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小さな町の小さなアートプロジェクト・小須戸ARTプロジェクト2023振り返り

2023年11月5日(日)、約1か月の展示公開期間が終わり、小須戸ARTプロジェクト2023は無事閉幕しました。ご来場いただいた皆様、ご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。

今年度のプロジェクトも一段落したところで、取り組みを通して起こったことや、達成できたこと(成果)や達成できなかったこと(課題)等を、整理しておきたいと思います。ご興味をお持ちの方は、お付き合いください。



2つの作品の制作・展示

今年度のプロジェクトでは、三本木歓(現代美術作家)、髙橋キャス(イラストレーター)の2名の作家が、地域のリサーチを踏まえてそれぞれアート作品を制作し、その展示を行いました。どのような作品が展示されたのか、少し紹介します。

三本木 歓/Kan Sanbongi(現代美術作家)

三本木歓さんは、2022年度に1週間ほど地域のリサーチを実施し、それを踏まえて、今年度1週間ほど地域に滞在し、作品を制作・展示しました。

小須戸での制作にあたって着目したのは、江戸時代から小須戸地域で続くとされる六斎市。月に6回決まった日(小須戸では3と8のつく日)に露店市が立つ風習と、その都度広場に建てられる竹や単管で組まれた仮設テントの作り方への興味から丁寧なリサーチを行い、その成果を作品化しました。

空間の広がりや光の入り方、映像、音…、様々な要素全体で構成されるインスタレーション作品を写真でお伝えすることは難しいのですが、何枚かの写真で展示の様子をご覧ください。

テキスト、映像と音、写真、露店市出店に使った物品等を木造倉庫の空間全体に配置したインスタレーション作品
テント幕で会場を仕切り、露店を眺めるように各展示要素を巡るような会場構成
広い会場での展示の様子をパノラマ撮影

展示会場は市が開かれる広場の近くで、今は使われなくなった木造の倉庫です。

以前内部を覗かせてもらったことがあり、何かの機会に使えないかと考えていたところ、ちょうど市に近い立地で展示したいという作家の希望もあり、会期中に貸していただきました。

旧木山屋倉庫、会場へのアプローチ

これまでのプロジェクトでは、一部屋外で展示された作品もありましたが、プロジェクト立ち上げの経緯もあり、主に「町屋」の空間を活用して作品展示を行ってきました。

「町屋」=「住宅」という建物の特性上、展示される作品もその建物のスケール=住宅のスケールに納まるものがほとんどでした。住宅のスケールは身近で親しみやすいスケールでありますが、プロジェクトの主催としては、そのスケールに納まらない作品を見てみたい気持ちが徐々に大きくなってきたのも事実です。

旧木山屋倉庫での作品設営の様子

展示会場の旧木山屋倉庫は広い土蔵であり、町屋とは異なる大空間でした。こうした地域の埋もれた空間資源を発掘し、活用できたということも、プロジェクトとしての新たな挑戦であり、成果でもあると考えます。

作品の制作前には、市の組合の方にご協力いただき、竹や単管などを借用して、実際に露店市に出店もしました。

実際に、露店市に出店した際の様子

市の組合の方によれば、露店市の出店者も来客も高齢化しているということです。そんな中でのプロジェクトによる露店市への出店は、普段アートなどと呼ばれるものに触れることがあまりない(と思われる)地域の方々の中に、異分子のように地域外のアーティストやプロジェクトの情報が入ることによる反応を見る機会として、とても興味深いものでした。

会場内では露店市への出店を踏まえた展示も
リサーチブックに記録された、町民が詠んだ市に纏わる俳句

髙橋 キャス/ Cass Takahashi Yuki(イラストレーター)

髙橋キャスさんは8月末に小須戸入りし、会期終了後の11月6日まで、途中1週間ほど自宅に戻られましたが、概ね2か月間ほど地域に滞在されました。

髙橋さんの題材は、地域の人と自然。普段住んでいる群馬県の山間の地域と異なる小須戸の環境を滞在しながらリサーチし、作品制作に取り組みました。リサーチの過程では、秋葉区内にある県立植物園や、園芸栽培の盛んな鵜出古木地区の園芸農家を訪れて地域の植生を調べたり、水彩画の制作に使用する水を採取するために出かけたりされていました。

