerもなければ
研修手帳もなければ、症例報告もない。
試験にパスする!それのみである。
それであわよくば経歴書が1行厚くなるのだからこれを受けない手はない。

ちなみに似たような理由でマンモグラフィー読影医あたりも狙おうとしたが
ウチの施設が乳がん検診はやらん予定だそうでこちらは見送りである。
あと似たような所で狙えるのが消化器がん検診認定医である。
これは学会参加と試験と(あと読影の経験と)があればいけるので
ウチの施設だけでも十分取得は可能である。こちらは追々検討予定である。

さてそんなこんなで心電図を勉強し続ける事、約1年
2024年度の試験は12月中旬にあるのであと2ヵ月とちょっとという所である
今後また実際に受ける所と結果まで含めて経過を記していきたい。

そもそも1年前の状態は心電図はま~ちんぷんかんぷんであった。
研修医の時も最も苦手な検査の一つと言っても過言ではないものだった
実際心電図って、一番身近な検査の一つでありながら一番見過ごされている検査に思える。心電図はちゃんとメッセージを発しているのに、読み手がそれをくみ取れずに異常が見過ごされる検査ランキングトップ3に入る気がする。(他に似たような検査として血ガスが挙げられる)

整形外科の指導医と二人で入った当直で、心電図でST上昇があります!
と二人で慌てていたら単にJ波症候群だった事もあれば
陰性T波に軽度トロポニンT上昇、、これはNSTEMIだ!
と思えば単にJuvenileTだったりとか心電図にはとかく苦手意識しかなかった
勉強しようと思っても、な~んかNaチャネルとかKチャネルの1相、2相とか
とかくやる気がなくなる様な導入で挫折して結局いつまで経っても
身につかなかったが、現職で心電図大量暴露療法を経て
よーやくその苦手意識も変わりつつある。
なんとかあと2ヵ月煮詰めて合格水準まで達していきたい所である。

ただいかんせん周りに循環器のDrもおらず
かつ健診で異常として紹介を出した患者は大体その後どうなったか
分からずじまいなので、どーも疑問が解決せずにいる事も少なくない。
ここで実際の健診で出会ったナゾ心電図をいくつか紹介する。
いまだに私はこの現象を言語化する知識を持っていない。
受験日までには何とかわかるようになっておきたい所である。

ナゾ心電図①
生来健康の23歳男性

この年齢くらいの人であれば、RR間隔が洞不整脈によって不正になるのはいい。それは普通である。
が、珍妙なのはPR間隔まで伸びている事である。
こんな事あるか???
となればまず考えるのがウェンケバッハ型ブロックだが
P波とQRSは常につながっている様に見えるし
P波が延長した後のP波もすぐ伝導が元に戻るというよりは
ゆっくり戻ったりなんだか規則性が無い。
従ってウェンケバッハとは言い難い。

実は完全ブロックでしたという展開についても
じゃあQRSは補充調律という事になるが
それにしてはRR間隔がバラバラすぎである。
かつP波も規則正しく出ているわけでもない。

移動性ペースメーカ+1度ブロック
一応これなら説明はつく、、のか??
PQ間隔は短いやつ、中くらいのやつ、長いやつと2パターン以上ありそうで
それぞれP波の形もびみょ~に違う、、気もする。
従って、正常洞調律のP波に関してはブロックは起こらないが
他の異所性調律に関しては1度ブロックが出たとするとまあ
こんな心電図の見た目になるのかもしれない。合っている自信はない。

あるいはウェンケバッハブロックも副交感神経の興奮で起こるとされているし、QRSが脱落しない程度に、PR間隔が延長してはまた元に戻ってという
状態で拮抗しているという可能性もあるのかも??と思っている。
従って、この時受診者さんにはウェンケバッハ型1度ブロックなどという訳のわからない造語で説明した記憶がある。
今こうして見返しても自身が持てないナゾ心電図その①である。

ナゾ心電図その②

74才女性
心疾患の既往はなく、高血圧、高脂血症で通院中である。
自覚症状はない。

この心電図のナゾポイントは
1拍毎に変動するQRS波形である。

この場合まず考えやすいのが変行伝導の可能性だが
一般的に変更伝導が起こるのはRR間隔が伸びた後、不応期が伸びたタイミングで短いRR間隔で心室伝導が起きた時である。
が、この心電図はそもそもRR間隔は正常ど真ん中で
かつ、不規則さもまるでない。こんなんで不応期が変動してたまるかという
感じである。

次に電気的交互脈、すなわち心嚢液貯留などで、1拍毎に心臓周囲の環境が変化する可能性を考慮したが、典型例は交互脈の名の通り
1拍毎に交互に脈が変動するというものだが、この心電図に関しては
徐々に変動してはまたもとに戻るという、さながら
伝導障害のトルサードポアンツが如しである。
最悪、交互の変化でないとしても、QRSの形そのものに変化がでる今回のような波形異常は心臓外部の影響ではちと考えにくい気がする。
ノッチが出るような波形の変化は流石に伝導レベルの障害の気がして
心臓内部の問題を考える。従って心臓外の影響による
交互脈の可能性は除外である。

