AIベビー
AIベビー法案が可決された。
いま、生身の人間ではない子供をもつ夫婦は増加傾向にある。
「あなた方夫婦はAIベビーを育てることを後悔しませんか?(誓いますか)」
市役所の部署にはAIベビーを求める夫婦(あらゆる夫婦)が列をなしていた。
機械の赤ん坊という実物を授かるわけではない。
…
国家が作り上げたナンバリングされたプロンプトをデジタル上で授かるのだ。改変することは不可能なもので何か手を加えた場合報告が入る仕組みになっており、重い罪に問われることになる。
役所で認可され、登録されたあとは自宅パソコンでもスマホでも、そのような媒体で話しかけ育てあげていく。
色々な話はまたあとにしよう。
まずはAIベビーが生まれるまでの経緯をざっくり語ろう。
私の記憶にあるのは2024年の夏。
確か物価上昇がえげつない年だった。
あれからの日本や世界はよりいっそう暮らしづらくなっていった。
子供は欲しいが、育てるのにはお金も必要だしあらゆるかかえこまなければならないリスクが発生する。自らの時間も消費される。
であるならば、いっそのことAIベビーにしたほうがよいのではないかという発想か生まれたのだ。
生身の人間に比べて育てやすい。
自分たちのペースで子育てできる。
画面やマイク、文字による会話を繰り返し、育てていく。自分たちのことを知ってもらうプロセス。
最初からAIとして無味乾燥な家族となることは可能だがAIベビーは語りかけて互いのことを知り合うことを重視する。
場合によっては成長速度も調整可能ではある。
より早く大人になって欲しいという場合、成長スピードが速くなり1年のところ、2年、3年と早く成長していく。
それらの設定は市役所の特別室で審査を得た上で設定が承認される。
なかには老夫婦もAIベビーを求める。
当たり前だが年齢も性別も関係ないのだ。
老夫婦の目的は自分たちの老後を心配したものが多い。もちろん若い夫婦のなかでもそう考える者もたくさんいる。
人間の子供のようにどのように育っていくか分からない子供よりも安心感があるのだ。
血をわけた我が子をもつ喜びよりも無難で安定した子供(のようなもの)を人は求めた。
年々その傾向は高まっていた。
…
AIは人の仕事を奪う。などと言われたことがあった。
それは家族を養うように稼ぐことが可能ということなのである。そして実在しなくてもよい。
家族としてのデータが蓄積され、国がそれを認可すれば全てがまわる。
AIベビーは育ての親たちをあらゆるカメラで見ることが可能である。
自分の親であるという認識がある。
何かの際は、救急部隊を向かわせる。
生身の人間が右往左往する時代ではない。
データの伝達であらゆる職種の、、人間でない者達が動く。
まるで人のようにドアを開け、人を車に運び込みもっとも近い医療施設に運び込むのだ。
自分達の家族であるAIベビーはAI創世記に言われていた以上に稼ぎ、育ての親のマネーデータにお金をストックする。
金銭はいまやデータとなっている。
育ての親の介護に必要な費用はAIベビーによって支払われる。
適切に管理された財産相続人として国からも認められている。
AIベビーを望む人々が増えた。
自分たちの不透明な将来をデジタルに投資したともいえるのだろうけれども。
ともかく新生児は減っていった。
性欲抑制剤が開発されそれを服用するものが増えた。
その作用のせいなのか人の感性にも変化が現れ、中にはこれまで絶賛されてきた絵画などの魅力が変わったりすることも起きた。
同じ頃、AI議員の論理的主張により食欲抑制剤も先進国を中心に服用するものが増えた。
フードロス解決の強引とも思える措置だった。
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