
ニチレイ初のバーチャル株主総会、その舞台裏【DXの現場から】
コロナ禍をきっかけに、社会のさまざまなシーンに変革が起きました。株主総会をインターネットでライブ配信する動き、いわゆる「バーチャル株主総会」の広がりも、そのひとつと言えるでしょう。
とはいえ、現在のところ、上場企業のうち何らかの形のバーチャル株主総会を行っているのは約2割とされています。
そんな「新しい株主総会のカタチ」であるバーチャル株主総会を、株式会社ニチレイは2024年6月に初めて実施しました。DXという観点からも重要な取り組みのひとつであるバーチャル株主総会について、その狙いと舞台裏を担当者に聞きました。
株主総会のライブ配信スタート
バーチャル株主総会には、いくつかの方式があります。オンライン上のみで開催し、議決権もオンラインで行使できる「オンリー型」に対して、リアル会場を設けた上で、その様子をライブ配信する株主総会は「ハイブリッド型」と呼ばれます。
このハイブリッド型には、質問や議決権行使をオンライン上でも行える「出席型」と、オンライン参加の株主は傍聴のみができる「参加型」(質問ができる場合もあり)とがあり、ニチレイが採用したのは、この「ハイブリッド型/参加型」のバーチャル株主総会です。

バーチャル株主総会を実施することになった経緯について、株主総会を担当する法務部法務グループの澤英資さんはこう説明します。
「ニチレイでは、今後の株主総会のあり方についてロードマップを策定しており、これまで以上に株主様との対話・コミュニケーションを大切にしていくために様々な方法を検討していました。そのうちのひとつとして2021年に、株主総会の様子を録画してホームページ上で事後配信(オンデマンド配信)することを始めました。この事後配信の視聴数は年々伸びていて、今年は前年の2倍もありました。こうした流れに続く新たなステップとして始めたのが、バーチャル株主総会(ライブ配信)です」

「株主総会については、もともと物理的・時間的な制約で参加できない株主様も多く、さらにはコロナ禍を経て、ご来場いただく株主様の数そのものが減少していました。こうした状況の中で、主に個人株主の皆様とのコミュニケーションの場を維持・促進するため、また、DXという社会の変革に対応する意味でも、バーチャル株主総会に踏み切ったわけです」(澤さん)
あらゆるトラブルを事前に想定
株主総会は、法律で定められた会議です。ニチレイが採用した「参加型」では採決等はリアル会場でのみ行われますが、それでも、システムトラブルなどで配信に影響が出てしまっては、せっかく時間を割いてくれた株主が傍聴できなくなってしまいます。
そのためバーチャル株主総会の準備にあたっては、配信トラブル防止とトラブル発生時の対策に細心の注意を払ったと言います。同じく法務グループの青木厚仁さんによれば、用意したネット回線は、予備の2本を含めた合計3本。あらゆるトラブルを想定し、それが起きたときのシミュレーションも念入りに行ったそうです。
「ひとくちにトラブルと言っても、総会会場内の配信・映像機材等に問題が起きるケースだけでなく、例えば、会場外で、通信障害が発生することだって考えられます。そうしたケースひとつひとつについて、『この場合は、こういうアナウンスを出す』『こうなったら配信を中断する』などの対応を事前に決めました」

「他にも、オンラインで参加した株主様がストレスなく視聴できるよう、画面構成にも配慮しました。映像製作の会社や会場のホテルとも何度も打ち合わせを重ねましたし、実際の会場でリハーサルも行って、壇上の様子が映像ではどんなふうに見えるかを確認したり、椅子の配置を工夫したり。実は、こうしたアナログな部分での準備にも時間を使いました」(青木さん)
このようにして万全の体制を整えるまでに、実に、1年という時間がかかったそうです。その甲斐あって、初めてのバーチャル株主総会だったにもかかわらず、当日は小さなトラブルも起こることなく、無事に閉会を迎えました。「本当に良かった」と語るふたりの顔には心からの安堵が滲んでいました。
「参加したい株主総会」を目指して
そんな努力が株主の方々にも伝わったのでしょうか。株主総会当日は、ライブ配信が始まる前から専用の視聴サイトにログインする人もいたほか、配信開始とともに参加者が増えたそうです。
ニチレイ初のバーチャル株主総会を難なく乗り切った法務グループの面々は、すでに次を見据えています。
「定時株主総会は、株主様と経営者が直接コミュニケーションを取ることができる、年に一度の機会です。リアル会場での開催は当然大切ですが、そこに来られない株主様にとってはバーチャル株主総会こそが経営者との接点となります。多くの株主様が参加できる仕組みを用意すること、それが我々の役目だと思っています」(青木さん)

「ニチレイの商品やサービスは北海道から沖縄まで、さらには海外にも広がっています。日本中、世界中にお客様がいる企業として、どこからでも株主総会に参加できる機会を提供することは大切だと考えています。今後は双方向の仕組みも視野に入れつつ、より多くの株主様に『参加したい』と思ってもらえるような総会を目指して、新たな試行錯誤を続けていきます」(澤さん)
DXという大きな流れの中で、バーチャル株主総会が行われるようになりましたが、その裏側では、時にはアナログな準備や対応も不可欠であり、最後は携わるひとりひとりの熱意によって支えられています。グループをあげてDXに取り組むニチレイの今後の株主総会に、ぜひご期待ください。