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創作都市伝説「向こう側の住人くねくねと滅三川」

滅三川(めさんがわ、めっさがわ)とは

幽霊などの人間ではない者が人間として名前を名乗る時には滅三川という苗字を使用するという。古い文献(実際には存在しないとされる)には「『滅三川』と名乗る者すべて異なる世の人間也、丁重に扱う可」と記されているとされるが、実際には滅三川という苗字は存在せず、滅三川について記した古い文献があるという話も虚構の可能性がある。

ウィキペディアより引用

あらすじ


少女・南田みいは、幼少期から父親の「滅三川」という名前に違和感を抱き続けていた。
父親は再婚した義父でありながら、彼女が少しでも逆らうと恐ろしい暴力をふるい、
何度か彼を殺そうとしたが、その度に「蘇る」かのように元気な姿で戻ってきた。
そんな彼が、本当に人間なのかどうかを確かめたいとみいは考え始める。

ある日、田んぼの向こうで白くうねる不気味な「くねくね」を見つけた彼女は、その存在が何か異界のものであると知っていた。

伝説によれば、その正体を知ると人は狂気に陥り、精神を蝕まれるという。だが、みいはそれを知ることで、義父の本当の姿が暴かれるかもしれないと期待し、「くねくね」の正体を探り始める。

やがて彼女は、滅三川と呼ばれる名を持つ者たちが異界に属する存在であるとする古い言い伝えにたどり着く。
しかし、その文献は実在するかも疑わしい謎の書物であり、証拠をつかむことができない。
絶望の中で、みいは「くねくね」に近づき、真実を見極めようとするが、次第に自らの精神が奇妙に歪んでいく。

そして彼女がついに目にしたのは、異界の者である滅三川の真の姿だった──。
恐怖と狂気の境界線をさまようみいの運命は、どこへ向かうのか。

登場人物

南田 みい
年齢:16歳

  • 性格:冷静で聡明だが、家族への愛情に飢えた寂しがり屋。父親の暴力に長年耐えてきたため、耐え忍ぶことには慣れているが、心の奥底には強い憎しみと疑念が渦巻いている。

  • 動機:父・滅三川が人間なのか異界の者なのかを見極めるため、禁断の存在「くねくね」の真実に挑もうとする。

  • 特技:幼少期からの読書好きで、歴史書や都市伝説など古い文献に関する知識が豊富。また、状況を冷静に観察する力を持つ。


滅三川(めつみがわ) 義父

  • 年齢:見た目は40代だが、実際の年齢は不明。

  • 性格:冷酷かつ執着心が強い。みいに対して厳しく暴力的な態度をとりながらも、妙に彼女の行動に関心を示す。何度も「死んだ」かのように見えるが、すぐに元気な姿で戻ってくる。

  • 背景:「滅三川」という名字を持つ異界の者で、人間のように振る舞っているが、その本質は謎に包まれている。彼がどのようにして南田家に入ったのか、過去の経緯はみいにも知られていない。

  • 能力:超自然的な力を持っている可能性が示唆されているが、詳細は不明。みいに近づく「くねくね」に関心を持っており、まるで「くねくね」の力を利用しようとしているかのような様子も見せる。

南田 はるみ(はるみ) - 母親

  • 年齢:40代前半

  • 性格:心優しいが、義父・滅三川に対して恐怖と依存心が入り混じっている。過去にみいを守るために滅三川に逆らったこともあるが、恐ろしい目に遭い、今では彼に従順な態度を取る。

  • 背景:かつて普通の家庭を築いていたが、夫の死後に滅三川と再婚。彼との生活で心身共に疲弊しており、彼が異常な存在であることには気づきつつも、恐れと依存から逃げ出せない。

  • 役割:みいが滅三川について調べ始めるきっかけを与える存在であり、彼女の葛藤を象徴するキャラクター。物語終盤、みいに対して母としての愛情と責任を見せる場面が描かれる。

霧島 一輝(きりしま かずき) - みいの友人

  • 年齢:16歳

  • 性格:明るく社交的で、みいに対して親身になって支える存在。みいが抱える家庭の事情には気づいていないが、彼女の変化にいち早く気づき、心配している。

  • 背景:小学校からの付き合いで、みいにとって数少ない信頼できる友人。彼女が「くねくね」について調べ始めることを知り、気味悪さを感じつつも一緒に調査をする。

  • 役割:みいの精神的な支えであり、彼女が一線を越えそうなときに現実世界へと引き戻す重要なキャラクター。しかし、彼も「くねくね」の影響を受け始め、次第に異常な行動を見せるようになる。


