アニメ「BNA」についての誰にも共感されないであろう感想文(論考:批評的感想はどのように書くべきか)
前置き:アニメ「BNA」のネタバレ有り
筆者への前提:単なる揚げ足取り的な批判をしてはならない。完結した創作に難癖を付けるようなことをしてはならない。批評は創造的であるべきである。漫画家が言っていた物語の作り方を思い出しながら書くこと(映画を楽しめなくなる方法だが「この映画はどうすればより面白くなるか」を考えながら書く)。
読む側への前提:文章中に出て来る「視聴者」は筆者ただ一人だけを指す。
TRIGGER制作「BNA」が完結した。最初から最後まで見た自分は首を傾げる。「エェ~~~~?」と。首を傾げたのはストーリーの整合性が自分の中では合わなかったからだ。制作側が「これで良し」としているのであれば仕方が無い。納得できない自分にその適性が無かっただけだ。ただ「エェ~~~~?」となっている自分を落ち着けるためだけに感想を書くだけだ。
簡単に1話部分のストーリーを説明する。
人間と獣人がいる現代。獣人は人間から差別的な視線に晒され、境遇的にも苦しい立場になっている。主人公「みちる」はある日を境に突然タヌキの獣人になってしまった。みちるは人間社会での生活を諦め、自身の獣人化を治すために「獣人だけで生活する街 アニマシティ」を目指した。辿り着いたその街でオオカミの獣人である「シロウ」と出会い、ストーリーは展開していく。
1話を見て視聴者(=筆者)は「この物語は差別について展開していくんだろうな。差別面に注意を払って視聴すると良さそうだ」と考え、それからのストーリーを推測しながら視聴を続けた。それで最後まで観終えた感想が「エェ~~~~?」である。駄目だろ。脚本の人は一体どうしたんだ。最初は二期予定だったのが途中で1クールになったせいでバタバタになったのか? そうなのか? にしてももう少しどうにか出来たんじゃないのか?
この「エェ~~~~?」という感想を生み出した要因は「ストーリーのモタつきと全体に広がってしまった整合性の低さ」である。ストーリーのモタつきというのは、序盤の2話と3話が「世界観の説明としてもストーリーの土台としても不十分だったのではないのか?」という感想になったためだ。特に2話。単体の話として観ても「エェ~~~~?」となった。少し説明事項があるので先に説明する。自分の地雷の話だ。
自分は「ストーリーの整合性」「キャラクターはどのように消費すべきか」に重きを置くタイプのオタクである。「アルドノア・ゼロ」の二期にマジでキレたり、蟲に寄生されてもしぶとく生きていた推しのあまりにも完璧過ぎる死に様(Fate/zero)に「さ、最高だ~~~~~~~~~!!!!!!」と大喜びするタイプのオタクである。無論、ストーリーに矛盾があっても名作は幾らでもある。リアリティと大ヒットは比例しないってホイチョイプロダクションの映画とかワイスピシリーズとか観れば何となく分かるだろ。ただそれでも「世界観を守る」「既に説明した設定をないがしろにしてはならない」ということは物語を成り立たせる上で必須であるはずだ。突然ポッと出のキャラと結婚するメインヒロインとか一期と二期でメインキャラの性格がブレるとか、視聴者に対して配慮が無いとかプライドが無いとかを通り越して最早「禁忌」である、と自分は断定する。禁忌なので自分で作る物語には怒らないよう、可能な限り脳味噌を削っている。自分の書いたもので整合性を失ったものがあったらそれは自分の力不足であり不徳の為すところである。
また、出番が細やかなキャラクターでも死ななくて済むならそれに越したことはない。だがどうしたってストーリーの展開上必要な死、もしくは退場がある。そこでキャラクターはどう死んだら、どう消えたら、そのキャラクターにとって相応しいのかを重要視する。推しが死にやすいオタクが見出した希望の隘路である。死んだり退場したりするならせめて意義のある最後を与えて欲しい。「この物語にとってこのキャラクターは必要であった」と視聴者が思うために注意を払うべき項目だ、と自分は考えている。
本論に戻る。2話で何が起きたのかを簡単に説明すれば「世界観を説明するストーリーというよりは立場の弱い女性についての話をしようとしたけど、結果的に最終話まで観た時に齟齬が出る話の構築になってしまった」という感じである。世界観と女性観を書きたいと欲張ったのか、ストーリー全体を通しての脚本がまだ完成してなかったのかは分からないが、混乱に混乱の続く仕上がりになっていると感じた。