水彩に用いた水。小須戸のすぐ傍を流れる信濃川に関係する、採取地がそれぞれ異なる水です。

9月上旬から制作に取り組んでいた髙橋さんですが、140㎝×140㎝の水彩紙に細かな絵を描き、完成させるには時間がかかります。そのため、10月7日からの成果発表期間中も10月25日頃までは公開制作を行い、その間は制作の様子を来場者にご覧いただくことになりました。

プロジェクトとしては、基本的には成果発表期間の開始までに作品を設置完了してもらうことを想定していますが、髙橋さんの場合は会期中ずっと会場である町屋ラボに滞在されるご希望があったことから、前半の公開制作も含めた展示公開という形を採りました。

10月7日から10月下旬頃までは、作品の制作の様子を公開しました。

会期も進んだ10月25日頃にはメインになる作品が完成し、展示空間も再構成されました。完成した作品を室内に吊るしてライティングし、制作に使ったパレットや水、筆やペンなどもあわせて展示しています。

10月26日から、完成した作品を会場に展示。空間構成も変更。
タイトルは「About Niigata - Kosudo(新潟について - 小須戸)」
髙橋さんは小須戸に滞在しながら、ほぼ毎日会場を公開しました。

髙橋さんは地域に長く滞在しながら、平日も含めて毎日町屋ラボを公開していました。制作中の様子をご覧になった方が完成後に再訪されたり、会期中2度3度と訪れるリピーターの方も多くいらっしゃいました。作品の変化だけでなく、髙橋さんとのおしゃべりを楽しみにされていたのかもしれません。

また、滞在の出来事を記録した絵日記を描き続け、過去に描いた絵日記と合わせて展示もしました。海外や国内各地の風景などが描かれる中に、小須戸地域のページが加わり、地域の方も興味を持って鑑賞していかれました。

小須戸滞在中に描かれた絵日記も、作品と合わせて楽しめました。

髙橋さんの滞在中には、小須戸小学校の総合学習のゲスト講師として5年生が地域のイベントで使用するあんどんの制作に参加するなど、地域の子どもたちと交流する機会もありました。子どもたちにも絵日記は大人気。絵日記を見た子どもたちも、大いに刺激を受けたのではないでしょうか。

小学校の総合学習の際に、髙橋さんの絵日記を見る子どもたち

また、CAFE GEORGさんでも過去作の展示も行ったほか、町屋ラボの会場の公開と合わせて小作品やポストカードも販売し、売り上げも好調だったようです。

CAFE GEORGさんでの過去作の展示
町屋ラボでは過去作の小作品を展示・販売

アートが導く 小さな町の ノスタルジーとファンタジー

三本木歓さんは地域で300年以上続く六斎市をテーマに、住民すら入ったことのない倉庫でのインスタレーション作品、髙橋キャスさんは、地域で見聞きした動植物などの情報を基にした、水彩画ベースの幻想的な平面作品と、会場も、題材も、表現方法も対称的な作品が展示されました。これは、キャッチコピーに示した、ノスタルジーとファンタジー、という言葉のような違いにも思います。


プロジェクトのフライヤー

小須戸地域でのAIRの取り組みは2013年から。今回で11回目となりますが、同じ地域で制作・展示する作品であっても、着目する地域資源や作家の制作方法によって全く異なる作品が創り出されます。

今回のプロジェクトでも、どちらの作家も、当初のプランでは完成形が見通せませんでしたが、結果としてとても良い形に仕上がり、プロジェクトとしても新たなチャレンジをすることができたのではないかと思います。

三本木歓さん、髙橋キャスさん、参加作家のお二人の今後の活躍にも、ぜひご期待ください。


関連企画の展開

今年度のプロジェクト実施に合わせて、各所で関連企画が行われました。

小須戸ARTプロジェクト紹介展(ゆいぽーと)

プロジェクト成果発表の会期に合わせて、新潟市中央区のゆいぽーとにて、当プロジェクトを紹介いただく企画展を開催いただきました。

ゆいぽーとでは、プロジェクトの紹介パネルが展示されたほか、10月9日の夜には「地域で育むアートプロジェクトの可能性」と題したトークイベントも行われました。

ゆいぽーとでの展示の一部、プロジェクト紹介パネルを制作・展示いただきました!
10月9日(月・祝)のトークイベントの様子。
ゆいぽーとの小川さん、亀田Art&Lightの阿部さん、ありがとうございました!

