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パンデミック時に騒いだ老害人、君等によって何人も看護師辞めました

 あれほど不安の渦の中心にあったコロナウイルスも、今ではアメリカ大統領候補選やパリ五輪といった話題が関心の的だ。
 皆さまの不安が少し静まってきていると思う。
そろそろ、渦中だったあの時の出来事や本心を言葉にしてもいいと思う。


 数年前、私は看護師として総合病院に勤めていた。

 海外でコロナウイルス感染症が発症し、日本にも広まるかもしれないと、病院内はその話しでもちきりだった。



 土曜日、緊急入院してきた患者さんがいた。
70歳代ぐらいだっただろうか。
 肺炎と診断され、発熱、喉の痛み等の症状があった。
現在ならば、即コロナウイルスの検査をするが、当時はウイルス感染が騒がれ始めたばかりの時だった。
 病院がある地区は、大都市でもなんでもない。
周囲の地区にコロナウイルスに感染した人は、まだいなかった。
 しかし看護師同士で話し合い、万が一を考えた。
念のため患者さんを、個室の空気洗浄を持続的に行える部屋に入院してもらった。

 先輩看護師は、すぐに外線で上司に電話した。
「コロナウイルスの可能性があるかもしれない。対応に迷う。検査をしたほうが良いでは。緊急入院の対応は通常通りのままでいいのか?」と。
 だが上司は「土曜日だから、週明け対応します」という返事だった。
その返答に対し反論した。
「今、感染症が流行り始めているの知っていますよね?たった今、緊急時なのではないですか?なぜそんな悠長な対応でいられるんですか?」
かなり言ってくれたが、結局「週明けまでそのままで」という返事だった。

 夜勤の看護師に申し送る時、なんとも気まずかった。
不安にさせるような申し送りになってしまうから。
 もちろん、嫌な顔をされます。
その顔には「対応がはっきりと決まった内容の申し送りをしろよ。夜間に何かあったらどうするんだよ」と書かれている。

 週明け月曜日になり、担当医師が決まった。
だがその医師は「コロナウイルス検査は不要」といい、検査をしなかった。
 ”医師がそう言うのだから”。上司には、医師の判断に従えばいいと言われた。


 だがその患者さんは、抗菌薬を投与しているのに1週間以上経っても発熱が続いた。
 酸素マスクもとれない。
酸素マスクの量を減らしてみたが、呼吸が苦しく息が切れてしてしまう。水の中にいるような息苦しさを訴える方は多い。
 基本的に肺炎が改善傾向にあれば、酸素マスクで投与する酸素の量を徐々に減らしていくことができる。
そして寛解されれば、酸素マスクがなくても息苦しくない状態まで体は戻るはずだ。

 この患者さんは超高齢でもないし、喘息等の呼吸器官の基礎的な疾患もない。
車椅子は必要なく、立ったり歩いたりと自分のことは自分でできるので、70歳代と言えど筋力体力がまだしっかりある方だ。
 心臓や肺が元々悪くなくて、寝たきりでもないような人が、ここまで改善の兆しがみられないのは珍しい。
 看護師達は違和感から、コロナの検査をすべきと強く考え始めた。


 医師に、「コロナウイルス検査をするべきでは?」と先輩看護師が言った。
だが医師からの返事は、"不要"だと。
「肺のレントゲンを見てもこうだからああだから…」
と言って、一向に検査をしない。
 この医師は、プライドが邪魔をして検査をしないと言っているのか?
これだけ検査しないと言い張ったのに、もし結果が陽性だったら面目丸つぶれだと思っているのか?
 そう思い、言い方を変えてみた。
「みんな心配していますし、一応、念の為に、検査してみるのはどうですか?」と聞いてみた。
それでも医師は頷かなかった。

 不思議だった。
どうして頑なに検査をしたがらないのだろうか。
絶対に違う。という確信があるから?
私達には見えていないものが見えているのかな…
医師とは、我ら看護師なんかには理解が及ばない脳と目の持ち主なのだから…
と看護師同士で話していた。


 1週間程たった時、他の病棟の患者さんがコロナウイルスに感染していたのがわかった。
 数人の患者さんから陽性反応がでたのだが、全員同じ老人ホームから入院してきた患者さんだった。
同じ老人ホームの人が同じ症状で入院してきたのだから、きっと老人ホームでコロナウイルスが蔓延し、近隣の当病院に入院してきたという経過だろう。
だが、どこでコロナウイルスが広まったかなんて、目に見えないのだから確定はできない。
「コロナウイルス陽性の人が数人でた」と聞いて病院内で感染を広めた可能性だって0ではない。