さて、そこまで考えてしょーじきあとはもう手持ちのカードが無い。
この現象を説明する知識が現時点での私にはない。
とりあえずあえて言葉にするなら
なんかわからんけど、間欠性に起こる心臓内伝導障害といったところである
以前完全ブロックになる直前に右脚ブロック波形と左脚ブロック波形が交互に出ていた心電図を目にしたことがあるが、あんな感じなんじゃないのと
とりあえず思っている。

要するにまあ何かしら年齢相応の心筋障害があって、常に出ている訳じゃないけど時々脚ブロック見たくなっちゃう的な感じで今のところ大きな問題なく経過している、というのが所感である。
例のごとく、誰も答え合わせをしてくれる訳ではないので仮説のまま終わるのが口惜しい所だがまあそんな試行錯誤の日々が心電図がちんぷんかんぷんだった頃から今までの成長を支えてくれている様に思う。

さて、ここからは更に蛇足になるが
心電図は本当に奥が深いと思う。
学べば学ぶほどそう思う。
そして今、もっぱら頭を悩ませている心電図がいくつかあるので
それを紹介して終わりにしたい。
心電図検定を受ける日までには何とか解決したいところである。

困った心電図その①

https://jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=15419より引用

これは結構問題としてよく見るパターンの一つである。
この心電図の特徴はP波がない事と、RR間隔整の徐脈である。
従ってこの段階で考えられるのが
①洞停止+接合部補充調律
②心房細動+完全房室ブロック+接合部補充調律
③高カリウム血症・・??

あたりである。
心電図もややこしいものになると
単一の問題ではなく問題が複合的に重なったものになる事が多い。
例えば単なる心房細動の心電図が
基礎問題で4STEPでいう所のSTEP1問題で、白チャートだとすると
この心房細動(しかも慢性期の)+完全房室ブロックの波形は
さながら、ベクトルを使って微積の図形問題を出し、それに数列と確率を混ぜるといった応用問題のようである。
心電図の勉強を突き詰めていくと久しく離れている受験数学の奥底を
覗いている気分になる。

話がそれたが、この心電図も単一の異常のみではなく
異常が複合的に重なっている可能性が高く、
具体的には心房細動が慢性化してP波が消失した上に
完全房室ブロックまで重なり、P波とQRSの連結が途絶
結果補充収縮が接合部から出る形となり
=基線が消失した、RR間隔整のNarrowQRSという心電図が
導かれるのである。

が、個人的に思うのがこれ普通に①の可能性もない??
と思う所と、①と②の鑑別ってできなくね???という点である。
心房細動については既に述べた通りだが
仮に洞停止、ないしは洞房ブロックにより、P波が消失
かつ、房室結節に刺激伝導系が伝わらなくなった結果
接合部で補充収縮が起こった場合も全く同じ波形になる気がするのである。
基本的に洞停止や洞房ブロックは長時間は続かないイメージなので
長い心電図を取れば、部分的にQRSがつながったり、P波が出てる場面が
見れたりして、それが鑑別になりそうだが、
この1瞬のみの切り取りだと、それの区別が出来ない気がする。

困った心電図その②

https://kenpo.jpn.panasonic.com/kinen/kinen/p_ecg/arrhythmia/76.htmlより

まずこれ
なんか変ですか???
ぼーっと生きてたらふーんと見逃してしまいそうである。
健診でこれを見たら、走ってきたの??と聞くくらいである
その人が太ってたらなおさらあ~ハイハイという感じである。
細かく見ていけば、左室高電位があるなと思い
アレ?P波はどこだ、、?あ~あったあったこれかと
V1の囁くようなP波を見て大きく頷く。
そしてトータルまあ少し脈が速いですが
休めば元に戻りますよ、と今そこまで脈が速くないことを確認して
終わり、そんな流れになりがちなこの心電図
診断は発作性心房頻拍である。
さて、ここで私は思うわけである。
これ洞性頻脈と何が違うねん、と
ちなみに発作性心房頻拍は定義上はHR240回まで至る心房の興奮の発作である。従って、非常に速いレートの心房頻拍であれば伝導が2:1になったり
4:1になったりバラバラで、T波に隠れるP波なども規則性をもって
見つけられたりするのでその場合の鑑別は難しくない。

厄介なのはコイツの様な、中途半端に速いレートの
それでいて、ちゃんと1:1伝導しやがる発作性心房頻拍である。
お前は洞性頻脈と何が違うというのか。
そもそも規則正しくP波が出ていて、毎回QRSと連結していれば
それは最早正常に他ならない。

もし鑑別できるポイントがあるとすれば
発作性心房頻拍の方は興奮が洞結節から出るとは
限らないのでP波の波形が明らかに違えばそこが鑑別点とはなりうる。
が、こいつの様に吹けば飛ぶようなささやかなP波であれば
もはや正常か異常かの判断は難しい気がする。

まあ実際はどーももうリラックスしてるのにまだ脈が速いな。。
洞性頻脈にしてはしつこくないか、、等で鑑別は難くないので
そこまで困る事は無いのだが、やはり心電図で極限まで
突き詰めていきたいと思うとちともやもやする部分である。
これもその内わかるようになるかもしれない。


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