「向こう側の住人くねくねと滅三川」


田んぼの向こうに、くねくねと揺れる白いものが見える。
風もないはずなのに、まるで自分だけが異質な存在であるかのように揺れ続けている。

最初は何か布か枝が、光を反射して見えているだけかと思った。
でも、どうしてもそれが「ただのもの」には思えなかった。

「あれ、見たらダメなんだって。」
小さい頃、婆ちゃんがそう言っていた。

田舎の村には色んな「見てはいけないもの」があるらしい。
そのひとつが、あの「くねくね。」
見た者は正気を失うという。

婆ちゃんはその話をするときだけ、いつもの陽気さが消えて、不気味なまでに真剣な目をしていたのを覚えている。

「くねくねを見たらどうなるの?」
私が好奇心いっぱいで尋ねたとき、婆ちゃんは少し目を伏せ、声を落とした。

「魂を奪われるよ。まっすぐ歩けなくなるんだ。」
その言葉がずっと耳に残っている。

そんな忌まわしいものなら、普通の人間なら見ないでいようと思うだろう。
でも、私はどうしてもあの白い揺れに目が釘付けになってしまう。

なぜなら、私の中には他の子にはない一種の疑問が常にあったからだ――「私のお父さんは、本当に人間なのか?」
おかしな質問だろう。
でも私には真剣な疑問なのだ。
私の「お父さん」とされている義父、滅三川。彼は母親と再婚してから我が家に入り込んだ。
穏やかで優しい表情をしていることもあるけれど、時折、何か別のものが目の奥で光っている気がする。
彼が普通の人ではないかもしれないと感じるのには理由があった。

あの人は、何度か「死んだ」はずだからだ。

最初は信じられなかった。

心臓発作で倒れたと思ったときも、事故に遭ったと聞いたときも、いつの間にか元気な姿で戻ってくる。

医者にさえ「驚異的な回復力」と驚かれていたけれど、私には何かがおかしいとしか思えなかった。

その不信感が、いつしか恐怖へと変わっていった。
彼は何度でも蘇る。
そのたびに彼は、「くねくね」のように私の心を揺さぶり、不安をかき立てるのだ。

私が「くねくね」の正体に興味を抱き始めたのは、滅三川が家に来てからだったのかもしれない。

最初の頃は、ただ母さんが連れてきた新しい「お父さん」だと思っていた。
いつも穏やかで、優しくて、口調も柔らかい。けれど、彼の目はいつも少しだけ冷たかった。

それでも小さな違和感に過ぎなかったはずだ。

普通なら、気にしないで流していただろう。

だが、一度母さんと滅三川が真夜中に何か話しているのを聞いてしまった。
そのときの母さんの声――震えていて、何かを必死で訴えかけるような声。

聞き取れた言葉はほんの少しだけ。「…あなた、何者なの?」
それ以来、私は滅三川をまともに見ることができなくなった。

朝ごはんのとき、夕食のとき、母さんと彼が並んで座る姿に、何か恐ろしいものを見ているような気がして目を逸らしてしまう。

けれど、いつも視線を感じるのだ。

彼の無表情な視線が、まるで私を試しているかのように。

ある日、ふとした衝動で村の図書館に足を運んだ。
滅三川について、少しでも手がかりを探したかった。
家にある写真や書類には、彼がこの村に来る前のことは一切書かれていないのだ。

図書館で古い書物を漁っているとき、ある名前が目に飛び込んできた。
「滅三川」
まさかとは思ったが、その名は本の一節に確かに記されていた。

それはこの村に伝わる、古い言い伝えのようだった。

「滅三川と名乗る者すべて異なる世の人間也。丁重に扱う可。」
読み進めるほどに、背中を冷たいものが這い上がってくる感覚がした。
「異なる世」……つまり、この世のものではない、
という意味だろうか。

そんな馬鹿げた話が現実にあるはずがない。
だが、なぜかその言葉が頭から離れなくなった。

もしかしたら、あの目の奥に潜む冷たさも、彼の異様な回復力も、何かこの世の理から外れた存在だからなのかもしれない。
滅三川が家に住み始めてから、私の生活は少しずつ歪み始めた。

