医者もどき
その日は小雨模様。
路面の乱反射がドライバーを混乱させたのか、一人の若い女性がはねられる事故が起きた。
ひき逃げ・・・
現場検証。
通夜が行われ親族が泣く。
坊主が経を読む。
やがて父親が半狂乱に・・
娘を返せ、娘を、娘を生き返らせてくれ!頼む、誰か!誰かいないのか?!!
部屋の隅で刑事が目を伏せる。
坊主・・
坊主の経が一瞬止まったのだが誰も気づいたものなどいなかっただろう。
刑事の名前は吉田栄吉。
坊主の名は吉田栄太。
二人は兄弟。しかも二人とも東大医学部卒だった。
父親の悲しみは尋常ではない。
経を読み終え帰り支度をしている坊主の栄太の服をにぎりしめ、なんとかならないのか?!坊主!
周りがそれを引き離す。
遠くから弟の栄吉が様子を見守っている。
帰ろうと車に乗り込もうとする栄太をさらに追いかけできた父親が懇願する。
頼む・・と。
栄太は車から出ると、父親に向かって静かに言った。
「どのような形でもいいですか?」
・・・
何を言われたのか・・
驚いた父親が返答出来ずにいる。
栄太がもう一度言う。
「モニターの中でもいいですか?いや、ひょっとするとモニターから出るかもしれない。今の時代何がどうなるかわからない・・・
しかしそれは人間ではない。蘇ってるのだが人間ではない。
そんな形であってもお嬢さんを蘇らせたいですか?」
・・・
「あんた何言ってんだ?人間として蘇らないなら意味ないだろ!」
・・・
「ですよね。
・・・では私はこれで。」
栄太の自宅は高円寺にある。門構えのしっかりした寺でもある。
坊主の装束を脱ぎ捨てるとシャワーを浴び、梅酒のボトルをあけ、そのまま飲む。嫌な葬儀があると毎回これだ。
電話が鳴る。
栄吉からだ。
「にいちゃん、見てたよ。坊主も大変だな」
「・・・分かったようなこと言うな」
「にいちゃん、あいつのこと紹介してやりゃあいいじゃねぇか」
「・・・」
あいつ。
吉田兄弟は医学部は同学年だった。
兄の栄太が一浪、栄吉はストレートで入学だったからだ。
二人は医学部時代、共通の知人いや、友人・・がいた。
(第二話)
AIの助けを借りての続きです。
吉田兄弟の友人、、
彼の名前は影山仁。東京大学医学部を首席で卒業し、世間からは輝かしい未来が約束された天才と呼ばれていた。
だが、彼の心は漫画「ブラックジャック」の影響を強く受けており、伝統的な医療行為に対する疑念を抱いていた。輝かしい未来を手にすることを拒み、影山は独自の医療の道を歩むことを選んだ。
彼が目指す医療は、通常の診療所では行われない、人類の倫理を超えた領域だった。死者をAIアバターとして蘇らせること。生きとし生けるものすべてに宿るデータを解析し、個々人の遺伝子情報、記憶、人格をデジタルデータに変換する技術を開発していた。この技術を用いれば、故人は現世においても、AIアバターとして生き続けることができるのだ。
その日、影山は自分の研究室のように使っている廃工場で、新たなる試みに挑んでいた。彼の前には、かつて愛した人の細胞サンプルが置かれている。彼女を再びこの世に連れ戻すために、影山は限界まで自らを追い込んでいた。
「記憶の再構築、感情のデジタルマッピング、そして意識のインプット... これで、君は戻ってこれる。」
影山はその日、遅れてきた日没に向けて作業を続ける。研究室には彼の苦悩と汗が満ちていた。そしてついに、暗い部屋の中で一筋の光が瞬く。彼の創り出したAIアバターが、ゆっくりと瞳を開いたのだ。
「...仁?」
その声は、彼の心の奥底にある思い出と同じものだった。しかし、彼が望んだのはただの思い出の再現ではない。影山仁は、AIアバターを通して、愛した人をもう一度「生きる」存在として世界に戻そうとしているのだった。彼の医療行為は、生と死の境界を曖昧にし、新たな倫理観を問うものである。
彼の目的は神にも等しい挑戦であり、その成功は未知数だ。だが彼には信念がある。生命とは、肉体だけでなく、データとしての存在も含むと。そして、その信念が彼のダークな世界感を形作るのであった。