 今ではあり得ないのが、当時はコロナウイルス感染症の患者が出たら、記者会見をしなければならなかった。
 会見を見たが、院長がひたすら記者に責め立てられていた。
ひたすらに謝罪を繰り返す院長。
中身のない話をしているようにしか見えなかった。

 この会見の後になって、1週間以上症状が改善しない患者さんに対してもコロナウイルス検査をすることになった。
結果は陽性だった。
 担当医師の本心は分からないが、看護師達は「他病棟でコロナ陽性者がでて、記者会見もしたから、もう1番最初のコロナ陽性者にならないからいっか、とか考えてたのかな…」と噂していた。



 "記者会見するのが当たり前"なことが不思議だったとはいえ、当時は会見に対して「変なことやってるなー…」と見ていたぐらいだった。

 だが会見が終わった後の周辺住民の反応が、腹ただしい限りだった。



 同じ地区に済む老害が、凄い勢いで病院に電話をしてくるようになった。
「なんでコロナの人を入院させたんだ」
「あなたの病院の看護師が、銭湯にいたけどどういうことだ」
「医療従事者は電車に乗らないようにしてほしい」
「入院中の家族がコロナにかかったら、どう責任をとるつもりなんだ」

 中学生の息子がいる看護師に、学校の先生から電話がきた。
「お宅の息子さんが、お母さんが看護師だからという理由でイジメを受けたとしても、学校としては責任がとれません」
息子を学校に行かせない方が良いのではと、勧めてきたそうだ。


 これらを上司から聞いた時、もう怒りでどうにかなりそうだった。

 だが何よりも、このあと上司が言った発言が看護師達の怒りを仰いだ。

「地域の人達は不安なのよ。不安だから言っているのよ。一番つらいのは患者さんなんだから。私達がカナメだからね!頑張ろう!」

 上司はなぜ、わざわざ電話があったことを看護師スタッフに伝えたのだろうか。
言わないでいてくれたら良かったのに。
知らないでいたのなら、無心で淡々と仕事をしようって頑張れたのに。
わざわざ部下達の怒りを沸かせることをしたのだろうか。
 多分上司が言いたかったことは、"皆一眼となって、人のために身を粉にして頑張ろう。私達が頑張ることは素晴らしいことです。尊い行動です"と言いたかったのだろう。
 私達の中に、この上司の言葉で奮い立たされたような看護師は1人としていなかった。



老害達からの電話の内容を聞いたあとの看護師同士の会話
「電話してきた人、名前メモしておいてその人がコロナになった時受診できないようにしたい」
「絶対私達に頼るなよ」
「電車通勤やめろって言うなら、タクシー代払えよ」
「それどこの中学校?学校に乗り込んで、「菌まみれの看護師ですけど」って目の前でクレーム言いまくってやりたい」

 病院内ですら、ばい菌扱いだった。

 病棟に病院食のワゴンを運びに来るおばちゃんがいた。
今までは挨拶を交わす仲だったのに、コロナウイルスが流行り始めてからは、ワゴンを病棟に置いたらすぐに走って逃げるように戻っていくようになった。
 それに対して気持ちは分からなくはないが…
それでもその姿は不快だったし、普通に傷ついた。
それに対してまた、悪口を看護師同士で言い合う。

 もう収集がつかない、最悪な雰囲気だった。
問題児な看護師がいた時以上の荒れ様だった。
もちろん白衣の天使なんていないし、皆冷静でいられなくなった。
頑張れなくもなった。
元々ギリギリだったところを、わざわざ切られてしまったのだから。
 いくら不安だったとしても、地域住民の老害達が出した言葉はもうなかったことにできない。
"あの時はゴメン。私達も不安だったからつい…"と今言われようと許せない。

 周辺老害が不安だったように、医療従事者も不安だった。
自分が感染する不安
家族が感染する不安
家族を死なせてしまう不安
家族が疎外される不安
当時は分からないことだらけだったのも、不安を仰いだ。
分からないのなら完全な感染防御をする対応をさせてくれ。と言ってもコストの関係上ダメだと言われた。
手袋を撤収されたり、マスクを使い回しさせられた。

 旦那の職場の上司が、妻が看護師という理由で冷たい対応をとるようになったという人もいた。夫に「お願いだから看護師を辞めてほしい」と言われ、その看護師は辞めていった。
他には、上司の看護師達の態度や遅すぎる対応に対して、不安や憤りを感じて辞める看護師も沢山いた。
優秀な看護師は凄い勢いで辞めていった。


