夏の日、田んぼの用水路にて
一番古い夏の思い出は本当に小さいころに父親と弟とどこか田舎の田んぼの用水路でメダカ捕りをした記憶。私と弟は汚れるのが嫌だったし、暑いし、どうすればいいのかわからなくて父親が網でメダカを捕っていくのをただ車の日陰で見ていた。父親は泥だらけだったけど、笑顔でとれたメダカとたまたま一緒にみつけたドジョウを見せてくれた。弟も私もそれをみて大はしゃぎした。バケツに入れて車で自宅にもって帰る途中も行き先なく泳ぐメダカをずっと見ていた。
当時おそらく小学1年生くらいだったと思う。その時の生活はかなり困窮していたと母は今でもよく話す。お金のない父親なりに子供を楽しませようと連れ出してくれたのだろう。
そのあと両親は離婚してしまって父親の顔や声は忘れてしまった。父親はギャンブル好きのどうしようもない人物だったと母から聞かされた。それでもこのときの暑さやセミの鳴き声がいやになるほど煩くて、稲穂の青々しさと草っぽいにおいはなんとなく今でも覚えている。父親の笑顔を覚えている。この記憶が例えば記憶補正のような、勝手にきれいなものにされているだけのものだとしても、そこには確かに楽しかった夏の日があったことを覚えている。私はあの夏の日を忘れることはない。