まるで微かに狂った音叉が、私の周りで鳴り続けているかのような不協和音が、生活の隅々にしみ込んでいく。

例えば、学校でのこと。以前は普通に友達と話したり、笑ったりしていたのに、今ではどこか距離を感じてしまう。

何かが私を変えてしまったみたいだ。友達も気付いているのかもしれない。昼休みにふと気が付くと、皆が少しずつ私から離れていくように感じる。

彼女たちの目に映る自分がどんな風に見えているのか、考えるのが怖くて、言葉も思うように出なくなった。

家に帰ると、滅三川がいる。

母さんと話している声が遠くから聞こえると、無意識に足が止まる。
彼がいなかった頃は、もっと笑い声や冗談が飛び交う家だった。

母さんはいつも明るく、私の話をじっくりと聞いてくれて、頼もしかったのに、今は……母さんの表情も、声も、影を帯びているような気がする。

私は階段を上がり、自分の部屋へ逃げ込むようにドアを閉める。
そして窓から、田んぼの向こうをじっと見つめることが増えた。
くねくねはまだそこにいるのだろうか。

あの日と同じように、風もないのに揺れ続けているのか。

私は携帯を取り出して「くねくね」の噂について調べてみる。
ネット上にはいくつもの都市伝説や体験談が溢れていて、その内容はほとんどが同じだ。

「正体を知ると正気を失う」「見るだけで魂が奪われる」など、聞けば聞くほど不安になる話ばかり。
けれど、知りたい気持ちは消えない。

もし、「くねくね」の正体が分かれば、滅三川についても何か手がかりがつかめるのではないか。

そう思うと、恐怖よりも好奇心が勝ってしまう。

その夜、私は夢を見た。広がる田んぼの真ん中に立って、目の前にはあの「くねくね」がいた。

揺れている……私は一歩ずつ近づいていく。どこかから「見てはいけない」という声が聞こえる気がするが、足が止まらない。そして、くねくねが私の方に向かって近づいてくる――目が合った瞬間、冷たい汗が吹き出し、全身が硬直する感覚で目が覚めた。

