「ドライな世界。」/ショートストーリー


彼女は乾いていました。
長い間、ずっと。

何がきっかけだったのかは忘れましたし。
いつごろからだったのかも忘れました。

それも、きっと。
音を立てるぐらいに乾いているせいなのでしょう。

誰かと挨拶しても。
誰かと会話しても。
何を飲んでも。
何を食べても。
テレビを視ても。
音楽を聴いても。

乾いたままです。
だから。
なにひとつ意味をなさないのです。

彼女は。
地球の水の総量は変わらない。
って聞いたことがあるのにと思ったこともあります。

私の水分はどこへ行ってしまったのだろう。
と考えたこともあります。

彼女はこのままだと紙のように薄くなってしまいそうで怖くなりました。

それで。
彼女は近くに臨時の店を出していた「なんでも屋」に相談しました。
「なんでも屋」は荷物の中から目薬を出すと彼女に渡します。

「おいくらですか。」
その目薬の金額は薬局に売っている一番高い目薬と同じでした。

目薬をさすと目から身体のすべてに向かって潤いはじめます。
驚いた彼女に「なんでも屋」は言います。

「目は心の窓っていうでしょう。」
彼女は意味が違うのではと思いましたが。
心が潤ってきたのでその言葉に笑います。
彼女は「なんでも屋」に礼を言うとスキップしながら帰ります。

彼女の目に映るすべてのものが渇いていた心にしみいります。

「なんでも屋」はつぶやきます。
ドライな世界になると空間の情報が紙のように
薄ぺらっくなって収集しにくい。
しばらくは目薬を売ることにしよう。








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