ニチレイがメタバースをつくった理由【DXの現場から】
2024年3月、ニチレイのメタバース空間「ニチレイCOLDワールド」がオープンしました。ニチレイのメタバース? ナニソレ美味しいの? ……と思われた方もいるかもしれません。
このワールドでは、ニチレイが誇る「冷力」をテーマに、幻想的な氷の世界を表現しました。お気に入りのアバターを散歩させて“映える”写真を撮ったり、クイズやゲームで遊んだりと、楽しみながらニチレイや冷凍食品の歴史、商品パッケージの変遷などを学ぶことができます。
新しい挑戦のため、ワクワクと同じくらい苦労もたくさん……。そんな開発の裏側をお届けします。
事業紹介とゲーム性の両立にこだわり
インターネット上の仮想空間「メタバース」。メタバース上ではユーザーがアバターを使って自由に交流したり、教育や決済といった社会生活を送ったりすることができ、その将来性が期待されています。
「ニチレイCOLDワールド」は、ニチレイの情報戦略部DX推進グループが開設したメタバース空間です。このDX推進グループでは、デジタル技術の活用に着目し、広報とは違った形で自社の魅力を発信しています(このnoteも、DX推進グループ内のチームで運営しています!)。
メタバース開発を担当したのは、グループリーダーである儘田敬一さんと、チーム内では主に新しい取り組みを担当している薦田侑季さん。
薦田さん曰く、最もこだわったのは「氷」のグラフィック。メタバースは現実世界に近い、またはそれ以上のことを実現できる可能性を秘めています。ニチレイの冷力にも深く関わる氷を可能な限り美しく表現するため、クリエイターの方と何度も打ち合わせを重ねたと言います。
また、ニチレイは冷凍食品だけでなく、物流や氷の製造など、さまざまな事業を展開しています。そこで、ワールドの「エントランス」では、こうしたグループの取り組みを紹介し、よりニチレイに親しんでもらえるようになっています。輝く氷の上で写真を撮影し、SNSに投稿することもできますよ。
エントランスの先には、ゲーム性の高い「ニチレイCOLDサーキット」という空間が待っています。ここでは、氷や中華鍋、段ボールといったニチレイの事業に関連のあるアイテムに乗って氷上のコースを進み、ゴールを目指します。
コース上には、ニチレイフーズの商品が障害物のように立ちはだかったり、昔のパッケージと最近のパッケージを見比べることができたり。若い世代のユーザーにも楽しんでもらえるようにいろいろ工夫しました、とおふたりは説明します。
ニチレイの「N」に隠された秘密
ニチレイCOLDワールドが公開されたのは、「cluster(クラスター)」という日本最大級のメタバースプラットフォームです。「自社でプラットフォームをつくる方法もありますが、もともとclusterで遊んでいるユーザーに訴求することで、ニチレイに関心のない層にもどんどん広がってほしいと考えました」(儘田さん)
ただ、最初は漠然としたイメージしかなく、実際に形にするまでには時間もかかったそう。商品パッケージなどの素材集め、工場など各事業会社への協力依頼、知的財産権やコンプライアンスの確認……と宿題が盛りだくさんだったようです。
それでも、普段なかなか関わりのない工場の担当者に現場を見せてもらって勉強したり、「事業以外の仕事に関われてうれしい」といった声をもらったりと、とても有意義な時間だったと薦田さんは振り返ります。そうした中で、さまざまな部署の方からアイデアをいただくことも多かったそうです。
そんな薦田さんが「ぜひ見てほしい」と話すのは、ニチレイのロゴマーク。通常は赤い「N」ですが、氷の世界に馴染ませるため、氷の塔に掲げるマークをあえて銀色に変更したところは、大事なこだわりポイントだとか。
若い世代を中心にユーザーの反応は上々
そんなニチレイCOLDワールドのオープンから半年あまり。若い世代を中心に、ユーザーの反応は上々だそうです。
「10代から40代まで、幅広いユーザーの方々に遊んでいただいています。特に好評だったのは、期間限定で配布した今川焼のバーチャルアクセサリー。サーキットの最後にあるクイズに正解すると、今川焼の眼鏡や被り物、バッグをゲットでき、アバターが身に着けられるようにしました」(薦田さん)
ちなみに、なぜ今川焼なのかと言うと、ニチレイフーズの冷凍食品の中でも人気のおやつが「今川焼」なのです。CMをご覧になったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのほかにも「ニチレイ商品のアクセサリーが欲しい」といった声があり、今後新たなワールドをつくったりイベントを開催したりするのにあわせて、さまざまなアクセサリーの配布を検討しているとのこと。乞うご期待です。
新たなワールドが近日公開予定!?
メタバースはVRゴーグルがないとプレイできないと思われがちですが、clusterはどのデバイスでも単体で同一の体験をすることができます。スマートフォン1台あればだれでも遊べ、複数人の同時アクセスも可能。
私たちもプレイしてみましたが、サーキットはパソコンよりもスマートフォンでプレイするほうが断然難しい。ただ、それが功を奏したのか、ニチレイCOLDワールドに遊びに来てくれた人は、他のワールドと比べて滞在時間が長い、といったデータも出ているそうです。
他社から「情報交換したい」「コラボしませんか?」といったご連絡をいただいたり、メディアに取り上げていただく機会が増えたりと、このメタバースが、ニチレイの新たな側面を知っていただく絶好の機会になっています。
そして、なんと今年度中に、次の新たなワールドを公開予定とのこと。今度は、低温物流事業を行う「ニチレイロジグループ」にフォーカスを当てたワールドになるそうです。こちらも今から楽しみですね。
最後に、おふたりからの意気込みをどうぞ。
「今後も新しいコンテンツを追加して、さらに多くのユーザーに来てもらい、リピート率が高まるような仕掛けを考えています。ニチレイに関心が薄かった人に興味をもってもらい、一緒にお仕事ができるきっかけになるような空間づくりを、これからも続けていくつもりです」(儘田さん・薦田さん)