見出し画像

【エッセイ】トレードオフ

「トレードオフ」という言葉がある。
何かを得るためには、別の何かを諦める必要がある状態を指している。
今の私が必要としている能力は、過去に選択することを諦めた能力そのものだ。

昨日、読書中にこの考え方と向き合うことになった。
私はこれまで、主に「読了」を意識して本を選び、読み進めていた。
「1年に1000冊」などの目標を達成することが目的であり、そのために効率的な読み方を選んでいたのだ。
しかし、昨日の私は本の内容をじっくり吟味し、心を動かされた一文の背景にまで丁寧に思いを馳せたかった。
そのためには、これまでのやり方を捨て去り、新しい方法に挑む覚悟が必要だった。
今まで登ってきた階段を降りるような決断だった。

なぜなら、私はこれまで承認欲求や読了の達成感を優先してきたからだ。
読書を、ただ「表層的な内容を読み進めるだけの行為」にしてしまっていた。
過去の私は、自分に誇れるものがなく、「一番」になれることもないと感じていた。
そんな中で、「情けない自分を少しでも変えたい」「誰かに称賛されたい」という生意気な欲求から、
効率を重視した読書を選んでいたのだ。

しかし、その選択の結果、得られたのは浅い満足感だけであり、心から楽しめた読書体験はほとんど残らなかった。

昨日、私はその浅薄な方法から脱却するために、これまでと異なるアプローチを取った。
一文一文に声を出して感想を挟み、物語の背景に思いを巡らせながら、じっくりと読み進めたのだ。
結果、読了にはこれまでの倍以上の時間がかかった。
だが、一人で本を読んでいるにもかかわらず、不思議と満たされた感覚があった。
まるで、本と対話し、物語の奥行きを共有したような気分だった。

「選択を誤った」と思えば、これまでの行動は意味を失うかもしれない。
しかし、その選択のミスを教訓に変え、次の行動に活かすことで、抽象的だった理想が次第に明確な形を帯びてくる。
昨日の読書体験は、私にその可能性を示してくれたのだ。
新しい読み方を通じて、私はこれまで見過ごしてきた価値を再発見し、より深い学びの道を歩み始めた。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集