Vol.4 恐怖氏を抑えアイアンマン申し込み
イチゴ畑でのデビュー戦から、レースの度に毎回スイムやバイクで素人ならではの苦労。ボロボロになりながらも徐々に距離を伸ばし、ワイルドフラワーで裸の集団に応援されながらロングコースを完走し何とかトライアスリートの仲間入り。
その後、北カリフォルニアで炎天下のハーフアイアンマンも完走し、すっかり自称トライアスリート。ここまで来たら、アイアンマンを目指すしかないと思い立ち、レースを探し始めた。いつもの事ながら、海は懲り懲りなので湖でのレース。願わくば起伏の少ないバイクコース。暑い時期は避けたい。更に車で行かれるところ等々、贅沢を並べ上げながら探して漸く見つけたのがアリゾナ州フェニックス郊外のテンピという町で11月に開催されるレース。アイアンマンアリゾナ。
コースはというと、テンピの町の中心部にある細長い人口湖でのスイム3.8km(2.4マイル)、次いでサボテンが群生する緩やかな丘をバイクで3周して180km(112マイル)。最後に湖の周りを2周走って42km(26.2マイル)。米国では、全てのマイル数を合計してアイアンマン140.6と呼ばれる。因みにハーフアイアンマンはハーフという言葉を使わずに、アイアンマン70.3。
(写真:Google Mapより。テンピ市の中心部にある細長い湖。水はかなり濁っていて飲んだら病気になりそう)
いざ、意を決して申し込みと思いきや、今年のレースは既に売り切れ。よくよく調べてみると、毎年申し込み受付から数分で売り切れとなる超人気のレースらしい。波の無い湖でのスイム、平坦なバイクコース、沿道からの応援多数と好条件が揃えば、人気があるのも当然、私のようにアイアンマン初チャレンジのアスリートも多い様子。折角見つけたレースが既に完売。更に毎年数分で完売では、来年もどうなるか分からない。途方に暮れながらも引き続き調べると、なんと今年のレースでボランティアをすると、翌年の参加権が優先的に得られることが分かった。
(スタート・ゴールとなる会場の広場。アイアンマンビレッジと呼ばれイベントの中心となる)
という事で、事前にボランティアの申し込みをし、大会前日の早朝に一路600kmの彼方にあるテンピへ。到着後、直ちに仕事内容や持ち場などの説明を受けて、ボランティア用のティーシャツを受け取り準備完了。翌日の仕事はバイクコース上で曲がり角の案内役。猛スピードで疾走するバイクの選手たちに徐行を促し、曲がる方向を示す仕事となった。
(支給されたボランティア用のTシャツ。ボランティア用でもアイアンマンのロゴ入りのTシャツは嬉しい)
午後は時間が空いたので、翌年に備えてバイクコースを試走してみる事にした。勾配は緩やかなはずだが、思ったよりきつい。これを3周は楽ではないが、練習期間は一年あるのでわりと気楽。バイクの後は、湖へ下見に。翌日のレースに備えて既にターンの目印の黄色と赤のブイが幾つも浮いている。スイムスタート地点付近から進行方向に沿って歩くが、行けども行けども折り返しのブイは無い。20分以上歩いて、漸く折り返し地点に到着。これで未だ3.8kmの半分に満たない距離。なんと長いこと。翌年の申し込み資格を得るために600km運転してここまで来たものの、過去のスイムでの苦労も記憶に新しく、実際の距離を見てすっかり弱気になった。その日の午後になっても不安は払拭されない。申し込みを取りやめるか真剣に悩み始めた。
(スイムからバイクへトランジッションエリア)
更に翌日、見たくない現実を目の当たりに・・・バイクコースでのボランティアは2交代で私の順番は後半。よって、スイムを観戦する時間は充分にある。レース開始後、前日歩いた湖のほとりを歩きながら、泳ぐ選手たちに声援を送る。力強く猛スピードで泳ぐエリート集団の後には、マイペースで泳ぐアスリートたちがバラけて続く。次いでライフガードのカヤックに捕まって息を整えながら、蹴られたり、溺れたりせずに制限時間内に泳ぎ切る事ありきのアスリートたち。私は、どう見てもこのグループの一員。
(日が昇る前に一斉スタートでレース開始)