目を開けると、滅三川が部屋のドアの前に立っていた。

「みい、大丈夫か? 何か怖い夢でも見たのか?」
その声が優しげであるほど、私の恐怖は募っていった。

あの夢はただの夢ではない――そんな気がしてならなかった。私は返事もできず、ただ彼の背中が遠ざかるのを見つめていた。

夢を見てからというもの、私は「くねくね」に引き寄せられるように、その存在が気になって仕方がなくなってしまった。

夜も眠れず、布団の中でただ田んぼの向こうの闇を想像しては、滅三川の顔が頭にちらつく。

あの無表情な目、その目が私を試すように冷たく見つめてくる気がして、眠りにつくことができない。

そんなある日、学校が終わったあと、自然と私は田んぼに向かって歩き出していた。

陽が傾き、田んぼ一面が茜色に染まる中、あの場所へ行かずにはいられなかった。
怖さと興味が入り混じり、足が勝手に進んでしまう

田んぼの道を歩いていると、風が不意に吹いてきて、私の髪を揺らした。心臓が高鳴る。遠くに見える、白いくねくねと揺れる何か。

それがただの草なのか、それとも噂通りの「くねくね」なのか、確かめずにはいられない。

足は少しずつ、確実にその「くねくね」に向かって進んでいく。

「大丈夫、ただの揺れてるものにすぎないんだから。」
自分にそう言い聞かせても、緊張で呼吸が浅くなる。

誰かに見られているような感覚に背筋がぞくりとするが、周りには誰もいない。ただ、私と、揺れる「くねくね」だけ。

距離が縮まるにつれ、視界の片隅にその姿が徐々にはっきりと映る。白い影が、風もないのに左右に揺れている。

少しずつ、形が人のようにも見えてきた。心臓の音が耳の中で響き、喉が乾いて、足が止まらない。

「見てはいけない……。」
ふと、頭の中に婆ちゃんの声がよみがえった。

しかし、その声を振り払うように、私は一歩、また一歩と近づいていく。
そのときだった。風の中に何か不気味な声が混じって聞こえた。

耳鳴りがするかのように低く響く音が、田んぼ一面に広がっているように感じる。

そして、私の目の前にはっきりと映し出されたのは、白く揺れる「何か」――。

それはまるで、人の顔のない形をした影が、ただ揺れているだけのようにも見えるが、目が離せなくなる。

目の前で、何かが崩れ落ちるような、異質な感覚が全身を包んでいく。

「……みい?」
突然、後ろから声がして、我に返った。

振り返ると、そこに立っていたのは滅三川だった。
彼の顔には微笑が浮かんでいるが、その目には冷たい光が宿っている。

「お前、くねくねのことを調べていたな?」
私の心臓が凍りつくような感覚があった。

彼が私の行動を知っていた――そして、くねくねの正体についても何か知っているのだろうか。

私は言葉を失い、ただ彼の顔をじっと見つめるしかなかった。


「お前、くねくねのことを調べていたな?」
滅三川の声が耳に冷たく響く。

私は息を飲んだまま、返事もできずに彼の顔を見つめ続けた。暗く染まる夕焼けの光が、彼の顔を不気味に照らしている。
その冷たい微笑が、どこか人間らしくない。

いつもは見慣れた彼の顔が、突然、何か別の存在に見えてくる。
「どうして、知ってるの?」
ようやく出てきた私の言葉は、震えていた。

滅三川は微笑みを崩さずに、ゆっくりと私の方へ一歩近づく。
「みい、お前は知りすぎているんだ。くねくねのことをこれ以上知ろうとするのは、危険だぞ。」
その言葉が妙に引っかかる。

私がくねくねを調べていることを知っていたのは、偶然なのだろうか?いや、違う。彼が私を探っていたとしか思えない。

「滅三川さん、あなたは……。」
言いかけた私の言葉を、彼が遮るようにして近づいてくる。

まるで「お前の考えなんてお見通しだ。」とでも言いたげに、優しげな顔を装っているが、目は鋭い。

「お前が知るべきことは何もない。ただ、無邪気な少女のままでいるのが一番なんだよ。」
その言葉が突き刺さる。

無邪気な少女でいる――つまり、黙って何も疑わずに生きていろということだ。
私は怒りと恐怖にかられながら、必死で冷静さを保とうとする。

「でも、あなたのことも、くねくねのことも、何か知っている気がするんです。私を……何かから遠ざけようとしているんじゃないんですか?」

彼は一瞬、何かを思案するように目を伏せたが、すぐに顔を上げ、静かに笑った。
「知りたいなら教えてやるさ。ただし、その代償を払う覚悟があるのならな。」
その言葉に、私の背中に冷たい汗が流れた。

代償……それは一体何を意味するのだろうか。

怖さで足が震えているのに、どうしても「教えてほしい」という言葉が喉元まで出かかってしまう。

「……教えてください。」

勇気を振り絞って答えると、滅三川は満足そうにうなずいた。
そして、私に一歩近づき、耳元で囁くように言った。

「くねくねは、ただの幻ではない。そしてお前がそれを見ている限り、後戻りはできなくなる。」
彼の言葉に、胸がどんどん締め付けられていく。

くねくねがただの幻ではない? その言葉の意味を理解しきれないまま、頭の中には不安と恐怖が渦巻いていた。
滅三川はふと私から視線を外し、遠くの田んぼの向こうを見つめた。
その目は何かを懐かしむようにも、あるいは見えないものを見つめるようにも感じられた。

「みい、お前がその正体を知れば、戻れない。今ならまだ、無邪気でいられるんだよ」
その言葉は脅しのようでもあり、警告のようでもあった。

だが、私にはそれがどこか温かさを帯びた言葉のようにも聞こえた。

私は心のどこかで、この人が何か重大な真実を知っていることを感じたが、同時に、それを聞いた瞬間に取り返しのつかないことが起きるとも思っていた。
「わかりました。でも、私は知りたいんです。」
彼が再び静かにうなずく。

その目には私を見透かすような冷たい光が宿っている。それでも、私は覚悟を決めた。

滅三川に「覚悟はできているのか?」と尋ねられたその日の夜、私はどうしても眠れなかった。
彼の言葉が頭の中で渦を巻き、まるで暗い影のように私の意識に絡みついてくる。

