お嬢ちゃん おじさんはお坊さんではありません!
毎日 呼吸をするように自らの保身のために嘘と詭弁を公の場で繰り返す大人たちに辟易とする日々の中で、先日、心が表れるようなちょっといい場面に巡り合えた。
クライアント先に向かう電車の中。通勤時間とは異なる時間帯の電車内は、都心でも心地よく空いていた。
いつものようにスマホの中のニュースで伝えられている責任ある立場にある人達の無責任な言動をなぞりながら、軽いストレスをこれまたいつものように感じた時だった。
ふとスマホから顔をあげると反対側のシートに座りじっと僕の顔を見つめる3~4歳のかわいい女の子がいることに気が付いた。
もう成人した僕の娘たちの小さなころを思い出させてくれるような、つぶらな目をしたかわいい女の子だった。
あまりにじっと見つめられたので、顔に何か付いているのか気になったその時、女の子が僕を指さして突然口を開き 隣に座った母親と思しき女性にこう語りかけた。
語りかけた、というよりかは、叫んだ、に近かったかな。
「ママ、あのおじさん、お坊さん?」
母親は慌てて「違うのよ」と娘に語り掛け、返す刀で僕に「すいません、すいません」と平謝り。
オフィスにでかける格好を一応はしていたつもりだけど、
「小さな子から見れば髪の毛が無い男の大人はお坊さんに見えるのか」、と独り言ちた僕は、
「とんでもない、可愛いお嬢さんですね」と母親にやわらかに声をかけ、そして女の子にこう語りかけた。
「ごめんね、オジサンはお坊さんじゃないんだよ」
得心いかないように不思議な顔で僕を見つめる女の子に、僕が満面の笑みをたたえていたのがコロナ避けの顔を半分隠しているマスク越しに伝わったかどうかは甚だ心もとないけれど。
一切の見苦しい忖度や本来不要な遠慮のない、真っすぐな瞳と感性は素晴らしいな、とついさっきまでスマホのニュースにささくれ立っていた僕のこころはとても穏やかなものに変わっていた。
ありがとう。いつまでも、その真っすぐな瞳を失わないでね。
オジサンは君に大切なことを教えてもらったよ。
電車はほどなく僕の降りる駅に到着した。
母娘に軽く会釈をして電車を降りた僕を
温かな春の日差しが包んでくれた。
Life is so beautiful, if you believe so....
それでも地球は回ってる、なと。