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「夜のシフト。」/ショートストーリー

私は24時間稼働している物流倉庫で仕分けのバイトをしている。
昼間のシフトだ。面接の時に昼と夜と、どちらを希望か聞かれて私は昼のシフトでお願いしますと答えたものの、それは形式的なものという感じを受けた。何故なんだろうか。

最近やっと仕事に慣れてきたからか暇だからそんなこと考えたりするのかと思いながら今日はまだベットでゴロゴロしている。今日から珍しく3連休。初日だからぐうたらできるのだ。

私はこういう時に実家にいる愛猫のみおがいればいいのにと思う。みおは甘えん坊だ。冬は必ず私の足の間で眠る。今はぐうたらできてもひとりだ。
それがちょっと淋しい。実家が懐かしくなってくる。

そうやって、ベットで昼までぼんやりしていたら、不吉な感じで携帯が鳴った。
そういうことは当たるものでバイト先のチーフから翌日のシフトに入ってくれないかという。私はすぐに返事ができなかった。特に予定はなかったが貴重な3連休なのだ。

チーフは躊躇している私の考えがわかったように魅力的なことを言う。

「夜のシフトなんだ。夜の10時から翌朝の5時まで。だから昼間より時給はいいし、プラス夜の手当てもつくんだ。仕事の内容は昼間と変わらない。どうかな。君でないとダメなんだ。」

それを聞いた私はちゃっかり頭の中で計算していた。3連休はこれが最後という訳でない。同じ仕事でいつもより時給がよくてたった1日のことだ。誰かとチームを組んで仕事するわけではないから、どんなひとがいても7時間のことだ。君でないとダメなんだ。って恋愛ドラマならグッときちゃうところだ。チーフは既婚者で私のタイプではないけどね。

「わかりました。1日だけでしたら。」
「良かったよ。じゃあ。明日の夜に。昼と同じように10分前に来てくれれば大丈夫。僕もいる。」
「それではよろしくお願いします。」
私は昼のシフトを確認した。チーフはいると言っていたけれどその日はチーフのところに〇がついている。まさか、朝からずっと。私のためにとか。そんなことはないはずよね。顔出しだけかもしれない。私はシフトにはいると決めたのだからそのように動くしかない。色々とやっておこう。とベットから起きだした。


当日の夜は満月だった。そういえば夜空なんか気にして見たことは最近なかったかな。同じ倉庫だというのに、昼と夜ではまるで別世界だ。不思議な空気がする。チーフは律儀にちゃんといてくれた。私はいつものように倉庫を移動しながら、荷物を仕分けしていく。そのうち、あれっとなった。移動先で会う人やすれ違う人が昼間のシフトの人たちばかりだ。全員じゃないけど。今日は何かあったのか。お休みだとそういう情報ははいってこないのだ。

休憩になった。この倉庫では、各々が順番に休憩をとることになっている。大体ひとりが多い。気遣いなのか、今日はチーフが一緒の休憩だった。

「どう。仕事内容は昼間と同じでも夜は身体があとからきつくてね。1日ぐらいなら大丈夫かと思うけれど。」
「はい。ありがとうございます。大丈夫です。でも、今日は昼のシフトの人ばかり見かけるのですが?」
「ああ。今日は特別なんだ。」
そうか。やはり何か色々とあったのだ。私が呼ばれるくらいだから。
チーフも朝から働いているせいか、いつもとどこか違う。朝からでは疲れもたまるだろうなとチーフの顔を眺めた。

休憩時間が終わろうとしていた時、すれ違いざまに仲の良いみっちゃんが休憩室に入ってきた。私はいつものようにみっちゃんにタッチしたら、怪訝な顔で私の顔をみつめている。

「えーと。あなた、まえだそのこ?」
私、みっちゃんに何かしたかな?と思いながら仕事場に戻っていった。時間管理は厳しい職場なのだ。みっちゃんも今夜特別出勤なのかと考えながら。


次のシフトの晩。私は夜のチーフに聞いてみた。
「昼の私は大丈夫でしたか?」




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