後日、ゆいぽーとの滞在アーティストの片岡さんやトークでご一緒した阿部さんも小須戸にお越しいただきました。他にも、ゆいぽーとで当プロジェクトを知り、小須戸にお越しいただいたお客様も。ありがたい!

新潟市内で公募によるアーティストインレジデンス事業を行っているのは、ゆいぽーとと当プロジェクトだけですから、今後も何かの形で良い連携ができれば、と思います。

あちらの方からの1杯です(CAFE GEORG)

いつもプロジェクトにご協力いただいている、小須戸のCAFE GEORGさんが、参加アーティストの滞在を支援する応援企画を実施してくださいました。その名も、「あちらの方からの1杯です」。

お客様が400円のカードを購入し、応援メッセージを書いてくださると、CAFE GEORGさんのメニューを一つ参加アーティストにサービスいただけるという、投げ銭感覚でアーティスト支援を行えるシステムです。

CAFE GEORGさん作成の告知ポスター

会期前から始まり、会期末までには27枚のカードが集まり、アーティストのドリンクやフードの支援に使われたそうです。

主催としては、関わってくれる地域の方が、自発的に楽しめるプロジェクトになったのだなぁ、というのもうれしいポイントです。


来場者の数、住所、プロジェクトの満足度…

各会場に設置した芳名帳や任意回答のwebアンケート等の結果から、来場者数やその住所、リピーターの有無、プロジェクトの満足度などをまとめます。

来場者数

各会場に設置した芳名帳によれば、来場者数は、平日も含めほぼ毎日公開した町屋ラボでは120名程度、公開日数の少ない(会期中12日間)旧木山屋倉庫では、80名程度となっていました。なお、来場されても記名をされていかれない方もいらっしゃったことを付記しておきます。(と言っても、それほど多くはありませんが…。)

また、町屋ラボに滞在していた髙橋キャスさんからは「思ったより人が来て、作業する時間が少なかった」という声が聞かれました。平日などは来場者が少なくても、1人あたりの滞在時間が長かったようで、展示と作家との交流を楽しむ充実した時間を過ごされた方が多かったのかもしれません。

来場者の住所

任意回答のアンケートによれば、来場者の割合は以下の通りです。

  • 新潟市内       …47%

  • 新潟市以外の新潟県内 …24%

  • 県外         …29%

アンケートだけでなく、会場でのヒアリングの情報も付加すると、新潟市内でも、地元である小須戸にお住まいの方だけでなく、西区や西蒲区、秋葉区の旧新津エリアから来場された方も多くいらっしゃったようです。

新潟市以外の県内からは、三条市や新発田市、燕市、見附市や弥彦村など、比較的近場の中越下越を中心に来場があったようです。

県外からは、参加作家の知り合いや、以前からプロジェクトの情報をチェックいただいている研究者の方、たまたま地域を訪れていた方などが来訪されていました。

リピートの有無

プロジェクトに初めて訪れた方の割合は約9割で大多数を占めていました。
反対に、1~2回参加、あるいは3回以上参加しているリピーターの方は合わせて1割と、意外と少数になっています。

地域の方も、たまたま通りがかって会場に立ち寄られたとか、長年知ってはいたが今回初めて立ち寄ったという方もいて、情報発信の難しさと、継続によるプロジェクトの浸透を同時に感じる結果となりました。