 看護師の上司たち(老害)の態度の一例をあげてみる。
 感染症を専門にしている看護師がいる。免許のようなものだ。
普段は感染症対策について勉強会を開いたり感染対策を看護師ができているか見回りのようなことをしているのだが、コロナウイルスが流行った時のような、緊急時に活躍するための看護師でもある。
 その看護師に、コロナウイルス陽性患者さんと接する時のことについて色々と意見が集まる。
 しばらくすると、上司達から通達があった。
「感染症専門の看護師が疲れています。しばらくは意見を言わないでください」
そう、釘をさしてきた。
看護師は言い方がきつい人は多い。
"言い方を気をつけなさい"は、まあ、よくある。
しかし、意見言うの禁止とは。
それを聞いた時は、もう笑えてきました。
周りの看護師達はキレてたので、すぐ真顔に戻しましたが。
まあ、上司達からしたら、現場は何も疑問も沸かず考えず黙って仕事をしていろ。といった感じか。
それに上司達が何を守ろうとしていたかは、なんとなく察しが付く。
この感染専門看護師を常勤させることが、病院にとって金銭的メリットがあるのだ。
上司達からしたら、一般看護師より感染症専門の看護師の方が辞められると困るから丁寧に接していたのだろう。
ある意味、よくある会社の構図だ。



 「医療者の道を選んだのなら、そういった不安に対して文句を言ってはいけない。覚悟が足りない」
そんなことも上司は言っていた。

 いや、あなたの子ども達は巣立ち、仲の悪い夫と2人暮らしだからそう言えるのでしょ。
幼い子どもがいる人も不安は同じぐらいだと言うのか。
私の先輩は、息子への感染が心配で車中泊をしていた。
同居はしていなくとも、高齢の親の世話をしている人だって同じなのか。
私の職場には私を含め、3人妊婦がいた。
その前で平然と言っていた。
よくそのセリフを言えたな。
夫が専業主夫の看護師だっている。
自分が資本となっていて、自分がいないと家族が回らない看護師も同じなのか?
いや、たとえ1人で生きているからとしても、自分を捨てて仕事できる人なんて存在するのか?

 当時はそう思った。
しかし今冷静に考えると、上司が全面的に間違っていたのではなく、私がこの道を選んだことが間違っていたのだと思うようになった。
 こういった、身を犠牲にした美しさを掲げる職業を選んだのは自分だ。
そういう世界なのだ。
 本当は、過労死でストレッチャーの上で死んでしまった看護師が過去にいたり、医師は36時間勤務をしているような世界なのだけれども。


 私が看護師を辞める最後の一押しをしてくれたのはこの上司だった。
(その話は長くなるので次回に)


 私含め、老害がきっかけで何人の人が看護師を辞めただろうか。

 私の中での老害の定義がある。
老害の中に「老」という漢字が入っているのが私の価値観とはズレる。
老人とは高齢期(65歳以上)をさすのだろうが、50代の私の毒父も私の中では老害のため、違和感がある。
つまり「高齢期の人が害である」と私は言いたいわけではない。
年齢なんて関係ない。

 脳が老いて、人を害う(そこなう)傷つけるようになってしまった人種が「老害人」。
 もう少し具体的に言うと、「老害人とは、相手の話しを聞けない、自分の話しかしない、他人をコントロールしたがる、人の気持ちがわからない、わかろうとしない、または分かった上でわざと傷つけにいく、「あなたを思って」を言う、謝罪ができない、非を認められない、自分は正く間違わないと思っている、新しいモノ全てを拒否する、年齢を重ねれば重ねるほど偉いという価値観がある、誰かを否定するのが大好き、綺麗な人優秀な人が嫌い、プライドが高い、平気で嘘をつく、綺麗事大好き、論点ずらすのが得意」
ただの毒祖母や毒父に対しての悪口だが、まあこの2人を想像しています。老害人が親になって毒親になるんですから。



会見後に電話で騒ぎ立ててきた地域住民、老害人。
「母親が看護師という理由でイジメられても教師のせいにするなよ」と電話してきた中学教師、老害人。
看護師の妻がいることを理由に冷たくなった上司、老害人。
最悪の態度と対応をしていた看護師の上司、老害人。

これら老害人がきっかけで、看護師を辞めていった人が何人いたのだろう。
もちろん、自分で決めたことなのだから他責思考も甚だしいのだが。
ただ、あの時の老害人たちよ。
いくら不安を理由にしようとも、緊急事態だったからだとしても、冷静ではなかったからにせよ、言われたほうは一生絶対忘れないってことだけは忘れるなよ。って言いたかっただけです。



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