「くねくね」の正体を知ることで、戻れない場所に行ってしまう――そんな言葉がずっと耳に残っていた。

夜中、静まり返った部屋の中で、ふと窓を見やると、外には薄暗い月明かりが田んぼをぼんやりと照らしていた。

その向こうに、再び「くねくね」が揺れている気がして、どうしても目が離せなかった。

「…やっぱり、確かめないと。」
気づけば私は布団を抜け出し、寝巻きのまま外へと向かっていた。

深夜の冷たい空気が肌にしみるが、怖さよりも「知りたい」という衝動が勝っていた。

田んぼのあぜ道に立つと、田んぼの向こうにぼんやりとした白い影がうごめいているのが見えた。

それは風に揺れる草の影などではなく、はっきりと人型のような形をしていた。

揺れながら、時には手招きするようにも見え、私を誘っているように思えた。
「みい、見てはいけない…。」

祖母の声が頭をよぎるが、私はその声を無視して、白い影へと足を進めた。
次第に、その影がどんどん大きくなり、周囲の暗闇に溶け込んでいるように感じる。

目の前で「くねくね」が揺れる様子がはっきりと見える。

細い体が何かに取り憑かれたように不規則に動き、まるで狂った舞を踊るかのようだった。
「……。」
私は声を出すことができなかった。

恐怖に足がすくんで動けなくなり、ただ目の前で繰り広げられるその異様な光景に見入ってしまう。

頭の中で何かが「これは見てはいけないものだ」と警告していたが、目が離せない。

突然、背後から冷たい手が肩に触れた。
「みい、振り返るな。」
振り返るな――その声に従うしかなかった。

滅三川の声だ。彼が私の肩をしっかりと押さえているのがわかったが、どうしてこんな時間に彼がここにいるのか、考える余裕もなかった。

「今、目の前にいるのは、お前の知りたい存在だ。」
滅三川の言葉に、私はぞっとした。

くねくねの正体が、ついに目の前にある。
それでも、どうしてもそれを直視する勇気が湧いてこない。足ががたがたと震え、冷や汗が背中を伝って流れる。

「みい、まだ間に合う。これ以上知ろうとするな。」
滅三川が何度も忠告するが、私はその言葉を振り払うように、必死で立ち向かおうとしていた。

「見ないといけない、知りたいんだ。」という思いが、頭の中で響いている。

しかし、その瞬間、くねくねの形がぼやけ、さらに不気味に揺らめくようになった。

揺れが徐々に激しくなり、まるで影が自らの形を捨てて、何か別のものに変わろうとしているように感じた。

「…それでも、見たいんです。あなたが隠していることを。」
私がそうつぶやくと、滅三川は肩を押さえていた手を放し、冷たくため息をついたように思えた。

「なら、覚悟しろ。」
彼のその一言とともに、目の前の「くねくね」が私の視界いっぱいに広がった。

それはただの幻ではなく、私を飲み込むために揺れ、渦巻いているように感じた。

そして、次の瞬間、視界が真っ暗になり、意識が遠のいていった――。

意識が戻ったとき、私はひんやりとした地面に横たわっていた。

目を開けると、周囲は真っ暗で、まるでどこか別の場所にいるような感覚に襲われた。
頭の中で、先ほどまでの出来事がフラッシュバックする。
「くねくね…。」
その言葉が頭の中でこだまする。

どうしても目をそらせなかった。

あの白い影、その揺れが強烈に私の中に残り、目を開けた瞬間に、再びその姿が脳裏に浮かんだ。

恐怖がじわじわと湧き上がり、冷たい汗が額ににじむ。
何が現実で、何が幻なのか、わからなくなりそうだった。

だが、最も恐ろしいのは、あの存在が私を見つめていたような気がすることだった。

「あの場所には、もう戻らないほうがいい。」
滅三川の声が再び頭の中に響いた。

私は思わず身体を起こし、その声の源を探すように辺りを見回す。しかし、周りには誰もいなかった。
その時、ふと足元に何かが触れた感覚がした。

恐る恐る下を見やると、地面には白い粉のようなものが広がっていた。

手を伸ばしてその粉を指でつまむと、それはまるで砂のように細かく、指の間からこぼれ落ちる。

そして、その粉の中に、小さなものが埋まっているのに気づいた。
それは、古びたメダルのようなものだった。

よく見ると、そこには奇妙な模様が彫られている。
これが何なのか、どうしてここにあるのか、全く分からない。だが、私は何か重要なものを見つけてしまったような気がした。