プロジェクトの満足度

来年度以降もプロジェクトが開催される場合、来場したいと思うかどうかを、アンケートで尋ねています。その結果は、

  • ぜひ来場したい      …77%

  • 内容によっては来場したい …18%

  • 来場したいと思わない   …0%

  • わからない        …5%

と、ぜひ来場したい方が最多となりました。

もちろん、任意回答のアンケートに回答される方はプロジェクトに関心を持たれている方が多いという前提がありますが、それでも満足度は高いと判断して良さそうです。

来場者の感想など

来場者アンケートに寄せられた感想を、ご紹介します。

公開制作で何をインスピレーションの元にしているかを見られて、興味深かった。

来場者アンケートより

美術館での展示しか作品を見てこなかったため、公開しながらの制作は初めて見たのでとても感動した。

来場者アンケートより

実家が小須戸なので町屋でのアート作品に触れて懐かしい気持ちになった。

来場者アンケートより

小須戸の町なみを見て周りながら、アーティストさんたちの目からみた小須戸を覗き見ているような気分でした。

来場者アンケートより

また、プロジェクトの改善点を指摘しての感想もいただきました。

会場案内や広報の広げ方については、毎年限られた予算内でのやりくりとなりますが、プロジェクトの今後の課題としていく必要があります。

作家さんに直説明してもらえて感激しました。 展示会場の場所を見つけるのに少し手間取ってしまった。道路の要所に案内があればうれしい。

来場者アンケートより

ステキな取り組みだと思いました。 建屋もアーティストさんも。 土曜日なのでもう少し人が来てくれるといいなぁと思いました。

来場者アンケートより

今後に向けて

こんな感じで、今年度のプロジェクトを振り返ってきましたが、いかがでしたでしょうか。

何が成果か、課題かをまとめると言いつつ、非常にわかりづらくなってしまっているのは、プロジェクトの目的が複合的であることと、プロジェクトの現状がご近所の方々で作った主催団体による、できる範囲での取り組みだからです。

それでも、現時点での成果と課題をわかりやすくまとめると、下記のような感じでしょうか。

成果

  • 新たな空間資源の一時的な活用と公開の実現(旧木山屋倉庫の活用)

  • 新たな出会いや交流機会の創出(露店市出店、町屋ラボの常時公開)

  • 県内外からの来場者の新規獲得

  • プロジェクト外での新たな関連企画の展開(ゆいぽーとの協力事業、CAFE GEORGでの自主的な取り組み)

課題

  • 会場案内の不足、会場の分かりづらさがあった

  • 集客の弱さ、集客のための広報の不足

課題は主に運営面についてですが、正直ここは予算との兼ね合いになります。


アートとしての評価と、アートプロジェクトとしての評価

お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、作品の紹介についてなど、主催として作品そのものをどのように評価しているか、敢えて言語化して表現していません。

その理由は、主催者がいくら「素晴らしいアートだった」と言っても説得力がないですし、そもそも「素晴らしい、評価されるアート」を作ってもらうこと”だけ”が、プロジェクトの目的ではないからです。

また、主催としては、アーティストが作品を作って「素晴らしいものができたから見に来てください!」と宣伝し、アートに関心がある人が「素晴らしい作品を見に来ました!」というような、単純化して言えばアーティストとアートファンとの出会いや交流だけが、地域でのアートプロジェクトの意味ではない、と思っています。

三本木さんの露店市出店や、普段開いていない町屋ラボに髙橋さんが常駐することで生まれる不意の出会い、そこから生まれる交流にも、アートプロジェクトの意味を見出すことができるのではないでしょうか。

かと言って出会いや交流ばかりに意味を見出そうとするのであれば、それはアートである意味があるのかという指摘も、もちろんなされるべきでしょう。所謂”地域アート”に対しては様々な言説がなされているのも事実です。

とはいえ、当プロジェクトはアーティストインレジデンス(AIR)を中心としたアートプロジェクトですから、作品展示もプロジェクトの一部としての位置付け(成果発表)になります。プロジェクトとしては、その前段階にあたる作品制作のためのリサーチも含めた様々なプロセスも含めた全体の構想をもとに、成果と課題を捉える必要性があります。

アートとしての評価と、アートプロジェクトとしての評価。これらは同一に語られがちですが、そこには違った評価軸が必要なのでしょう。その点は、プロジェクトを続ける中で、ブラッシュアップしていきたいと思います。

と、まとめのような文章を書いたところで、今年度のプロジェクト、実はまだ終わっていません…。今年度リサーチ参加の大川友希さん(彫刻家)のリサーチレポートを追ってプロジェクトwebサイトに公開予定ですので、そちらもお楽しみに!


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