その中の一人は、ウェットスーツの上からでも肩や腕の筋肉の盛り上がりがはっきり分かるガッチリした体躯の選手。未だ1kmにも達していないというのに、どう見ても様子が変。と思いきや、コースからはずれ湖の縁につかまっては休み、少し泳いでは、また縁につかまってを繰り返している。暫くすると、レース続行を諦めてDNF(Did Not Finish)。足が吊った様子も無く、おそらく緊張で心拍数があがり、軽いパニック状態に陥った模様。あれだけ体を鍛えたレスラーのような屈強な選手が・・・と同情とともに、スイムへの不安が更に高まる。その後も数名が途中でギブアップするのを目の当たりに。皆、ここに至るまで様々なものを犠牲してトレーニングに励んできたはず。無念さは身にしみて分かる。一年後の自分と重ね合わせて、不安は更に募るばかり。明日の申し込みどうしよう・・・
(湖の縁はコンクリートで固められている。湖に沿って遊歩道が続く)
その後、無事ボランティアの仕事を終えて、ゴールへ観戦に向かった。朝7時にスタートしたレース。11月の太陽が沈み、辺りが暗くなった頃にはアスリートたちが続々とゴールし始める。140.6マイル完走の栄光のゴールに近づくにつれて沿道の歓声が大きくなり、それぞれのアスリートの名前と共に「You are an Ironman !」の祝福のアナウンスで感動のゴール。
(ゴールの周辺は大音響で流れる音楽と歓声で興奮に包まれる)
完走者の中には、70歳にも達しているように見える者、片足義足の者、帆走者に手を引かれて走る目の不自由なアスリートまで。続々とゴールし涙するアスリートを目の前にし感動と興奮に包まれるひと時。皆が様々なものを克服し過酷なトレーニングに耐えこの場に立っている。熱いものが胸にこみ上げてきた。感動の光景を目の当たりにし、スイムでビビッている場合ではない。必ず来年はアイアンマンの称号を獲るべく申し込みを決意。翌朝は朝4時から会場となったアイアンマンビレッジで優先申し込みのラインに並び、念願の出場権ゲットした!
(翌日の早朝に優先先申し込みラインに並ぶ人達。人気のレースとあって長蛇の列)
目的を達成して晴れ々とした気分で家路に向かえると思いきや、スイムの不安がまた蘇り、早くも帰りの車の中で弱気になっていた。全くの情けなさ。とは言うものの、既に申し込みをしてしまったので、ここから一年、「You are an Ironman!」目指してトレーニングあるのみ。
ワンポイント・アドヴァイス
1.とりあえず申し込みをしてしまう
マラソンでもトライアスロンでも目標を達成するためには、継続的なトレーニングは欠かせません。その一方、モチベーションを高く持ち続けることは至難の技。私も今日は寒いからとか、忙しいとか、体調が良くないとか、ついついサボる理由を探してしまいます。そんな中で何とかトレーニングを続ける秘訣は、取りあえずレース参加の申し込みをしてしまう事。トレーニングを重ねて準備が整ってから申し込みをしようと思うと、つい、練習もサボりがちとなります。逆に、申し込みを先にしてしまうと、後戻りが出来ないので、時間を見つけてトレーニングをするようになります。モチベーションを高く保つというよりは、やらざるを得ない環境を作ると言うところでしょうか?皆に等しく効果があるかは分かりませんが、私の性格には合っているようです。何かチャレンジしてみたいと思われている方は、是非お試しを。
2.恐怖心の克服
とにかく申し込みをしろと言われても・・・と思われる方も多いかと。私も本分で書いたように泳ぎが苦手とか、かなり頻繁に弱気になります。そんな時、今回のように大会を見に行ったり、ゴールの感動を見たりすると自分が抱える心配が小さい事だと思えるようになります。義足でマラソンを完走するのは大変な苦労があろうかと思います。また目の見えない人がオープンウォーターで泳ぐ恐怖は並大抵ではありません。ゴールの感動を目の当たりにすると、頭の中でロッキーのテーマが鳴り響き、がんばってみようという勇気が沸いて来ます。一度克服して申し込みをしたら、悔やんでも後の祭り。練習あるのみです。
こんな情けないアスリートが次はいよいよ、アイアンマンレースに挑みます。
By Nick D