2話のあらすじを説明しておく。
自分が獣人ではなく人間であると証明すべく、主人公のみちるは学生証を見せようとする。だが学生証が入った財布はスられていた。財布の在処を教えてくれたのは金にがめつい何もかもにビジネスライクなミンク獣人の女性。みちるは教えられた通り、女性や子供ばかりのスラムへと足を踏み入れる。そのスラムを統治しているのはウサギ獣人の老婆だ。老婆はみちるの学生証を返す代わりに孤児達に読み書きの教師を依頼する。みちるが子供達と触れ合う裏で、老婆は街を取り仕切るマフィアのボスに脅しを掛けられる。二進も三進も行かなくなった老婆はみちるを孤児諸共売り払おうとする。窮地に陥ったみちるを救いにシロウは駆け付ける。
3話のあらすじも雑に説明しておく。
みちるとシロウはアニマシティの誇る医療機関に潜入。何故か襲い掛かってくる研究員。その研究員達は不正を働いていた。研究員達はみちるの姿を見て動揺していた。
序盤のモタつきが気になった、ということを冒頭で触れたと思うが、つまり自分はこの2話と3話は果たして「ストーリー上必要不可欠だった」と言い切れるものなのか、疑問に思ったのだ。2話は単話のストーリーとしても粗探しが出来てしまう構造だし物語全体に祖語を産んでいる気がしてならない。もし脚本が「獣人の中にも立場の弱い存在がいる」「弱者が寄り集まったコミュニティがある」「そこでの生活は物質的にも文化的にも厳しい」という話をしたかったのであれば、中盤に差し掛かる辺りにある貧民街の住人をメインに据えた野球回でも出来た話のように思う。「女性や子供の立場は弱く苦しいが男に守って欲しいわけではない」という主張をしたいのであれば、そもそもスラムの話ではなく2話のあらすじで書いたミンク獣人の女性を主役に立てて話を作れば良い。彼女はメインキャラに近い立ち位置にいるが特に説明が無い。分かるのは「ミンク以外の動物呼ばわりされるとキレる」「戦闘能力高め」「金にがめつい」「手口は基本アウトロー」くらいしかない。終盤で主人公達を助けてくれるキャラではあるが動機は「金になりそう」で、それを補強するバックグラウンドの説明回があっても良かったのではないかと、アニメが終わった後に思った。
2話において「ミンクの彼女が何故そうも金にがめついのか」という話をしつつ世界観の説明をし、3話においてみちるの身体についての前置きや伏線を張くべきだった。率直に言い換えると「この話やる意味あった?」である。え、ホントに何? この2話とか3話どうしてもやんなきゃいけなかった? マジマジのマジで? 脚本書いた人体調悪かったんか? 欲張りセットで崩壊した話になってない? え? ホントになんで? みちるは直情型の主人公だから感情面の描写を入れたかったのかも知れないが「男だとか女だとか関係無い!」みたいなこと言わせる必要あった? その話を今すんの? 世界観の説明ターンたった前半で終わりにすんの? マジで?
最終話付近で獣人の性質は「情が深い」と語られる。2話で子供を売ろうとしていた老婆はどうしたんだ。アルツハイマーだったのか? 狂気か? そして老婆のフォローも特に無かった。最終話付近で怒濤の「みちるさんの血清には獣人を救うことが出来る!」「ナ、ナンダッテー!?」「良い人間側の援助者かと思ってたアランですが実は獣人で自分以外の獣人を強制的に人間にするつもりでした!」「ナ、ナンダッテー!?」「みちるの親友に執着していた蛇の獣人、元研究員でアランの知り合いっぽいけど説明あんまりしないよ!」「ナ、ナンダッテー!?」という展開をさせるくらいなら序盤の話を伏線の話にすれば良かったじゃねぇか。バッタンバッタン雑に話を畳みやがった、という印象を受ける視聴者は放送終了後にモヤモヤと悩みながらこんな話を3,500字もしている。
総評。序盤でモタついて最終話付近でバタついた上に、キャラクターを何人か無意味に消費している。誰か反論してくれ。「2話と3話、滅茶苦茶良かったよね! ストーリー良かったしキャラクターも立ってた! この話はBNAにとって必要不可欠だったよね!」と。
なんで俺の周りには観てた人がいないんだ。
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