突然、背後で乾いた音がした。振り返ると、滅三川が立っていた。
彼は私をじっと見つめ、そして一歩前に進み出た。

「もう、やめろ。これ以上知ろうとするな。」
その言葉が、まるで氷のように私の心に冷たく響く。

どうして、こんなに強く言うのか。滅三川の顔には、恐怖とも怒りとも取れる複雑な表情が浮かんでいた。

「私が知りたいのは、あなたが隠していることだ。」
私は震える声で言った。

その時、自分がどれほど危険なことをしているのか、分かっていないわけではなかった。

しかし、くねくねのこと、滅三川のこと――すべてが繋がっている気がして、どうしてもその答えを知りたかった。

滅三川は目を閉じ、深い息をついた。
その表情は、私を止めたくてたまらないが、何かを覚悟したようにも見えた。

「お前が知りたければ、知るがいい。だが、それには代償が伴う。」
彼はそう言うと、手に持っていた何かを差し出した。

それは、あのメダルに似たものだったが、こちらのほうがさらに古びており、黒い文字が刻まれていた。

「これが、くねくねと呼ばれるものを引き寄せるものだ。
これを持つことで、お前はその真実に辿り着くことができる。

しかし、お前がその力を求めるなら、もう後戻りはできない。」
私はその言葉を聞きながら、手に取ろうとした。

その時、ふと気づくと、辺りの風景が変わり始めていた。
霧が立ち込め、周りの音が遠くなるような感覚。

足元がふわふわと浮いているようで、現実からどんどん引き離されていくような気がした。

そして、目の前に突然、くねくねが現れた。
その白い影が、まるで私に触れようと近づいてきている。
心臓が激しく打ち、冷や汗が流れ落ちる。

しかし、私はその場を動けなかった。目をそらすことすらできなかった。
くねくねは私の耳元で、何かを囁いている。

それは人の言葉ではない。

全身が震える中、私はその言葉を理解しようと耳を澄ませる。
「知りたいのか?」
その声が、私の耳の奥でこだまする。

冷たい感触が全身を包み、思わず息を呑んだ。

何もかもが、今や私を試すかのように感じられた。
あの白い影が私に近づいてきた時、私は全身が凍りついたように動けなくなった。

目の前で「くねくね」が揺れるたびに、頭の中にその奇妙な音が響く。まるで私の体内に何かが浸透していくような感覚がした。
その瞬間、ふと気づいたことがあった。

この存在に近づいていくほど、私の意識がどんどん曖昧になり、体が重くなっていく。
それが恐怖を超えて、どこか吸い込まれていくような心地に変わった。
「これが…くねくねの力なのか?」
呟いた声が風にかき消される。

私はどうしても目をそらすことができず、その揺れに引き寄せられていった。
その時、滅三川の声が耳元で響いた。
「お前は、もう止められない」
私はすでにその時点で、自分が引き返せない場所に来ていることを悟っていた。

しかし、好奇心と恐怖が入り混じった複雑な感情が私を動かし、手に取ったメダルの感触がどこか冷たく、遠くから来る重圧を感じさせた。
「あのメダルは、お前がくねくねに引き寄せられるために必要なも
のだ。」
滅三川の言葉を思い出す。

だが、それを使えば何が起こるのか、私は完全には理解できていなかった。
だが、もう遅い。すでに私はその力に囚われている。

そして、くねくねがさらに近づいてきた。
その姿が、白い影から次第に黒い影に変わり始めた。

形がどんどん崩れていく。まるで私を呑み込もうとするように、どこか歪んでいく感覚がした。

その時、急に背後から衝撃的な音が響いた。
振り向くと、滅三川が私の腕をつかんで引き寄せていた。
その力強さに驚く間もなく、彼は無言で私を引き寄せ、急いでその場を離れようとした。

「行かないで!」
私は必死に叫んだ。

その声が、くねくねに響いているような気がした。

しかし、滅三川は無言で私を引っ張り、暗闇の中へと走り出した。

私の視界が次第にぼやけ、全身に冷たい震えが広がる。
必死に振りほどこうとしたが、滅三川の力は強く、身動きが取れなかった。

「お前はもう、彼らの手のひらの上だ。」
彼の言葉が耳の中で響く。

私はどうしても自分がどこへ向かっているのかが分からなかった。
くねくねの力を受け入れてしまった私が、どこへ行こうとしているのか。

急に、足元がふらついて、私はその場に膝をついた。
暗闇の中で何かが動く気配がし、背筋に冷たいものが走った。

振り向くと、今度はただの影ではなく、くねくねがはっきりと形を見せていた。
目の前に広がるその姿は、私が今まで見た中でも最も恐ろしいものに感じられた。

「もう…逃げられない…。」
その言葉が私の口から漏れたとき、くねくねが一歩前進した。

私の体が動かなくなる。目の前に見える黒い影が、次第に私に近づいてきた。
滅三川は私を守ろうとしているのか、それとも自分のために動いているのか分からない。ただ、彼の顔がどこか不安げに見えた。

「お前が知りたいことを知る代償は、こんなにも大きい。だが、それでもお前はその答えを求めるのか?」
その言葉に、私は何も言えなかった。

くねくねの目が、まるで私の心を覗き込むように見つめている。

私は震えながらも、その存在に抗うことができず、目を閉じてしまう。
目を閉じた瞬間、すべてが静寂に包まれた。
まるで世界から音が消え去ったかのように、私は無音の空間にいるような気がした。

