2023 魚座の言葉 石牟礼道子┃自らのやむにやまれぬ好奇心、知り学び思考し理解したいという未完の努力
占星術における12サインは、12か月の季節の移り変わりに照応し、その時期に感じやすい心のテーマがあります。心理占星術家nico (ニコ)が、古今東西の著名人の言葉から12サインそれぞれの象徴を見出し、心理的葛藤と成長を考察したエッセイ。
2023年魚座期は、作家で社会活動家の石牟礼道子に注目。主婦として参加した研究会をきっかけに水俣病支援団体を立上げ、患者の訴えをまとめた作品を発表する姿に、自らのやむにやまれぬ好奇心から、知り学び思考し理解したいという魚座の心の要求を見出します。
魚座の言葉
石牟礼道子が亡くなって早5年。手にとっては棚に戻しを繰り返し、なかなか読み進められなかった本書を、2022年夏ごろから、集中して読み直し始めた。なにせ、仕事の合間に気軽に読むという種類の本ではない。この本を読んだ人なら、きっと同じ印象を持つことだろう。彼女が描く水俣の海の、空の、地の、凄惨なはずなのにいとおしく、美しく、ユーモラスな人々の暮らしの、それらの風景から離れがたく、一旦読みはじめると日常の生活に戻れなくなるのだ。
これが魚座の持つ力なのかと圧倒される。まさに、石牟礼道子自身が書いているような「牧歌的で情趣に富み、まだ編纂させぬ神話の中にいるような」語りがここにある。
では、魚座とはどのようなサインなのだろう。そこには何があるのだろう。ありきたりな占星術の言葉で表現すると、「人々の悲しみや想いに共感する」ということになるのだろうが、そんなメロドラマ的な世界はここにはない。患者に成り代わって苦しみを表現したり、それを想像し、曖昧模糊としたイメージを押しつけたりすることはしない。
作家の赤坂真理は、こんなふうに表現している。
ここでひとつ断言できるのは、石牟礼道子の表現を支えているのは、圧倒的な水星力であることは間違いないということだ。占星術的に言われるような浮わついたインスピレーションやら、つかみどころのない感情を扱っているわけではない。それは、柔軟サインの成長のステップを考えても明らかだろう。双子座・水星、乙女座・水星といった学びの時間を経て、射手座から魚座へと向かう総合的な知の融合。
「たくさんのことを学」びながら、何年にも渡って足を運び、耳を傾け、語りかけ、調べ上げ、つなぎ合わせ、緻密な作業の積み重ね、それから思考し、哲学し、そして、いつの、誰の、なんのためのものなのかわからなくなるまでに見聞きした世界を根づかせ、そこから新たなる歌を歌い上げていく。これが魚座の石牟礼道子が成し遂げた仕事のひとつだ。
もしかしたら、誰にとっても12サインをめぐる人生には、このような機会が多かれ少なかれ用意されているのではないだろうか。石牟礼道子が水俣病と出会ったように、誰でも「運のつき」のようなめぐりあわせが用意されているのではないだろうか。しかし、その出会いの“ものものしさ”に圧倒され、出会いをみすみす見過ごしている、またはその身ごと飛び込むことをためらい続けているのではないだろうか。
それは家族問題だろうか? ジェンダー論? 国家論? 教育とは? 子育てとは? 女の一生とは? 健康に生きるとは? 美しさとはなんぞや?
「文学の素養も、学問も、医学の知識もないただの田舎者の主婦が、身辺の異常事態にうながされて」、これまでとは違った世界の扉が開かれることは大いにあるのではないか。それが12サインの終わりでもあり、始まりでもある魚座の仕組みなのではないか。彼女ほどの大きな仕事はできなくても、自分のやむにやまれぬ好奇心の向かう先、それを知り、学び、思考し、理解しようという努力をしないと終わらないと感じるような心の要求に応えることは大事ではないだろうか。
赤坂真理の言葉は、このように続く。
彼女の本を読むまでは、水俣病がどのようなものなのか私は知ったつもりでいた。
私が知っていると思っていたのは、それが「どんな病気か」であり、死者の数や賠償金の額といったデータであり、本書を読んでわかったことは、世界のいたるところに「水俣」が存在していること、そこには強き者の強欲とその代償を背負わされた者たちの大いなる嘆きがあること、それらのほとんどは誰にも聞き届けられることなく過ぎ去ってしまうことだった。けれど私たちは、嘆きの声を聞き取り、語り直すという素晴らしいお手本、石牟礼道子の仕事を既に手にすることができている。
原発問題もしかり、戦争や難民問題もしかり、私たちは今こそ、石牟礼道子の仕事を見直し、未来への教訓、学びの機会にする必要があるのではないだろうか。
そういった意味で木星を支配星に持つ魚座は、射手座以上に勇気ある先駆者であり、粘り強い開拓者である。
2023年魚座期は、まず何かしら自分なりのテーマで学び始めてみることからスタートしてみてほしい。「運のつき」であっても、自分を駆り立てずにはいられない、そのようなテーマはあるだろうか。そんな高尚なものではなくてもいい。学び続けることで、その学びの成果を必要とする人に出会うこともあるだろう。そこに少し時間を注いでみるのはどうだろうか。
そしてできれば、苦海浄土の中のいちエピソードだけでも読んでみてほしい。そこには、人災の恐ろしさと愚かさ、それを引き受けざるを得なかった人々の、それでも人として生き続けようとした闘いがある。ウクライナ侵攻から1年、311から12年、様々なことを考える契機になるかもしれない。
石牟礼 道子(いしむれ みちこ)
1927年3月11日熊本県天草郡生まれ。
魚座に太陽、水星、木星、天王星を持つ。
詩人、作家。主婦として参加した研究会で水俣病に関心を抱き、患者の魂の訴えをまとめた『苦海浄土ーわが水俣病』(1969年)を発表。ルポルタージュのほか、自伝的な作品『おえん遊行』(1984年)、詩画集『祖さまの草の邑』(2014年)などがある。
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