『冬の京、背割堤』
いつもは澄んだはずの空気が、どこか密度の大きくなる、そんな冬の京都の朝であった。
ふわりふわりと舞う風は、春になれば満開の桜を映させる絶好の背景になるのだろう。多くの観光客がそれを観に集まってくるのもいつものことだ。
しかし、人のいない今日の空はまだ重い。風が重い。冬の匂いが運ぶものは、今日の風と同じ灰色をした私の想いだけだった。
空はさらに密度を増す。それに比例して私の気持ちも密度を増した。
「雨...。」
空の重くなった想いが、まだ裸の桜に降り注ぐ。それはまるで催花雨のようで、開花を急かされる桜に同情した。雨を受けて聳え立つ桜並木には、この静けさの中、花が開いてからでは見ることのできない荘厳さと強さが確かにあった。
しかし、この焦燥感は一体、何なのだ。
そうか、もう春なのか。
※フィクションです。
では、次の機会に。