けれど、それはただの錯覚ではなかった。
くねくねが私に迫っている。

目の前の黒い影が、ゆっくりと、そして確実に私を取り込もうとしていることは、確信していた。

体が硬直して動かない。心臓の鼓動が異常に大きく、耳元で鳴り響いていた。

滅三川が私を守ろうと必死に引き離そうとしているのを感じた。

しかし、どれだけ力を込めても、くねくねの力には到底及ばなかった。彼の手が震え、力尽きていくのが伝わってきた。
私はその感覚に身を任せるしかなかった。

「どうして…どうしてこんなことに…。」
その言葉が、私の口から漏れた。

私は何度も繰り返していた。
あのメダルを手に取ったこと、あの白い影を見たこと――すべてが私の選択だった。

自分がその存在に引き寄せられてしまったのは、他でもない私の意思だったのだ。

滅三川は何かを呟いていたが、その声が徐々に遠くなっていく。

彼の姿が霞んでいき、私はただその闇の中に吸い込まれていく感覚を味わっていた。

まるで、暗闇の中に引き込まれ、無限の深みへと落ちていくようだった。

「お前を救う方法は、もう残っていない。」
滅三川の声が、あまりにも冷たく響く。

私はその言葉を受け入れざるを得なかった。くねくねの力に引き寄せられ、もう後戻りはできないのだ

その時、目の前で突然、白い光が現れた。
私は思わず目を見開き、その光に手を伸ばそうとしたが、どうしても届かなかった。

光は瞬く間に消え、代わりに冷たい影が私を包み込んだ。
私の中で、何かが切れたような感覚がした。何か大切なものが壊れてしまった。私は全てを失ったかのように感じた。

その時、耳元に再び滅三川の声が聞こえた。「もう…遅い。」
私はその言葉を噛み締めながら、視界が徐々にぼやけ、意識が薄れていくのを感じた。

身体の感覚がなくなり、ただ虚ろな世界に引きずり込まれていく。

そして、すべてが静寂に包まれ、私は消えたような感覚に襲われた。

私の意識が完全に途切れる直前、遠くからかすかに響く声が聞こえた。

それは、滅三川のものだったのか、あるいはくねくねのものだったのか、区別がつかなかった。

けれど、その声が私を引き戻してくれるように感じた。

「お前の中にまだ、何かが残っている。まだ、間に合う。」
その言葉が私の心に突き刺さった。

私は必死に意識を戻そうとした。

何度も何度も目を閉じ、頭を振り、もう一度あの光を感じたかった。その感覚が私を呼び戻してくれるような気がした。

すると、急に、手のひらに温かい感触が戻ってきた。

まるで自分が再び生きていることを証明してくれるような温かさ。私はその感触を手がかりに、意識を取り戻した。

目を開けると、暗闇の中に滅三川が立っていた。
彼の顔には今まで見たことがない、どこか困惑したような表情が浮かんでいた。

彼は私の目をじっと見つめ、深いため息をついた。

「お前は、もう助からないと思っていた。」
私は言葉を返すことなく、立ち上がった。

くねくねの影が再び私を取り囲み、その不気味な動きが私の周りでくねくねと揺れていた。だが、今の私は違っていた。

私は恐れない。もう、恐れることはない。
「滅三川…私は、まだ戦える。」
その言葉を口にした瞬間、私の体が再び動き出した。

恐怖に支配されることなく、くねくねに立ち向かう意志が湧き上がってくる。

私は胸の中で、それまでの恐れや絶望を振り払い、まっすぐに前を見据えた。

「くねくね、お前にはもう負けない。」
私の声は、くねくねの揺れにかき消されることなく、はっきりと響いた。

周囲の空気がひときわ重く感じられ、足元が不安定で、何度も転びそうになったが、私は踏みとどまった。

滅三川が近づいてきて、私に向かって静かに言った。
「お前にはもう選択肢がない。しかし、もしそれでもお前が進むなら…お前が背負うものは重いぞ。」
私は目を閉じて深呼吸をした。

くねくねの揺れが、私の中の冷静さを試しているようだった。だが、私は何も恐れず、心を強く持ち続けることを決めた。

その瞬間、私はかすかな光を見た。
それは最初に見た白い光だった。

あの光が今、私に再び現れたのだ。私はその光に向かって駆け出した。

くねくねが私を迎え撃つように揺れるが、その揺れが次第にゆっくりとしたものになり、やがて止まった。

その瞬間、私はその光の中に足を踏み入れ、全身がその光に包まれた。

「これが、私の選択だ。」
私の声が空間に響き渡り、全てがひとつに集約されたような感覚に包まれた。

そして、その光の中で私はくねくねを超えて、未知の場所へと足を踏み入れた。

滅三川が静かに言った。「お前は、選んだんだな。」
その言葉が私に力を与えてくれるように感じた。

私はこの瞬間、全てを超えて新たな世界に踏み出す覚悟を決めたのだ。

クライマックス:最終決戦

その後、私はくねくねを超える力を手に入れ、最終的には滅三川との対決が待ち構えていた。
彼は私が進む道を閉ざそうとするが、私はもう一歩も引き下がらない。

「私を止められない」と、心の中で確信を持ち、私はついに滅三川と直接対決する時が来た。

だが、滅三川はただの障害ではなかった。彼が示す真実は、私が知らなかった世界の扉を開く鍵となる。

彼との戦いの末、私はついにくねくねの影を完全に打ち消し、その力を制御できるようになった。

しかし、その代償は大きかった。私は自らの中にあった恐れや悩みをすべて飲み込み、次の世界へと進んでいく。

私が目を開けたとき、全てが静まり返っていた。
周囲の空気は、先ほどまでの不穏さが嘘のように穏やかで、まるで世界が私の選択を受け入れたかのようだった。

くねくねの影は、もはやそこに存在していなかった。何もかもが、薄れた霧のように消えていった。

しかし、それはまだ終わりではない。
私の前には、まだ滅三川が立っていた。

彼の顔は静かで、どこか悲しそうに見えた。
「お前は…すべてを背負ったのだな。」
その言葉が、私の胸に重く響いた。

今まで私は、恐れと向き合い、立ち向かうことでしかこの闇を越えられないと思っていた。

しかし、今感じるのは、恐れではなく、むしろ「解放」の感覚だった。
私が選び取ったのは、逃げることではなく、すべてを受け入れることだった。

「はい、私は進む。」
滅三川の目がわずかに揺れた。

その揺れは、私に対する警告ではなく、むしろ、何かを理解したような眼差しだった。

彼は口を開こうとしたが、何も言わずにそのまま沈黙した。

私はそのまま前に踏み出す。
くねくねの力が完全に消えたわけではないことを理解していた。

それでも、私は今やその力を恐れない。
私の内なる力が、その不安定な世界を超える鍵となることを確信していた。

「滅三川、私を止められるのはもうお前だけではない。」
私の言葉に、彼はただ静かに頷いた。

私が進むべき道は、ただの迷路ではなく、未知の世界への扉であることを、私たちは二人とも理解していた。

それが、私に与えられた最後の試練であり、同時に最後の解放でもあった。
その瞬間、目の前に無数の扉が現れた。

くねくねが消えた後、すべてが静寂に包まれ、まるで空間そのものが私を試すように、目の前に選択肢を突きつけてきた。

それらの扉の先に何が待っているのかは、誰にも分からない。

ただ、それぞれの扉が私に向かって開いていくような感覚を覚えた。

私はゆっくりと、その中の一つに手を伸ばす。
その扉を開けることが、すなわち次の世界への入り口であり、同時に過去のすべてを切り捨てることでもあった。

私はその覚悟を持って、扉を開けた。
扉を越えた先に広がっていたのは、見慣れた風景だった。
だが、その風景は何かが違っていた。

私は自分がかつて見たことのある、家の裏庭に立っていた。
そこに、私の家族がいた。母、父、そして私の昔の姿。
「みい…帰ってきたのね。」
母の声が耳に届き、私は思わず涙が溢れた。

長い間、私が追い求めてきた答えが、目の前に広がっていた。しかし、これは本当に私が求めていたものなのだろうか。
その瞬間、私は気づいた。

過去を取り戻すことが解放ではなく、むしろ新しい世界に踏み出すためには、過去を超えていかなければならないのだ。
私が背負うべきは、過去ではなく、未来だった。

「私は、もう帰れない。私は、進まなきゃ。」
そう言った瞬間、家の裏庭が徐々に色を失い、また暗闇に包まれていく。

母の姿も、あっという間に消え去った。私はその目で、はっきりと未来を見つめる。

私は振り返り、滅三川に向かって言った。「私は、この世界に残るつもりだ。」
滅三川が静かに頷く。

「お前の選択が正しいのか間違っているのかは、これからの時間が決めるだろう。しかし、もうお前は一人ではない。」

その言葉が、私の背中を押す。私はさらに一歩踏み出す。

そして、再び前を見据え、未知なる未来に向かって歩き出した。


エピローグ:新たな世界

みいは、ついにくねくねの呪縛を超え、未来へと進むことを決めた。
暗闇の中から光を見出し、過去の影に囚われることなく新たな一歩を踏み出した彼女は、もはや恐れることなく、自らの道を歩み続ける。
すべてを超えて、彼女は新しい世界で自分を取り戻すのだった。

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